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M-114 ジャガイモを収穫しよう


 客室のキングサイズのベッドで、蹴られた脛の痛みで目を覚ます。

 2人はまだ夢の中だ。起こさないように着替えを済ませると、装備ベルトを巻いて裏にある井戸で顔を洗う。

 冷たい水が気持ち良い。夏は過ぎているのだろうがまだまだ暑い日が続きそうだ。

 

 フレイヤの実家で過ごす休暇も半分が過ぎている。

 野菜洗い場の小母さんの数が減ったのは、隠匿空間で農業をするために移動したらしい。寂しくはなったんだろうけど、ネコ族の小母さん達だからねぇ。相変わらず岩佐話でいつも賑やかだ。


 リビングに向かうとイゾルデさんがコーヒーを入れてくれた。俺好みの薄いコーヒーをマグカップで入れてくれる。


「本当に困ってしまいます。まだ寝ているんでしょう?」

「実家に帰ったからだと思いますよ。それだけ気を抜けるんだと思います。エミーの方は、気疲れでしょうね。見るものすべてが初めてなんですから」


「そう言ってくださると助かります。今日はジャガイモの収穫なんですが、レイバンの友達が来ると思いますよ」


 友人同士手伝うのだろうと感心していると、イゾルデさんが笑みを浮かべる。

 友人? 必ずしも男とは限らないということかな。


「幼馴染なんですが、このまま行けば良いとシエラといつも話をしてるんです」

「先方は?」

「3つ先の農場の4女ですから、王都に働きに行くのが一般なんですけどね。ソフィーは何とか騎士団に入ろうとしてますけど、騎士団に入ると、そう度々は帰ってこれないでしょうからねぇ……」


「あら、今日も早かったのね」

 

 早く起こしてくれた張本人が現れた。顔を洗って軽いメイクをしているのだろう。俺と同じような短パンにTシャツ姿だ。

 俺を挟むようにして両隣に腰を下ろすと、今度はシエラさんがコーヒーを運んできた。俺のマグカップにも注いでくれたから、改めて砂糖を2個投入する。


「明後日の朝にやって来るそうです。騎士の強さを見せてやってください。自分達の腕に溺れて、他者を見下すところがあるんです」

「シエラさんがそれなりの腕と評価するなら、かなりなものですよ。何とか出来れば良いんですが」


「ファルコの首を落とせる騎士は、王都でも数えるほどですよ。私も楽しみなんです」


 適当にやったら怒られそうだ。

 アリスに剣の使い方を教えて貰おう。


「今日は、ジャガイモの取入れなんですよ」

「それは手伝わないといけませんね。エミーもどうだい?」


「もちろんです。普段食べているジャガイモですよね」

「汚れても良い服を着るのよ……、朝食後に選んであげる」


 フレイヤの言葉に、エミーが笑顔で御礼を言っている。

 イゾルデさんが笑みを浮かべてフレイヤ達を見ているのは、自分の子育てが間違っていなかったと思っているのかな。


 朝食を終えると、レイバンが外に出て行いく。

 迎えに行ったのかな?

 俺達がコーヒーを飲んでいると、ソフィーと同い年に見える女の子を連れて、リビングに入って来た。


「おはようございます!」


 イゾルデさん達に元気な声で挨拶をする。

 はつらつとした元気な娘さんだ。赤い髪をポニーテールにして、背中に流している。ツナギは汚れのシミが残っているけど、綺麗に洗濯をしているようだ。

 麦わら帽子を両手で持ちながら、俺達にも挨拶をしてくれる。


「貴方がレティね。レイバンの姉よ。こっちがリオ。騎士で男爵なんだけど、気にしなくても良いわよ。隣が、ウエリントン王国の元第5王女のエメラルダだけど、エミーと気楽に呼んでも問題なし。レイバンをよろしくね」


 レティが硬直してしまった。口元はアワワという感じで震えてるんだよね。


「僕の兄さんだし、兄さんのお嫁さんだから、遠慮はいらないよ」

「……よろしくお願いします」


 緊張を解しているレティに、レイバンが肩を叩いてもとに戻してくれた。

 小さな声でフレイヤに呟いているけど、ニヤニヤ顔で頷くのは良くないんじゃないかな。


「それじゃあ、私達も準備しましょう」


 2人で出て行ったのを見てタバコに火を点けると、イゾルデさんがポットに残ったコーヒーを注いでくれた。


「似合いだと思いますが?」

「私達もそう思っているんです。案外早くこの農場に来てくれそうな気がするんですよねぇ」


 その辺りはアレクにも相談しないといけないんじゃないかな?

 反対することは無いだろうけどね。

 アレクのことだから、ソフィーの事も考えているに違いない。

 

 フレイヤ達が着替えを終えたところで、俺達は外に出た。

 ソフィーの運転する自走車の台車に乗って、ジャガイモ畑に向かう。

 とはいえ、俺だってジャガイモの収穫なんてしたことが無いんだよなぁ。


「見えてきたわよ。あの畑なんだけど」

「ジャガイモはどこに?」


 エミーの言葉に、キョトンとした表情をしてフレイヤが俺達を見ている。


「まさか……、知らないの? ジャガイモは畑の土の中なの。う~ん、とりあえずやってみれば分かるわ」


 土の中? シャベルで掘るってことかな?

 やがて、自走車が畑の一角に止まる。すでにレイバン達が畑で何かを引っこ抜いていた。


「ああやって、茎を引っ張るとジャガイモが出てくるから、それをカゴに入れるの。

 引っこ抜くのはリオがやってね。私達はじゃがもをカゴに入れるから」

 バケツほどのカゴを荷台から下ろして、エミーに手袋を渡している。手荒れが気になるのかもしれないな。

 さて、始めるか。茎を持って引き抜けば良いらしい。


 畝に沿って最初の茎を引き抜いた。

 それほど苦も無く土から離れたが、根っこにたくさんのジャガイモが付いている。

 

「そう、それで良いわ。頑張ってどんどん引き抜いて行って頂戴!」

「了解、案外簡単だね」


 最初は簡単だった……。だが、100m程先まで畝が続いているんだよな。それがいったい何列あるんだ?

 だんだんと引き抜く力が弱って来るのが自分でも分かる。1つの畝を終えたところで、隣の畝をフレイヤ達の方に向かって引き抜いていく。

 

「あら終わったの? まだまだたくさんあるからね。たまに休憩するのよ!」


 エミー達は楽しそうにカゴにジャガイモを詰め込んでいる。途中に山盛りにジャガイモが入ったカゴが置いてある。豊作ってことかな? かなりの量になりそうに思うんだけど。


「お茶にするにゃ!」

 

 今度はネコ族の人達が少し大きな自走車に乗ってやってきた。

 ネコ族の伯父さんや小母さんが乗っている。一緒にやってきたネコ族の少年は俺と一緒に池で釣りをした少年だろうか。


 小母さんの大声で、作業を中断して自走車に皆が集まって来た。

 真鍮のカップで冷えたお茶を頂いていると、伯父さん達が1輪車にジャガイモの入ったカゴを集めている。引いてきた大きな自走車には俺が入れるような大きなカゴが3つ積んであった。


「出荷はあのカゴで行うの。騎士団が買い取る値段の半額以下なんだけど、出荷価格だからねぇ。兄さんがクロネルさんと相談して騎士団にも野菜を送ってるのよ。市販価格の3割も安いと喜んでくれたけど、ここでの出荷価格より遥かに高値だから助かるわ」


 途中の流通経費が掛からない、ということになるんだろうな。

 それを知ってるから、アレクが休暇のたびに別荘で魚を釣っているのかもしれない。

 アレクがいなかったら、ヴィオラ騎士団の食生活がかなり貧弱だったかもしれないな。


「簡単だけど、案外疲れるよ。まだまだ先が見えないんだよね」

「今日で終わるわけないじゃない。5列も行えば十分よ」


 とは言ってもねぇ……。

 俺達より遥かにレイバン達が進んでいるのが気になるんだよなぁ。

 ネコ族の子供達が、フレイヤの収穫した後を掘って小さなジャガイモをカゴに入れている。かなり取り残しているみたいだな。


「あれは気にしなくて良いわよ。少年達の取り分だから。あれを売って皆で分けるみたい」

「お小遣いを自分で稼ぐのか。だけど小さいジャガイモも美味しんじゃないのかい?」

「1カゴは届けてくれるからだいじょうぶよ。私も大好きなの」

 

 さて、再開するか。

 明日は午前中のお手伝いだからね。


 昼食を通りにシートを引いて頂く。

 サンドイッチにお茶の簡単なものだけど、青空の下で皆と頂く昼食は美味しく感じる。ヴィオラの甲板で食べる食事を何となく思い出してしまった。

 日が傾き始めたところで、本日の収穫は終わりを告げた。

 外にあるシャワーを使うと、タオルを巻いて客間に急ぐ。


「汚れたでしょう。明日もお願いね」

「ええ、もちろんです。だいぶ取れましたね」

「たくさん取れないと、暮らしていけないのよ。四季ごとに収穫があるし、手入れもしないといけないの」

「後継者がいない農家も出てくるということでしょうか?」


「家でも兄さんと私は農家ではないし、ソフィーだって出て行くでしょうね。でもレイバンが継いでくれそうよ」

「あの子も農家なんだろう? イゾルデさんが嬉しそうだったよ」


 うんうんとフレイヤが頷いている。フレイヤもレイバンの相手を見て安心してるんだろう。

 フレイヤ達の髪が乾いたところでリビングに向かうと、冷たいワインをイゾルデさんが渡してくれた。


「疲れたでしょう? 今日はジャガイモ料理になるけど、田舎料理だからがっかりしないでね」

「結構大変ですね。明日も続けるようですけど、申し訳ありませんが午後は……」


「シエラの方ね。大変でも見せてあげて。騎士の資格を得ても騎士になれるとは限らない。だけど軍では優遇してくれるはずだから」


 さすがに軍を相手にする海賊はいないだろう。だが、風の海なら狼の群れに遭遇することはあり得る話らしい。

 その時に無様な姿を見せれば、周囲の目も変わってくるだろう。

 慢心することなく、自分の腕を磨くようにシエラさんは伝えたいのかもしれない。

 

 奥の台所からレティの声が聞こえてくる。フレイヤは手伝わないとイゾルデさんが言ってたけど、息子のお相手が一緒に料理をしてくれるのが嬉しいのだろう。台所へとイゾルデさんが向かって行った。


「ただいま」との声と共にシエラさんが帰ってきた。手に持っているのは2本の木剣だ。

 テーブル越しのソファーに腰を下ろすと、2本の木剣をテーブルに乗せる。


「親も見てみたいと言ってるの。元軍人や騎士団の人らしいから、やはりファルコの首を狩れるという腕を見てみたいということなんでしょうけどね」

「ご期待に応えられるかは、相手次第ということになりますけど……」


「とりあえず、2本用意したの。リオ様はどちらを選びます?」


 テーブルの長剣を2本手に取る。バランスは良いな。刀身が70cmと1m近い物か。

 これなら短い方が持っている刀に近いけど……。


「両方使っても良いですか?」

「二刀流? 聞いたことはあるけど、それならこちらの長剣に短剣じゃないの?」


「何とか使えますよ。向こうが頷いてくれるなら、2人一緒でも構いません」


 シエラさんが大きく目を見開いて俺の顔を見ている。

 真剣ならまだしも木剣だからねぇ。俺も少し遊んでみたくなった。

 全くの初心者では困るけど、自分の腕を過信している相手なら十分に勝算があるんじゃないかな?


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