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M-108 戦利品の一部を貰えるらしい


 勝利を祝った翌日。目が覚めたのは昼過ぎだった。

 朝焼けの空に、皆でワインを掲げたのは覚えているのだが……。

 痛む頭を抱えながら体を起こす。エミーとフレイヤはまだ夢の中らしい。

 そのまま浴室に向かい、シャワーを浴びる。

 完全に、二日酔いの状態だ。今日は余り動かないでいよう。

 着替えを済ませて広間に出ると、ソファーにカテリナさんが座っていた。


「遅いお目覚めね。エミー達はまだ寝ているの?」

「朝方まで飲んでましたからね。 夕食まではそのまま寝かせた方が良さそうです」


「困った人達ね」と呟きながら席を立つと、カウンターから、マグカップに入ったコーヒーを運んできてくれた。


「砂糖は2個よ。少し苦めのコーヒーを飲んで頭をシャキッとしなさい」

「済みません。俺もかなり飲んでた1人です」


「いつも張りつめていても困るけど、たまには良いかもしれないわ。リオ君が年相応に思えるもの。

 昼にフェダーンから連絡があったわよ。リオ君に聞いたらOKしてくれたから、了承と答えたわ」


 ん! ひょっとして寝ぼけて答えたってことか?

 

「記憶に無いんですけど……」

「今更、変えられないし、断れなわよ。男爵位の正式な回答を伝えたわけだし、フェダーンも王宮に報告しているはず。……陛下が最終的に裁可を下すのでしょうけど、同盟軍艦隊に参加した各王国艦隊の提督が名を連ねるはずだわ」


 何か、ヤバそうな感じが込み上げてくる。

 シャワーを浴びたばかりなのに、背中に汗が噴き出してきた。


「とりあえず貰っときなさい。ドミニク達が喜ぶかもしれないわ」


 ん? 少し汗が引いてきたぞ。

 ドミニクが喜ぶということは、俺に対する褒美というよりはヴィオラ騎士団への褒美ということになりそうだ。

 別に俺が悩まずに済みそうだから、安心できそうな気もするけど……、いったい何なんだろう?


 とりあえず、笑って誤魔化しておこう。

 笑みを浮かべて、コーヒーを飲む。かなり苦いけど、ここは我慢するしかないな。


「これで魔獣狩りが始められれば良いんですけどねぇ」

「士官候補生達は軍へ復帰。あの勝利の一端を担ったとなれば、配属先でも優遇されるでしょうね。フェダーンが全員に記念メダルと、勲章を申請したみたい。もっとも、一番下なんでしょうけどね」


 士官服に最初から勲章の略章を付けられるんだから、どんなものだって嬉しいんじゃないかな。

 結構おもしろい連中だったから、リバイアサンを下りるとなると寂しくなりそうだ。


「次にリバイアサンを動かすのは退役軍人達を受け入れてから、ということになるんでしょう。それまでに魔石を稼がないといけませんよ」

「そうね。それを考えると、フェダーンの提案は騎士団にとっても喜ぶことだと思うのよねぇ」


 振り出しに戻った感じもするな。

 カテリナさんが席を立って俺の隣に腰を下ろした。

 いつの間にか頭の痛みが引いている。あのコーヒーに何か入っていたのだろうか?


「時間はたっぷりあるわ。フレイヤ達を起こすのは、夕食前で良いでしょう」


 俺の手を引いて立ち上がる。

 19時までには数時間はありそうだ。カテリナさんを抱きかかえると、再び寝室に戻ることになってしまった。

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 1800時にフレイヤ達を起こしてあげた。

 皆でシャワーを浴びて着替えたのだが、フレイヤ達はメイクがあるらしく、俺一人で寝室を出る。


「だいぶ寝てたにゃ……。今朝まで騒いでたから仕方ないにゃ」

「少し夕食を遅らせた方がいいよ。今、メイクの最中だから」


「ん……、30分遅らせるにゃ」


 マイネさんがトコトコと、ミニバーの奥に隠れるように作られた厨房に戻っていく。

 直ぐに戻って来て、グラスを持って来てくれたんだけど、ワインはねぇ……、昨夜散々飲んだんだよなぁ。


 恐る恐る飲んでみると、めちゃくちゃ酸っぱい。

 果実ジュースなのかな? 刺激的ではあるけど、これって何かと割って飲む物じゃないのか?


「酔いが一発で覚めるにゃ」

「ありがとう。ゆっくり飲んでみるよ」


 本人に悪気は感じられない。やはりこういうジュースなのかもしれない。いや、案外罰ゲーム用として販売してるのかもしれないぞ。


 デッキに出て、酸っぱいジュースをチビチビ飲みながら一服を楽しむ。

 いまだにカテリナさんの話が気になってしまう。

 ひょっとして! とアリスに聞いたら、直ぐに答えが帰ってきた。


『戦利品の分配のようでした。駆逐艦を1隻ぐらい頂けるのかもしれませんね』

「売り払えばしばらくは暮らせるかもしれないな。ドミニクが喜ぶって、そう言うことなんだ」


 舌戦は武装放棄を要求することから始めるらしい。落としどころが見つからなければ再び戦争だ、とフェダーン様が言ってたな。

 だけどあの砲撃戦の後だから、スクラップを受け取ることになるかもしれない。

 スクラップでも工廟に売れるから、貰えるだけ貰っておこう。


 アリスは俺を通して周囲を見ているし、魔石通信等の通信手段を傍受することもできる。最初からアリスに聞いておけば、余計な心配をせずに済んだようだ。

 改めてアリスに礼を言う。


 美人度を数段上げた3人が広間に姿を現したところで、4人だけの夕食が始まる。

 マリアン達は、マイネさん達と1時間も前に済ませたらしい。

 昨夜の騒ぎには参加していたようだけど、早々に引き揚げたようだ。ある意味、危機管理ができた2人ということなんだろうな。

 エミーを助ける人物としては、ある意味最適でもある。フレイヤだと率先して騒ぎに加わってしまいかねない。


「何か、一日中寝ていた感じよねぇ。これって、朝食兼昼食兼夕食ってことでしょう?」

「リオ様が言った通りになりましたね。でも、日中にこんなに長く寝ていたのは初めてです」

「どのぐらい飲んだか覚えてないんじゃない? これからは少し控えた方が良いかもよ」


 2人の話を聞いて、カテリナさんが上手く誤魔化している。

 悪い人ではないんだけどねぇ。自分本位なところがあるんだよなぁ……。


「昼夜が逆転した感じ。今夜眠れるかしら?」

「それなら、これ! 朝までぐっすりよ」


 2人に小さな錠剤を渡している。睡眠薬かな?

 2人が顔を見合わせて受け取ったところを見ると、眠れない時の最後の手段とするみたいだな。

 

「制御室には誰もいないんでしょう?」

「自動航行に設定したから、士官候補生達はのんびり休暇を楽しんでいるはずだよ。とは言っても、今日は全員寝ていたんじゃないかと思うけど」


 士官学校へ早く戻りたいんじゃないかな。

 卒業後の転属先を楽しみにしているに違いない。


 食後のコーヒーで、カプセルを1つ。アリスの指示でもあるから、毎日欠かさずに飲んでいるのだが、俺の姿を見てフレイヤ達も錠剤を呑んでいる。

 先ほどの錠剤と違うってことは……。


「コーヒータイムが終わったらゆっくりと楽しむのね。私はフェダーンと状況の再確認をするわ」

「戦はブラウ同盟艦隊の勝利ではなかったのですか?」


「互いに撃ちあうだけが戦争ではないの。その前後にも戦はあるのよ。でも、今回の勝利で次の戦も有利に立てると思うわ」


 エミーの問いにカテリナさんが答えてくれたのは、外交戦ということなんだろう。

ある意味、交渉能力と駆け引き、声の大きさ辺りが重要なのかもしれない。

 胃の痛くなるような戦なら、体を使った戦の方が俺には合っている。

 戦に勝って交渉で負ける、なんてことにならないようにしてほしいところだ。


 コーヒータイムが終わると、エミー達に両手を引かれて、寝室へと足を運ぶ。振り返ると、笑いだした口元を片手で押さえたカテリナさんが手を振っている。

 俺達で遊ばないで欲しいんだよなぁ……。

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 2日後には隠匿空間に到着するところまでリバイアサンが進んでいると、監視室から陸上艦接近の知らせが入ってきた。

 光通信が送ってきた陸上艦の名はヴィオラだった。

 休暇後、第1回目の狩りを終えて隠匿空間へと帰投するところだったらしい。

 両者の間で何度か光通信が行われ、ヴィオラとガリナムがリバイアサンとの距離を徐々に詰めていく。


「乗り込んでくるわよ。併進した状態で作業台に飛び乗ると言ってたわ」

「それはまた……。準備は始めたんですか?」


「エミーの指揮でロベルが頑張っているわ。腕の見せ所になるのかな?」


 俺も何かしないといけないんだろうか?

 カテリナさんに顔を向けると、「何もしないで、ここにいる」と言われてしまった。


 ドックの装甲板の展開や、作業台の制御を全て候補生達に任せるそうだ。

 制御室にいても、ここにいてもやることがないらしい。


「とは言っても……、アリス。お願いね」

『緊急介入ですね。すでに生体電脳に指示しています』


「ありがとう。私の弟子にアリスのような娘がいたら、一気に魔道科学の新たな世界が現れたかもしれないわ。……たまに手伝って頂戴」

『喜んで。マスターに危害のない限り、協力します』


 この場合の危害というのが、俺の考えと少しずれているように思える。

 個性の差、あるいは男女間の差があるのかもしれないな。


 カテリナさんと一緒に、ソファーに腰を下ろして仮想スクリーで状況を見守る。

 緊急介入等するまでもなく、作業台によるドミニク達の収容は上手く運んでいるようだった。

 ドックにフレイヤが向かったようだから、長い通路を歩くのに疲れた姿でここに現れるだろう。

 たまにマイネさんが俺の後ろから仮想スクリーンを覗き込んでいく。

 お茶の準備のタイミングを見てるんだろうな。


「ここか! やたらとでかいな」

 

 アレクの大きな声が聞こえてきた。ソファーから立ち上がり、階段の方に歩いて行くと、フレイヤに先導された10人程の団員と顔を見合わせることになった。


「よく来てくれました。歓迎します」


 小さく頷いたり、手を振ったりと挨拶はまちまちだけど、仲間だからね。候補生達とは違うことに安心感が湧いてくる。

 テーブルに座って貰うと、直ぐにマイネさん達がお茶を運んできた。

 アレクの前には大きなジョッキでワインが置かれたのは、フレイヤが教えておいたんだろう。


「上手く行ったみたいね」

「フェダーン様の作戦通りということですね。戦利品の分配がどうとか言ってましたから、スクラップの譲渡があるかもしれません」


「案外、駆逐艦を1隻送って来るかもしれんぞ。だが、乗員不足だからなぁ……」

「どちらにしても騎士団の資金になるわ。売値の半額はリバイアサンに使いなさい。まだまだ必要なものが多いはず。それにしても大きいわね」


 ドミニクは余り期待していないみたいだな。アレクも良いワインを出して貰ったらしく、美味そうに飲んでいる。


「少し、この広間を歩いてもよろしいですか? 美術館でも見られない過去の作家の作品があるんです」

「自由に見て良いよ。ついでにこの下の階の真ん中におもしろいものがあるから、ベラスコと一緒に一回りしたら?」


 途端にジェリルが嬉しそうに笑みを浮かべた。俺に小さく頭を下げるとベラスコの手を引いて行く。

 ベラスコに芸術が分かるかどうかは微妙なところだが、最後にお楽しみがあるんだから我慢するんだな。

 去っていく2人をフレイヤがニヤニヤして見送っているのは、俺と同じ思いに違いない。


「それほどの作なのか? 王宮の倉庫から持ち出した物ばかりじゃぞ」

「いつまでも王宮に飾れば、新たな作家の妨げにもなります。王宮美術館、王都の美術館に運ばれる物もありますが、ほとんどは作家の死を待って倉庫に運ばれます」


 そう言うことか。倉庫には現在の作家の作品は無い。作家に対する最低限の礼ということになるんだろうな。

 でも、それだったら倉庫はお宝の山になるんじゃないのか?

 輸送船3隻分を運びだしたようだけど、金額を考えると気が遠くなってしまいそうだ。


「ローザ。先ほどの2人が戻ってきたら、おもしろいところに連れて行ってあげますよ」

「本当じゃな? ドックに移動した時もおもしろかったのじゃがそれ以上ということじゃな!」


 制御室や監視室もおもしろいんじゃないかな。

 フレイヤなら喜んで案内してくれるだろう。

 外部装甲板を開いて、デッキを展開する。直ぐにローザが向かったから、慌ててリンダが後を追った。

 デッキの周囲には柵が付いているから落ちることは無いと思うんだけど……。


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