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M-112 アレクの実家に3人で行こう


 ヴィオラ艦隊が狩りの航海を2度済ませたところで、1か月の長期休暇が始まる。

 王都までは片道8日は掛かるから、実質の休暇は半分ほどだ。

 もっと速い輸送手段が欲しいと誰もが思うに違いない。


 どこから情報を仕入れたのか、カテリナさんも一緒だ。

 ヴィオラの空いている士官室に、俺達と一緒に納まって王都へと向かう。


「エミーは王宮に行くんでしょう?」

「ローザと一緒に父様にご挨拶です。離宮に一晩泊まりますが翌日の夕刻にはホテルに到着しますよ」


「次の日は、私の実家よ。王女様を連れて行くと言ったら、返事の手紙の文字が震えていたわ」

「今はフレイヤ様と同格ですよ。お気になさらないでくださいね」


 見物人は来ないんだろうな? ふとそんな思いが湧いてきた。

 農業区画に王族が来るなんて滅多にないことだろう。熱烈歓迎なんて横断幕があったら、直ぐに引き返してアレクの別荘へ向かおう。


 王都への航海は何事も無く、予定通りの日数で王都の陸港に到着した。

 エミーはローザ達と一緒に行くから、フレイヤと陸港のホテルへと向かう。

 ドミニクはクリスと別の桟橋に歩いて行った。艤装がそろそろ終わるらしいから、場合によっては隠匿空間に帰るときはクリスが軽巡洋艦を指揮することになるかもしれない。


「行ってくるぞ! 早く別荘に来いよ」

「兄さんこそ、たまには実家に顔を出すのよ!」


 通りで大声で言い合ってるから、周囲の注目を浴びてるんだよなあ。

 アレクを迂回してベラスコ達が先を急ぐ。お母さんにジェリルとの経緯を報告するのかな?

 ベラスコにはもったいないくらいの女性だから、お母さんも安心してくれると思うんだけどねぇ。


 兄貴に向かって、舌を出しているフレイヤの手を引いてアレク達と別れる。

 サンドラ達が手を振ってくれた。


「明日は買い物なんだろう?」

「そうそう、家族にお土産を買わないとね。リオも考えてね」


 急に言われても……、悩んでしまうな。

 今晩ワインでも飲みながら、ゆっくりと考えてみるか。


 ホテルのカウンターで部屋を確認すると、スイートが空いていた。2泊を予約し、近くにいた少年にトランクを預ける。銀貨1枚は少し多いと思うが。貴族の矜持は守らねばならない。


「お店を回りながら最後に食事をしよう。15時を回ったばかりだ。まだ夕食には早いよね」

「ん~。そうなると、こっちからね」


 最初から婦人服売り場に連れて来られるとは思わなかった。ちょっと場違いだから、店の外に置いてあるベンチで一服を楽しむ。

 俺と同じ境遇の男性が2人程いる。どこの男女も同じってことかな?


 周囲の店に目をやっていると、楽器店がある。

 アレクに良く似たレイバンは俺から見てもハンサムだ。

 周囲のお嬢さんに人気があるんじゃないかな? ギターを持ったレイバンは絵になると思うな。

 彼にギターができるかどうかは分からないけど、友人の中には出来る奴だっているだろう。

 あれにしよう!


 そうするとソフィーが問題だ。フレイヤから比べると大人しそうだけど、姉さんにだって意見を曲げない時もあるくらいだ。アレクの兄弟の中で一番のしっかりものかもしれないな。

 あちこちの店を眺めていると、画廊のような看板を見つけた。

 油絵を描くセットも良いかもしれない。

 最初から良い絵は描けないかもしれないけど、周囲には描くものがたくさんあるんじゃないかな。

 

 お母さん達2人には、美味しいワインで良いのかもしれない。フレイヤが服を選んでいるだろうからね。

 1時間程待たされて、ようやくフレイヤが外に出てきた。


「見つかったの?」

「とりあえずはね。次に行くわよ!」


 1軒じゃなかったのか!

 都合3軒を巡ったところで、本日は終了らしい。何も買わなかったから明日もめぐるのかな?

 

 18時を過ぎたところで、レストランを探す。

 騎士団や軍人も多いけど、酔客はまだいない。すれ違う騎士と軽く挨拶しながら、レストランを巡ることになった。


「ここが良いんじゃない! 海鮮料理はあまり食べられないもの」

「分厚いステーキが良かったんだけど……、明日にするか」


 扉を開けると、扉の上に付いた小さなベルが鳴った。

 若い男性が、俺達を案内してくれる。


「パエリアのセットで良いでしょう? ワインも付いてくるみたい」

「大きさは……、これで良いか」


 鍋の大きさが3人用らしい。値段が2種類なのは具材の質の違いかな? どうせなら良いものが食べたいし、ワインも別にしたいところだ。


 片手を上げると、店員がやってきた。

 料理を注文したところで、ワインのクラスを上げられるか尋ねると、直ぐに可能だと返事が返ってくる。2つ上を頼んで注文を終える。


 お土産をどうするかと話をしていると、料理が運ばれてきた。

 量の多さに笑みを浮かべる。

 セットと言うだけあって、サラダもやって来る。野菜ではなく果物ばかりだけど、これでもサラダと言うんだろうか?

 ワインのカップが運ばれたところで、フレイヤとグラスを合わせる。

 一口飲んでみると、甘口のスパークリングだ。

 甘いワインは良いワイン。この店を贔屓にしてやろう。


 フレイヤがパエリアを皿に取り分けてくれた。

 一口食べて、フレイヤと笑みを交わす。

 香辛料が少しきつく感じる。サラダが果物ばかりなのは、それを消すためかもしれないな。

 半ばまで食べた頃には、ワインが無くなってしまった。2杯目を頼み、残りを頂く。


 食事が終わると、濃いめのコーヒーが運ばれてきた。

 残った果物を食べながら、コーヒーを飲み終える。

 できれば、薄いコーヒーが良かったんだが、頼むのを忘れていた。

 ホテルに戻ったら、頂こうかな。


 会計を済ませるとホテルに向かう。

 今夜はフレイヤと2人だけだ。明日の朝、ベッドから蹴り落とされないように気を付けねばなるまい。

 

 翌日。目が覚めた俺の目の前は金色だった。

 フレイヤの髪だと分かったのは少し経ってからだ。

 しっかりとフレイヤを抱いていれば蹴られないんだが、フレイヤだけとはいかないからねぇ。

 フレイヤが起きるまでそのままベッドで過ごし、フレイヤが目をさましたところでシャワーを一緒に浴びる。


「エミーは夕食前に来るんでしょう? その前に買い物を終わらせないと」

「レイバンとソフィーのお土産は決めてあるよ。フレイヤが買い物を済ませればすぐに終わる」

「そうなると、あの2着かな……。レイバンとソフィーは決めてあるんだけど」


 兄弟と母さん達では、やはり少し違うのかな? レイバン達のお土産は何時決めたのか分からないけど、母さん達のお土産は自分が納得するまで選んでるみたいだ。


 どうにか2着を選び終えたところで、先ずは楽器屋へと向かった。

 自分で弾くことが出来ないから、店の親父に若者向けのギターを選んでもらう。独学になるだろうと話したら、教本と音叉を選んでくれた。


「弟にプレゼントかな? それなら、この曲集をおまけしてやるぞ」

「済みませんね。彼が柵に腰を下ろしてギターを弾く姿を想像しての衝動買いなものですから」


「なぁに、兄さんがそう思うんなら上手くなれるさ。初心者用と言っても、ギター作りでは王都指折りの奴が手掛けたものだ。ずっと使い続けられるよ」


 親父さんのリップサービスだろうけど、そう言ってくれる贈る方でも自信が持てるな。

 気前よく釣りを受け取らずに、次の画廊へと向かう。


「今度は画廊なの?」

「ソフィーに似合いそうだと思ってね」


 店の中には店員のお姉さんが1人だけだった。


「いらっしゃいませ。どんな絵をお探しですか?」

「油絵を描くための機材が欲しいんだけど……」


 大きなギターケースを店の入り口に置いた俺達に、店員さんが首を傾げている。


「お客さんが描くのですか?」

「いや、妹なら良い絵を描きそうだと思って来てみたんだ」


 途端に笑みを浮かべたのは、俺ではないということに安心したんだろうか?


「それなら、用意できますよ。最初から大きな絵を描くことは無いでしょうから、キャンバスはこれぐらいでしょうか……。三脚と椅子に、後は絵の具と筆のセットで良いかしら?」


 自分で確認するようにカウンターに次々と並べ始めた。最後に、もう1度確認して抜けが無いのを確認しているから、ちょっと怪しく思えてきたな。

 

「これでだいじょうぶの筈です。ちょっと待ってくださいね……」

 奥の扉を開けて、お姉さんが出て行ったが、しばらくして小さな紙包を手にして戻ってきた。

 カウンターの上で紙包を解いたら、使い込まれたパレットに綺麗な風景がが描かれていた。


「私、学園の美術課で学んでいるんです。昨年の作品なんですけど、良かったら部屋に飾ってください」


 パレットの端に小さく名前が書かれていた。『ファネル・K』、ファネルさんと言うんだ。このお姉さんが有名な画家になったらお宝になるんじゃないかな。

 一目見て、どこで描いたかが分かる。アレクの別荘のある岬のどこかに違いない。入り江越しに見える漁村がそっくりだ。


「この近くの別荘に行ったことがあるよ。雰囲気が良く出てる」

「そうですか! 自信を持っちゃうな」


 会計を済ませて外に出た時には、さてどうやって運ぼうかと途方に暮れる始末だ。

 近くの雑貨店でトランクキャリーを買い込み、荷物をホテルまでどうにか運んだ。

 

「お帰りなさい。凄い荷物ですね」

 

 エミーが駆け寄って来て、俺を軽くハグする。エントランスのソファーで、お茶を飲んでいたらしい。テーブル越しに座っていた若い女性は見たことがないけど、席を立って俺達に深々と頭を下げている。

 軽く頭を下げたんだが、いったい誰なんだろう?


「彼女は?」

「王宮の女性近衛兵です。私1人ではと母様が同行するよう指示してくれました」


 女性に近付くと、「ご苦労様でした」と言葉を掛ける。

「気になさらずに」と言いながら、俺達の荷物をカウンターに運ぶのを手伝ってくれた。

 それが終わると、俺達に深々と頭を下げてホテルを出て行ったけど、まさか歩いて帰るんじゃないだろうな?


 荷物をカウンターで預かって貰う手続きをしたところで、時計を見ると17時を過ぎている。

 少し早いが、夕食にしようかな。


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