M-110 軽巡洋艦と戦機を貰えるらしい
『ほう! リオ殿は、飛行機は飛行機で対抗すると考えておるのか?』
「はい。この世界で初めての空中戦闘を見ることが出来ました。互いに武装は30mm長銃、獣機の持つ銃を持ってたようです。両者がすれ違いざまに発砲しましたが、当たることはありませんでした」
たぶん照準器がいい加減だったこともあるだろうけど、2連装銃で2発だけというのも問題だろう。
照準器の円の中に数十発の弾丸を放てば、何発かは当たるんじゃないかな。
地上にレールを引いて、その上を移動しながら発射のタイミングや照準を合わせる訓練をしても良いだろう。
「それに現状の軍艦に、飛行機を打ち落とす手段がないことも問題でしょう。100機の敵飛行機を100機の味方飛行機が迎撃しても、全て撃墜することなど不可能です。
軍艦に近付く飛行機に対して、魔獣や大型の鳥を追い払う現状の防空対策では不足だと考えます」
銃を増やすことも必要だろう。上空を飛ぶ飛行機への射撃訓練だって出来るはずだ。
それに、大砲を利用することだって可能だろう。
「数ケム先の高度200ステム(300m)を飛んでくるんですから、その場所で大砲の砲弾を炸裂させることだってできるんじゃないですか?」
『時限信管ということか? 導火線の長さを変えるだけで可能じゃろうな。もっとも、魔方陣を組み込むなら時間は正確に設定可能だろう。おもしろそうじゃ、ワシが考えてみるぞ。
それにしても、リオ殿の相手は為になるのう。カテリナが羨ましく思うぞ』
「成果はお見せします。後継をよろしくご指導ください」
ガネーシャがコーヒーを運んできてくれた。
これでお開きになるのかな? 灰皿を引き寄せ、タバコに火を点けた。
「いつ、リバイアサンに行けるのですか?」
「次の補給船が来てからになりそうね。士官室や兵員室の整備もしないといけないし、商会にしても、食堂の運営はそれに合わせないと行けないでしょう?
退役軍人の先遣隊が到着次第というところかしら」
とりあえず荷物は纏めるように、カテリナさんが指示している。
リバイアサン用に輸送船2隻分の荷が運び込まれ、桟橋の倉庫に保管中らしい。
荷を運び入れても、それを移動したり配置する人間がいないことにはどうしようもない。
早めに先遣隊に来てもらいたいところだ。
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隠匿空間に戻って5日後。
ヴィオラとガリナムが狩りに出掛けて行った。
出掛けてから1時間後にアリスを使って周囲200kmの魔獣の分布を調査し、ヴィオラに届ける。
魔獣狩りの計画は、その分布図を基にアレク達と調整するのだろう。
毎日の日課になるが、これぐらいは容易いものだ。
10日間の狩りの内、2度ほど小さな群れをアリスで狩り取った。
チラノ型だから、見逃すことはできないな。後始末をガリナムにお願いいたから。得られた魔石は3者で山分けになる。
ヴィオラが2回目の航海を終えようとしていた時だ。いつもの周辺調査を行っていると、北上してくる艦隊があることに気が付いた。
『巡洋艦2隻に、軽巡洋艦1隻。駆逐艦3隻です。輸送船が5隻おりますから、隠匿空間への補給艦隊と推測します。仕官候補生の引き取りも兼ねているものと推測します』
「少なくとも輸送船1隻はリバイアサン向けだろうね。まだ倉庫に入るんだろうか」
空きが無ければ、リバイアサンの桟橋に並べておくほかなさそうだ。
少し1度に買いすぎたかな?
計画性が無いからなぁ……、困った話だ。
『艦隊から、ヴィオラ騎士団への通信を傍受。フェダーン様とヒルダ様が乗船しているようです』
「帰ったら、エミーに教えてあげよう。きっと喜ぶんじゃないかな」
1時間も経ずに隠匿空間の桟橋にアリスを着陸させると、フレイヤ達を探すことにした。桟橋にはいないようだから、散歩に出かけたんだろう。
桟橋近くに作った休憩所で、コーヒーを飲みながら帰るのを待つことにした。
休憩場の小さな売店を仕切っているネコ族のお姉さんに、2杯目を頼んでいると頃に2人が帰ってきたので、2人にはジュースをお願いする。
「帰ってたんだ! 今日は小川に沿って散歩してたの。それほど深くは無いんだけど、魚がいないのが不思議よねぇ」
「お花畑がいくつもあったんです。あの側に小さな家があったら素敵でしょうね」
一緒に行ってみようかな?
できればお弁当を持ってピクニックも良いかもしれない。
「ヴィオラが狩りを終えて帰って来るよ。明日の偵察が今回の狩りの最後になる。それと、王国軍の艦隊を見付けた。フェダーン様と一緒にヒルダ様も来てるみたいだ」
「お母様が!」
エミーの顔に笑顔が広がる。
視力が回復して俺達と同じになったことは、ヒルダ様も知っているはずだが、エミーは初めて母親の顔を見ることができるのだ。
目に涙を浮かべているのも分かる気がする。フレイヤももらい泣きしてるぐらいだ。
「明後日には確実だよ。場合によってはリバイアサンを案内することになるかもしれない。その時はよろしく頼む」
「もちろんです。でも……、客間がまだ完全ではありませんから」
「向こうだって知ってるはずさ。夕暮れ前にはここに戻るような見学になるはずだ」
俺達だってまともな暮らしができない状況だ。マイネさん達の部下が数人いればプライベート区画は何とかなりそうに思えるけど、俺達だけで生活するのもねぇ……。
ヴィオラが隠匿空間に入っていると、その後にウエリントン王国軍の艦隊が入って来た。輸送船の1隻はヴィオラ騎士団専用桟橋に停泊し、2隻は商会の運営する多目的桟橋に停泊する。
軍の専用桟橋も賑わっているようだ。いつの間にか桟橋を増設していたようだけど、それほど大きくはない。仮設桟橋ということだろう。それでも両サイドに陸上艦を停泊できるから運用艦船数が増えたことになる。
ドミニクからの招集を受けてヴィオラの会議室へと出向く。
フェダーン様達がやってきたから、その対応ということになるのかな?
「リオに協力してくれた報酬を持って来たと言ってたわよ。スクラップじゃないみたい」
「換金できるものが一番ですね」
俺の言葉にドミニクも苦笑いだ。やはり隠匿空間の維持はかなりお金が必要ということになるんだろうな。
「明日、私達と一緒に同席してくれないかしら。エミーも一緒なら、向こうも少しは手加減してくれると思うんだけど」
「リバイアサンの中の荷物の整理もしてくれましたし、乗員は王国の士官候補生ですからね。あまり欲を出すことはできません」
「本来なら、リオ達で良いんでしょうけど、私達を呼ぶからには、隠匿空間の利用にも絡んできそうだわ」
「それに対しては、断固断ることで良いんじゃないですか? 他の騎士団や軍の艦船が利用できるようになってます。本来なら俺達だけで利用しても問題は無いんですからね」
今更だと思うな。
軍や商会から見れば、専用桟橋の南に広がる草原が羨ましく見えるのかもしれないな。
「1つ提案を受け入れるのであれば、散策ができる場所に限って開放するぐらいでしょうか。
フレイヤ達と小川に沿って散策したんですが、あちこちに花畑が合って、結構楽しいですよ。
我等の計画もありますから、全て出入り自由とはいかないでしょうが、商会、軍共に陸上艦の乗員をリラックスさせることができる場所は無いようですね」
公園区画ということになるのだろう。散策路とベンチを設けるぐらいで十分じゃないかな。
その一角に喫茶店でも作れば利用者にも喜ばれそうだ。
だけど、畑だってあるし、果樹園を作ろうなんて計画もある。
さらに来客対応のログハウスの計画もあるんだよなぁ……。一度、全体計画を見直すことも必要かもしれないぞ。
翌日。朝食を終えた俺達は、レイドラの運転する自走車に乗り込んで軍の駐屯区画へと向かう。
いつの間にか柵が作られている。さすがに陸上艦の出入り口は広くなるから警備兵が立っているだけのようだ。
そのまま入って行こうとする俺達を警備兵が停止させる。
つかつかと銃を構えて歩いてきた兵士が用件を訪ねてきた。
「フェダーン様の招待で巡洋艦へと向かうのですが」
「リオ閣下でしたか! 失礼をお許しください。迎えの者が待機していますので、ここでお待ちください」
近くの小さな警備建屋に走っていくと、直ぐに自走車が俺達のところに現れた。
乗っていたのは、あの時の若い士官だ。
「お久しぶりです。私の後に付いてください」
自走車から下りて俺達に騎士の礼を取ると、再び乗り込んで走り出した。
飛ばすわけではないから、ゆっくりとレイドラが運転している。
どうやら一番奥に停泊しているようだ。
桟橋を回り込むようにして巡洋艦の良きに向かうと、舷側の一部が開いている。
舷側から斜路が延びて、数人の兵士が警備に立っている。
2人も御妃様が来ているからだろう。かなり厳重な警備体制を敷いているようだ。
「ここからは歩くことになります。リオ閣下はまだ覚えておられるでしょうが、会議室にご案内いたします」
自走車を下りた俺達を巡洋艦の中へと案内してくれた。
警備兵が、ビシ! とした仕草で銃を捧げてくれる。ちょっと気分が良くなるな。
エレベーターで艦橋の上階に向かい、あの会議室へと案内してくれた。
俺達が会議室へと入った途端、ヒルダ様が駆け寄りエミーをハグした。
「目が……、目が見えるんですって!」
「はい、お母様……」
俺の隣でフレイヤが涙を流している。バンダナを渡してあげると、小さく頷いてくれた。
涙もろいのは、それだけ感動しやすいのかもしれないな。
感情を押し殺したような表情を俺達に見せたヒルダ様が、エミーから離れる。先ずは用件を片付けねばならないのに気が付いたようだ。
「ヒルダ。早めに片付けてしまおう。しばらくぶりの親子の触れ合いは、それからでも十分にできるはずだ」
「そうですね。ローザもいるのでした。……先ずは席にお付きくださいな」
2人に一礼して、席に座る。俺とドミニクがお妃様のテーブル越しの正面だ。
俺の左手に、エミーとフレイヤが座り、ドミニクの右手にはレイドラが腰を下ろした。
「カテリナは一緒ではなかったのか?」
フェダーン様の問い掛けに、ドミニクと顔を見合わせて首を捻っていたら、いきなり扉が勢いよく開き、カテリナさんが入って来た。
「遅れたわ。ごめんなさいね。導師と色々話してたから……」
弁明しながら、レイドラの隣に付いた。
王国側は、2人のお妃様と副官ということになるな。
飲み物が運ばれてきたから、いよいよ本題ということになる。
「リオ男爵への陛下からのお言葉を、そのまま伝える。『ハーネスト同盟艦隊との戦闘の勝利はリオ男爵の多大な貢献によるものである。鹵獲した品の内、次をリオ男爵へ下げ渡す。1つ軽巡洋艦1隻。1つ、戦機3機、1つ金貨100枚』以上だ」
以上だと言われても……、色々と問題がありそうだ。
戦機3機を貰ってもしばらくは飾っておくしかないだろうし、軽巡洋艦に至っては乗員を揃えるのが問題になる。
「ヴィオラの武装と共有できるように軍の工廟で改造中だ。3か月もすれば回航できよう。艦内カーゴ区画に戦機4機を収容し、獣機1個分隊が収容できる空間を作ってあるはずだ」
売ることを視野に置いて、もらっておこう。
金貨100枚だけでも十分に思えるけどねぇ……。
報酬がちょっと過大ということが問題だな。やはり対策を考えさせられるのかもしれない。
「あまりにも過大な褒賞です。これには依頼も含まれているのでは?」
「さすがですね。その通りです。『いつもリオがいるとは限らん。同盟軍で同じことができるように検討せよ!』とのお言葉でした」
「参謀達が3日程考えたが良い案が浮かばぬようだ。空に向かって砲撃することを考えるようでは我の方が頭を抱えたくなる。現場を知らぬ参謀は必要が無いと、陛下にお伝えしたぐらいだ」
かなり過激な発言だな。恨まれないかと心配になってしまう。
「その対策は、すでに検討を終えてブライモス導師が設計を始めたわよ。完成したら特許を出願するけど、それは問題ないでしょう?」
「やはりな。案の出所はリオだろう? それなりの対価は払うのだぞ。それで対策の概要は?」
ここは俺が説明することになるのかな?
戦闘が可能な飛行機と対空砲弾。それに連射が可能な小型の長銃についての概要を説明する。
ヒルダ様は笑みを浮かべてエミーを見つめるだけだけど、フェダーン様は真剣な表情で俺の話を聞いてくれた。
最後に、ブライモス導師の飛行船計画の状況を伝えると、現状でも購入したいと告げてきた。
「広域偵察だけではありません。砲弾数十発を飛行機が飛ぶ高さの数倍上空から落とせるでしょう。でも、現状では利用価値はそれほど高くはありませんよ。
この間の戦でハーネスト同盟軍は戦力をだいぶ低下させています。回復には時間が掛かるでしょう。その前に、高性能の飛行機ができるように思えます」
残念そうな表情でフェダーン様が頷いているけど、納得はしていないようだな。
今日にでも、ブライモス導師のところに状況確認に向かうかもしれない。