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M-109 導師の描く飛行船


 デッキに場所を移して皆でワインを飲んでいると、疲れた表情のベラスコをジェリルが手を引いて帰ってきた。

 髪がまだ濡れているから、あの風呂を堪能してきたに違いない。

 ローザがエミーの手を引いて立たせているから、今度は姉妹で出掛けるのかな? リンダも付いて行ったのは護衛の騎士だからだろう。


「凄い場所ですね。蝶やトカゲはギミック何でしょうけど、驚きました」

「のんびりするには良いんだけどねぇ……」


 たまに入るには良いんだけど、俺にはシャワーで十分だな。

 

「兄さんはシャワーなんでしょうけど、サンドラ達は一度行ってみたら。私が案内するから」

「ローザ達だけなんでしょう? 今から行ってみましょうよ」


 フレイヤ達が出掛けてしまった。

 残ったのは俺達だけだから、ドミニク達が狩りの状況を教えてくれた。

 やはり獲物は多いらしい。だが、大型が多く群れの規模も大きいそうだ。


「ガリナムとローザ王女がいるから、狩りは昔と比べて格段に安全だ。だが、それに慣れるようでは大事故に繋がりかねない」

「リオの広域偵察がどんなに有効だか、良く分かったわ。リバイアサンをランドマークにするわけにはいかないし、今後の狩りは基本から考えることになりそうよ」


「リバイアサンの乗員の給与も考えないといけないでしょうね。少なくともヴィオラの乗員の4倍近い乗員になりますよ。自動化できるところは、何とかできるでしょうが、人手を必要とする仕事も多いようです」

「でも、今回の戦は士官候補生と輸送船の乗員で行っていることも確かよ。その辺りの人員配分も考える必要がありそうね」


 課題をメモしているのはクリスだった。レイドラはヴィオラで指揮を代行してるんだろう。


「しばらくはヴィオラ騎士団で雇って貰えそうね。長期契約はありがたいけど、姉さんも乗り気だったわよ。1年間は待つと言ってたけど」

「それまでには戦闘艦の解凍を終えるわ。その後に砲塔を変更したいから半年は掛かるんじゃないかしら。コクーンは取れてるからドックで見ることができるわ」


 やはり2つのグループで狩りをすることになりそうだな。

 リバイアサンからあまり離れることが無いのであれば、周囲の状況を確認しながら狩りをすることができそうだ。

 

 あちこち見学しながら夕食前に帰って行ったけど、制御室の大きさと機能にドミニクが感心していたようだ。

 ヴィオラ騎士団の団長ということで、リバイアサンに乗り込む可能性もあるんじゃないかな。


「ドミニクが乗船して来るかもしれないわよ」

「旗艦ですから、ある意味当然でしょうね。部屋は多いですから問題は無さそうです」


「航路盤を任せられそうです。周囲300ケム(450km)の状況監視が可能ですからね。リバイアサン、ヴィオラ、ガリナム、それに戦闘艦の状況と魔獣の位置関係の表示は可能でしょう」

「リバイアサンの指揮はエミーが行い、騎士団全体の指揮はドミニク達ってことね。それなら航路管制区画ではなく、通信区画でも可能よ。あの区画にも大きな表示盤が乗ったテーブルがあったわ」


 指揮と言うからには、あちこちへの指示を伝えることが必要ということかな?

 もう1度、制御室の各区域の機能を確認した方が良さそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 隠匿空間の南西5kmにリバイアサンが着底する。

 ドックの装甲板を開けて斜路を伸ばすと、士官候補生達を乗せた輸送船が後退しながらリバイアサンを離れて行った。

 輸送船に乗る候補生達一人一人と握手をして協力を感謝したのだが、全員笑みを浮かべて俺に騎士の礼を取ってくれたのが印象的だった。

 リバイアサンに乗船して戦ったことが彼等の誇りと自覚したんだろうな。全員無事に退役を迎えて欲しいものだ。

 離れていく輸送艦をデッキの端で見送ると、手を振る俺達に艦橋の乗員達が手を振る姿が窓越しに見えた。

 艦隊同士の戦いを特等席で見ることができたはずだから、あちこちの酒場でその時の様子を自慢げに語るに違いない。

 それもリバイアサンに乗船してくれたことに対する、1つの見返りになるはずだ。


 輸送船がリバイアサンを離れたところで、フレイヤ達が迎えに来てくれたガリナムに乗船する。

 皆がリバイアサンから下りたところで、艦内を中を一巡してアリスと共に隠匿空間へと入った。

 陸上艦ヴィオラには俺達の部屋が無いことから、ヴィオラ騎士団専用桟橋のアパートのような部屋を借りる。

 寝る場所さえあれば十分だ。食事は桟橋で働く連中と一緒に食べられるし、たまには商会の経営するレストランを利用するのも良さそうだ。


「夕食は、レストランを予約したみたい。18時に集合だからね」

「宴会にならないだろうね?」

「明日になるんじゃないかしら?」


 フレイヤの答えに、ちょっとうんざり感がしてきた。

 楽しいことは良いんだけど、二日酔いに苦しみそうだ。


 夕食はヴィオラ騎士団の主だった連中が集まる質素なものだったけれど、何時ものメンバーがいることが一番だな。

 食後のワインもグラスに1杯だけなのが良い。アレクはお代わりをしてるけど、まぁ、アレクだからねぇ。誰も気にはしていない。


「次の輸送船でフレイヤ達が頼んだ品が運ばれてくるらしいわ。商会も状況が分かったから隠匿空間に荷を運ぶそうよ」

「次の狩りは俺達も参加したいんだけど……」


「残念ながらお留守番。でも、1日1回、周囲の状況を見てくれないかしら。状況次第ではガリナムと狩りもできるでしょう?」

「昼頃で良いですか? 少しは魔石を増やせますね」


 ガリナムの速度は駆逐艦並だ。足回りを強化してはいるようだけど、時速30kmが限度らしい。

 ヴィオラは元巡洋艦だから輸送船より速いけど、それでも時速25kmを出すのは稀だからなぁ。

 離れた位置の群れをアリスで狩って、魔石の採取をガリナムに託すのは、何度かやったことがある。

                 ・

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 翌日の宴会をどうにか過ごして、桟橋の上からヴィオラ騎士団専用区画の様子を眺めている時だった。

 野菜畑を眺めている俺達のところへ、マイネさんが駆けてくる。


「カテリナ博士の会議室に来るよう伝て欲しいと頼まれたにゃ」

「カテリナ博士から?」

「そうにゃ。導師を交えて話たいって言ってたにゃ。リオ様だけで良いにゃ」


 例の飛行船ということかな?

 フレイヤ達に手を振って、急いで向かうことにした。

 マイネさんは、フレイヤ達と一緒に桟橋で眺めを楽しむのかな。


 カテリナさん達の研究室に向かい会議室に入ると、ブライモス導師やガネーシャ達も集まっている。

 さて、どんな話が始まるのだろう。


「全員揃ったかな? それじゃあ、始めるわよ。 リオ君。この間の艦隊戦でのハーネスト同盟軍の画像を出してくれない?」


 カテリナさんの要望を聞いて、テーブルの上にプロジェクターを乗せて、壁に画像を映しだす。

 食い入るように、ブライモス導師が画像を見つめ、時々カテリナさんと俺に問い掛ける。

 1時間近く画像を眺めていたが、映像が終わると深いため息とも取れる思念が伝って来た。


『先を越されたな、カテリナ……。リオ殿がブラウ同盟におったことで最悪を免れたことは間違いないぞ』

「はい。初日に撮影した画像で、飛行機を使った戦闘になることを推察してくれました。たぶんリオ君の住んでいた世界では戦争に飛行機が使われていたのでしょう。記憶喪失ですが、その危険性が高ければこそ、潜在意識の中から浮かんだ推測ではないかと」


『フェダーン殿は頭を抱えておることだろう。いや、対策を検討しておるやもしれん』

「上空200ステム(300m)を、毎時100ケム(150km)で飛行するのですよ。銃で当てることなど……、まさか!」


『たぶん依頼が来るであろうな。敵の攻撃手段を知っているということは、その対策手段も知っているということじゃ』

「高く売りつけても構いませんね?」


『リバイアサンの、資材調達の足しにはなるだろうな』


 ブライモス導師の笑い声が思念となって伝わってきた。

 硬い日とかと思ったけど、案外おもしろい人であることが分かってきた。

 何時も全身金属製の鎧姿だから、気味悪がる人達もいたらしいが、今ではブライモス導師の姿を見て手を振るお姉さん達もいるようだ。

 ファンクラブがその内にできるんじゃないか。


『ガネーシャ達をリバイアサンに乗船させることには賛成するが、王立学院の研究所にはカテリナの目に適う人材はおったのかな?』

「数人程……。例のテストを3分で解きましたよ」


『それなら、連れて来るが良い。ワシが育ててやろう。ここからはリオ殿への報告じゃ。これでどうであろう……』


 先ほどまで画像が表示されていた壁に、仮想スクリーンが作られ画像表示される。

 魔法で作られた仮想スクリーンだ。そこに描かれていたのは硬式飛行船そのものだった。


『全長90ステム(135m)、直径15ステム(22.5m)じゃ。動力は獣機の魔道タービンの回転軸を減速ギヤを介して直径2ステム(3m)のプロペラを回す。

 計算では毎時100ケム(150km)を越えるぞ。高度は飛行機の3倍以上は確実じゃ』

「ヘリウムを入れるバッグは3カ所ですね。【重力軽減】それに【半重力】の従来型魔方陣に【ブースター】を追加ということですか……。それで、乗員と稼働時間はどれ程に?」


『船員は10名。これは操縦者と補助者、それに機関要員になる。客は……、10名がやっとじゃな。船員の数は少し減らせるであろうが、最初から減らすことはできぬであろう。滞空時間はあまり制限はないぞ。どちらかと言うと魔道タービンの燃料次第になりそうじゃ。連続稼働24時間であるから、王都には届かんな』


「たぶん食料などの搭載も考えておられるのでしょう。途中の事故を想定して、多く積んではいませんか? できればクルーと乗員の数を減らしても王都までの燃料は確保すべきかと考えます」

『そうなるか……、少し形を変えてみよう。次も批評を頼むぞ。

 そうそう、カテリナよ。リバイアサンの飛行機は、ハーネスト同盟軍の物より大きいそうじゃな。魔方陣を確認して欲しい。場合によっては、この飛行船の魔方陣を改良すれば良いだけなのかもしれん』


 目には目を、ということになるのだろう。

 ブラウ同盟軍の飛行機の性能を越えた飛行機を作り上げ、新たな戦術を戦争に導入したハーネスト同盟軍に対して、少なくとも同等以上の性能を持つ飛行機の開発は急務になる。

 飛行船の開発は、フェダーン様が是非とも欲しい機体だろう。

 国王が、先ずは民生とは言ってくれたが、いずれ軍の手に渡る。

 その時の対策も考えないといけない。


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