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M-113 お土産を喜んでくれた


 翌朝早くに朝食を済ませ、馬車を用意してもらった。

 カウンター近くにいた少年に荷物を運んでもらい、銀貨を1枚渡した。3人でどう分配するのかちょっと疑問が湧いたけど、嬉しそうに俺達の乗る馬車を見送ってくれたから、上手く分配するのだろう。


「実家は農業地区だから、到着は昼過ぎになるわよ」


 フレイヤがエミーに教えている。

 途中で軽い食事を取ることになりそうだ。前に出掛けた時には夕方近くになったように思えるんだけどね。陸港からは、近いのかもしれないな。


 10時前に休憩所に馬車を止めて、御者を交えてお茶を頂く。

 20分ほどの休憩を終えると、再び馬車が走り出した。

 周囲の建物がだんだんと低くなり、緑の割合が少しずつ増していく。次の休憩所で昼食をとるころには、並木に囲まれた農園が見え始めた。


 フレイヤの実家はもう直ぐに違いない。ランドマークの石柱らしきものも、そろそろ見えて来るんじゃないかな。

 3回目の休憩を取るころには、北に向かう通りの奥に、石柱が見えてきた。

 日が高いうちに、どうやら到着できそうだ。


 通りの一角で、フレイヤが御者に声を掛けて馬車を停めさせた。

 玄関口に続く入り口ではなく、野菜を出荷するための通り道の近くだ。

 馬車から先に下りて、フレイヤとエミーの手を取って下ろしてあげる。


「レイバン。こっちに来て手伝って頂戴!」


 3輪自走車で俺達を出迎えてくれたレイバンを呼び付けている。

 姉さんの特権なんだろうな。直ぐにレイバンが駆け寄って来るとフレイヤにハグしている。


「よく来てくれました。ずっと待ってましたよ」

 さすがに俺とは握手になる。

 エミーの前に行くと、やはり握手をしているな。


「荷物が多いんだ。こっちに自走車を回してくれないかな?」

「ちょっと待ってください!」


 レイバンが自走車に向かったところで、御者に料金を支払う。「途中で食事を……」と言って銀貨を余分に支払う。

 丁寧に俺達にお辞儀をすると、馬車を反転させて王都の中心部へと帰っていった。


「これが全部ですか!」

「ちょっと多くなってしまった。乗せられるかな?」


 どうにか荷物を載せ終えたところで、レイバンは先に母屋へ向かって自走車を走らせる。残った俺達はのんびりと歩こう。

 日差しは強いけれど、真夏ではない。それほど汗はかかないだろう。


 農園を見るのはエミーにとって初めてに違いない。あちこち眺めてはフレイヤに問い掛けている。

 さも、自分がここで生活しているように答えているから、笑みが絶えないんだよなぁ。


「ここは裏手なのよ。あれが納屋で2つあるのは、農業用の自走車の倉庫と家畜小屋があるからなの。

 向こうのログハウスは、農作業を手伝ってくれるネコ族の人達が住んでるのよ……」


 野菜の洗い場を通りすぎて、玄関口に続く道へと出る。

 レイバンが知らせたんだろう。玄関先には2人のお母さんとソフィーが俺達を出迎えてくれている。


「よくいらしてくださいました。リオ殿ならいつでも歓迎しますよ」

「しばらくご厄介になります。それで、こちらがもう一人の妻となったエメラルダになります」


「王女様と聞き驚きました。田舎の農家ですから、ご不便をおかけします事、お許し願います」

「エミーと呼んでください。フレイヤ様には色々とお世話になっております。こちらこそご迷惑をお掛けすることをお詫びいたします」


 互いに頭を垂れての挨拶を終えると、リビングに通してくれた。

 先ずは冷えたワインが運ばれてきた。

 前に来た時よりも、良いワインのようだけど無理しているんじゃないかな? 後でフレイヤから滞在費を渡して貰おう。

 俺からだと拒否されそうだけど、フレイヤなら強引に渡してくれそうだ。


「兄さん、運んでおいたよ」

「ありがとう。そうだ。2人にお土産があるんだ。ちょっと待ってくれよ」


 かつて知ったる母屋だ。客室に向かうと、壁際に荷物が綺麗にまとめてある。

 こっちとこれだな。ワインはバッグに入れておくか。

 

 改めてリビングに戻ったところで、レイバンにギターケースと紙包を渡す。

 ソフィーには2つの紙袋だけど、結構色々あったから1つに纏められなかったんだよね。


「ギター! 本当に、良いんですか?」

「レイバンが柵に腰を下ろしてギターを弾いたら、さぞや様になるんじゃないかと思ってね」

「ありがとうございます。母さんに強請ってたんですけど……」


 嬉しそうにケースを抱えて行った。早速自分の部屋で弾いてみるのかな?


「これって! 母さん、この間マーケットで見たものよりも良いものよ! ……これは?」

「記念に貰ったんだ。アレクの別荘近くの絵じゃないかな? 店員さんが書いたらしいけど、王立学院の絵画部門の生徒らしいから、将来良い値が付くかもしれないよ。それとイゾルデさん達にはこれになります」


 ワインを2本テーブルに置いた。

 嬉しそうに、奥に持って行ってくれたからその内飲めるかもしれないな。


「それにしても、良く2人の欲しかったものが分かりましたね。10日程前にマーケットに行った時に強請られて困ってたのですよ」


 大荷物を部屋に運ぼうとしているソフィーを見ながら、シレインさんが話してくれた。


「これを選んでた時に、たまたまリオが見つけたのよ。こっちがイゾルデ母さんで、こっちがシエラ母さんよ」


 2人に渡したのは薄手のドレスなんだけど、シースルーじゃないか! 良いのかな? と頭で2人の姿を想像してしまった。


「母様からお二方にお渡しするようにと、これを言付かりました」

 

 フレイヤがテーブルに乗せたドレスの上に、細いリングを1個ずつエミーが乗せた。

 直径5mmほどのブレスレットだが緻密な図案が彫られている。精密な工芸品であることが一目でわかる優れものだ。


「頂くわけには……」

「母様は、同じ母親同士受け取って頂きたいと……」


 フレイヤが欲しそうな目で手に取って見ているのが気になるなぁ。後で強請られないか心配になって来た。


「王妃様が身に着けていた物を頂けるとは、ありがたく使わせていただきます」

 

 次のパーティはちょっと気取って参加できるんじゃないかな。

 欲しくても手に入らないような品なんだけど、見掛けは細めのブレスレットだ。

 果たして気付く人がいるかどうか。それも楽しみということかな?


「北西で、同盟軍同士の大きな戦があったと聞いております。フレイヤ達の暮らす場所とはだいぶ離れてましたから、安心していたんですよ」


「実は……」

「私達も参加してたの! 凄い戦いだったわよ。大きな戦艦が、バンバン大砲を撃ってたし、砲弾を回避する艦船同士が衝突したりと見ていても握りこぶしが汗ばんだぐらい」


 やんわりと言うつもりだったけど、フレイヤに邪魔されてしまった。

 2人のお母さんが、大きく目を見開いてフレイヤの話を聞いてる。

 しばらくは何も言わずにいよう。

 エミーと一緒に、かなり誇張されたフレイヤの話を聞くことにした。


「……ということで、軽巡洋艦と戦機を褒美に頂いたの。今回の休暇は軽巡洋艦の艤装変更が終わったということもあるみたい」

「本当に起動要塞はあったのですねぇ。御伽話と思っていましたが」


「おかげで勝利をものにした、というところでしょう。過大な恩賞もそれに見合ったものと評価して頂いた結果だと思っています。とはいえ、大きいですからねぇ……、乗員が揃わない内は、近くに泊めてランドマーク代わりになってます」

「10日間、ここにいるけど、だいじょうぶでしょう?」


「だいじょうぶよ。シエラの方は、良い機会なんじゃない?」

「そうね。前回は無理だったけど、上級者には丁度良いかも。リオ殿。数人とお手合わせをお願いできますか?」


「構いませんが、真剣じゃありませんよね?」

「騎士同士は真剣ですが、私の教え子達ですから、木剣ですよ。治療魔法を私が使えますから、骨折なら何とでもなります」


 本来なら防具を着けるべきなんだろうけどねぇ……。木剣でも当たり所が悪ければ骨折ぐらいは起きてしまうんだろうな。

 将来は騎士を志す少年達の技量を見てみるか。


 夕食には間があるということで、エミーを連れてフレイヤは散歩に出掛けた。

 残った俺達3人はコーヒーを飲みながら、タバコを楽しむ。


「降嫁するまで目が不自由だったのですか! そうは見えませんが?」

「エミーにとっては、見るものすべてが新鮮なんでしょう。カテリナさんの治療のおかげで何とか視力を取り戻しましたが、それまではフレイヤが力になってくれました」


「機動要塞を旗艦にして指揮官をエミー様に据えるのは理解できますが、フレイヤを火器管制の統括にするのは……」

「適材適所が騎士団の基本です。フレイヤの指揮は適切ですよ」


 そうなのかしら? と2人のお母さんの顔に書いてある。

 過激なところがあることは認めるけど、案外慎重なんだよな。アレクも同じようなところがあるから、この農園を手伝うことでそんな性格が生まれたのかもしれない。


 嬉しそうな表情で、レイバンとソフィーがリビングにやってきた。

 腰を下ろした途端、2人揃って「ありがとう」と言ってくれたので嬉しくなる。


「友達のギターを弾いたことがあるけど、全然音が違うんだ。やはりモリダー製だけのことはあるよ」

「全部揃ってるの。明日のお手伝いが済んだら、直ぐ始めるつもり」

 

 嬉しそうにお母さんに話をしている。

 強請った物よりも品が良かったということなんだろう。店員さんのお勧めに従って良かったと2人に感謝した。


 直ぐに2人が出て行ったのは、夕食の献立に使う野菜を取りに行ったのかな?


 夕日が窓を染める頃になって、フレイヤ達が帰ってきた。

 広い農場だし、いろんな野菜を育てているからエミーも散歩が楽しかったに違いない。目が輝いている。

 その後にレイバン達が大きなカゴを持って現れた。

 取れたて野菜のスープだと思うと、笑みが浮かんでしまう。


「そうだ! あのギターを選んだぐらいだから、兄さんも弾けるんだよね。ちょっと待ってね。今持ってくるから!」


 俺の返事も聞かずにリビングを出て行ったけど……、さて、どうする?


『ギターでしたら、問題ありませんよ。今情報を転送します。10指の神経経路の再プログラミング……。完了です』


 できるってことか?

 レイバンが持って来たギターケースからギターを取り出して、軽く和音を鳴らす。

 何と! 和音の乱れも分かるし、弦の調整もひとりでに手が動く。


「これで良いな。最初は弦が延びるから調整はこまめにしないといけないんだ。1曲で良いだろう?」


 うんうんと頷くレイバンに、向かってギターを弾き始める。

 全く楽譜もみないで弾けるのに自分でも感心してしまうけど、これってフラメンゴじゃなかったか?

 右手の指が個別に意思を持ったように動き、細かな旋律を奏でるとシレインさん達も台所から顔を出して聞き入る始末だ。

 フレイヤが体を動かしているのは、遠い祖先にこのギターに合わせて踊った娘がいるのかもしれないな。

 最後に激しくギターをかき鳴らして演奏を終えると、リビング中に拍手が起こった。


「宮廷の音楽師にも引けを取りません。すばらしい演奏でした」

「やはり兄さんは凄いね」


 感心している中で、ソフィーが目を潤ませている。

 変なフラグは立っていないよね。


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