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M-107 開戦の狼煙は航空からの砲撃


『リバイアサン、移動を開始。ドラゴンヘッド展開シーケンスの作動を確認』

「直ぐには撃てないからね。フェダーン様の指示かな?」


『霧の放出量が半減しました。30分足らずで姿を現します』

「了解。舌戦の終わりが見えたということだろうね」

『0730時を最終期限とした模様です。残り21分です』


 すでに飛行甲板には飛行機が並んでいる。輸送船の先頭2隻には、2列に15機が並んでいた。

 やはり100機前後という読みは当たっていたようだ。

 

『交戦準備。輸送艦4隻の照準を設定してください』

「了解!」


 目の前に現れた画像に映し出された輸送船に、各3発の照準点を設定していく。甲板の中央線に沿って3カ所を定めれば、トリガーを引くだけで目標に当たるらしい。


「完了。残りの8発が戦艦だね」

『素早く済ませて、接近して放ちましょう』


 高速移動をしながらの射撃になりそうだが、アリスが自動修正してくれるから目標が多くとも外すことは無さそうだ。


 刻々と最終期限の時刻が迫ってきた。

 10分前に飛行機にパイロットが搭乗する姿が見えたから、今頃は緊張して出撃の合図を待っているに違いない。


 やっと0730時になったが、通信が中々入ってこない。

 最後の土壇場で妥協点が見つかったのだろうか。

 すでに1分を過ぎてるんだよなぁ……。


『来ました!「交渉決裂、攻撃せよ!」フェダーン様からです』

 

 アリスの言葉が終わらない内に、ジョイスティックのトリガーを3度引いた。続いて3度……。


 4隻に黒煙が上がるのを確認して、アリスを戦艦の頭上に移動しダイブしながら2発を放つ……。


 8隻にマガジン内の20発を放つのに3分も掛からない。

 上空に移動して改めて8隻を眺めると、輸送船が爆発を繰り返していた。上手く弾薬庫に命中したのかもしれないな。

 笑みを浮かべて移動しようかと思っていた矢先、2隻目の輸送船が大爆発を起こした。

 後続の輸送船も誘爆を始めたようだ。

 最後尾の輸送船が慌てて回頭を始めているが、近接して停泊していたから間に合わないんじゃないか?

 戦艦も船尾から黒煙が上がっている。

 分厚い装甲板のおかげで、衝撃波による損壊を防げたのかもしれない。


『両者ともに前進開始。砲撃戦に移行する模様です』

「飛び立った飛行機は?」


『8機です。使用武器を変更後に後方より個別に迎撃します。40mm砲ですから接近して放ってください』


 アリスの指示に従って降下を開始する。全周スクリーンにしっかりと目標がマーキングされているし、距離も表示されている。ターゲットスクリーンを右手で操作しながら

目標に合わせていく。、

 ターゲッスクリーンのマーカーが緑になった瞬間トリガーを引いて上空に移動する。

 20mの至近距離だ。当たらぬわけがない。

 さんざん魔獣に使っていた武器の威力は今一だったが、飛行機相手なら十分だろう。

 下を見ると、落ち葉のようにクルクルと回りながら落ちていく飛行機が見えた。

 次は……、こいつだな。


 8機撃墜に5分も要しない。

 この銃がボルト操作というところが今一不便だけど、魔獣相手の銃なんだから、あまり手を加えるのも問題だろう。


『カテリナ様より入電「上空に退避せよ!」以上です』

 

 急いで上空へと移動して、北に目を向けると、霧の中に浮びあがる巨体が見えた。

 下の方では大騒ぎだろうな。

 それでも両者は艦の進行を止める気は無いようだ。

 

『カテリナ様から入電「目を塞げ!10秒前」監視モニターの一部にシャッターを下ろします』

 

 慌てて目を閉じたけど、シャッターを下ろすというのは、アリスがまぶたを閉じたということなのかな?


 次の瞬間、閉じた目を焼かれるような閃光が走った。

 一瞬の出来事だったが、まだ目がチカチカする。


「アリス、状況は?」

『自己診断終了。各部、センサー共に異常はありませんでした。全周スクリーンを復旧します』


 ハーネスト同盟軍の艦隊直前に長い溝が作られていた。

 横幅は駆逐艦程あるんじゃないか? 深さは巡洋艦の甲板高さ並みに思える。


『溝を越えることは不可能と推測します。ハーネスト同盟軍、溝の手前600mで停止しました。

 ブラウ同盟軍の艦隊は前進を継続。両者の相対距離22km。戦艦の射程内に入りました。

 リバイアサン前進開始。ドラゴンヘッドの格納シーケンス作動を確認』

「ここでゆっくり見物させてもらおうか。何かあれば連絡してくれるだろう」


 ハーネスト同盟軍は停止したままだ。リバイアサンが近付いてくるのは既に観測されてるはずだが……。


 数分も経たぬうちに、バラバラに回頭を始めた。

 指揮が混乱しているのだろう。 南に位置した艦船から面舵を取れば良いのだが、北に位置した艦船から回頭を始めたので、あちこちで艦船同士が接触し始めた。

 1隻の戦艦が無理に南に進んだことから巡洋艦を巻き込んでその場に頓挫してしまっている。

 あれじゃあ、邪魔者以外の何ものでもない。


 15kmほどに接近したブラウ同盟の戦艦が、一斉に砲撃を開始して取り舵を取る。

 ドラゴンブレスで穿かれた溝に沿って進みながら砲撃をするつもりだ。

 ハーネスト同盟の艦船の砲撃も始まったが、統制されたものではなく、散発的なものだし照準もいい加減だな。

 

「アリス。ブラウ同盟の駆逐艦が見当たらないんだけど?」

『砲撃戦には参加を見合わせたのでしょう。現在南に向かって全速航行中です』


 南に目を向けると、砂塵が見えた。

 あれがそうなんだろう。ドラゴンブレスの先端を回り込むつもりかな?


『逃走先で待ち構えるつもりなんでしょうけど、砲撃戦が一方的です』

「たぶん戦機を駆逐艦の砲塔にしがみつかせてるんじゃないかな。何隻辿りつけるか分からないけど、待ち伏せは駆逐艦と戦機ってことじゃないかな。」


 下を見る限り戦機の出番はまるでない。ブラウ同盟の戦艦や巡洋艦が砲塔を全て西に向け速度を落としながら南へと移動している。

 

 戦艦3隻が黒煙に包まれた。1隻は何とかして南に向かおうとしているようだが、至るところで艦船が立ち往生している状況だ。

 巡洋艦に狙い撃ちされているから、それほど長くは持たないんじゃないかな。


『リバイアサンが上陸しました。敵艦隊との距離、18km。グリーンベルト上空を移動中』

「了解。次は一斉射撃だったな。後は砲弾が続く限りだが、早めに降伏の意思表示を出して貰いたいところだ」


『交渉が再開されたようです。フェダーン様からの新たな指示はありません』

「戦闘継続というところかな。軽巡洋艦が戦列を離れたようだ。駆逐艦のバックアップというところだろう」


 巡洋艦より足が速く、駆逐艦より口径の大きな大砲を積んでいるのが軽巡洋艦だ。駆逐艦隊の旗艦としてもつかわれるくらいだから、退路を断つ役目を帯びたに違いない。

 チェックメイトまで、それほど時間を要することは無いだろう。


 さすがに最後尾の艦船は何を逃れたようで、回頭後に南西方向へと逃走を始めている。

 無事だったのは駆逐艦数隻と、補給船が2隻というところだろう。

 あの大艦隊はここで鉄さびとなり、歴史の中に埋もれるはずだ。


『リバイアサン、グリーンベルトを抜けました。砲塔区画の装甲板を開いています』

「最後の仕上げかな? まだ交渉は続いているんだろう?」

『武装解除の条件のようです。平行線ですね。砲撃が継続してますし、駆逐艦が溝の先端部を回ったようですから、それほど長くは続かないものと推測します』


 負けたんだから、潔く引き渡して帰れば良いと思うんだけどなぁ。

 あれだけの艦隊を率いてきたからには、かなりの責任を負わされることだろう。少しでも持ち帰って、自分の保身を図ろうとしてるんだろうか?


 砲撃の様子を眺めていると、敵の艦隊の北側に爆炎が上がった。

 続いて散発的な爆炎が少しずつ艦隊に近付いていく様子が見てとれる。

 艦船にあえて当てないのは、案外ストレスが溜まるんじゃないかな。


『南にも砲撃の爆炎が上がりました。小さなものですから駆逐艦の一斉砲撃と思われます』


 30分も経てば、撃ち込まれる砲弾が大きくなるぞ。

 どこまで粘るつもりなのかと様子を見ていた時だ。ブラウ同盟の砲撃が、リバイアサンも含めて停止した。


『フェダーン様から入電。「戦闘終了。協力を感謝する。隠匿空間にて連絡を待て」以上です』

「終わったってことだね。リバイアサンに帰投するぞ!」


 時刻は11時を回っている。短いような、長いような戦闘だったな。

 リバイアサンに戻って、先ずは何かを食べよう。朝から何も食べてないのに気が付いた。

                 ・

                 ・

                 ・

 プライベート区画に戻ると、皆が俺の帰りを待っていてくれた。

 やはり朝食も忘れて役目に勤しんでいたようだな。

 サンドイッチが大皿に山になって出てきたけど、たちまち皿が空になったほどだ。


「夕食まで、これで我慢するにゃ」

 

 ミイネさんが次の皿を運んできてくれたけど、さすがに2皿目は山が中々崩れない。


「リバイアサンが動いてるみたいだけど?」

「隠匿空間手前まで自動航行よ。彼等だって、皆で祝いたいでしょう? 私からワインの2ダース渡したけど、足りるかしら?」


「輸送船のワインも買い付けておけば? 戦勝祝いとして、全てリオの口座から落とせば良いでしょう?」


 フレイヤの言葉に、思わず顔をを青ざめることになった。

 金貨数枚は確実にあったと思うけど、どれだけ残ってるかしばらく見ていない。


「ちゃんと、特許の分配金を振り込んであるから、心配は無いわよ」


 カテリナさんが、膝をポンと叩いて教えてくれたんだが、何の特許なのかが分からないところが恐ろしくもある。


「隠匿空間まで10日程掛かるらしいわ。数日後には、手動航行に切替えるから、実質8日というところになるのかな」

「しばらくのんびりできそうですね。士官候補生達には明日1日の休日を与えましょう。たぶん今夜はたっぷりと飲みそうですからね」


「ロベルに伝えておくわ。当然私達もでしょう?」

「ああ、のんびり朝寝を楽しもう。夕食が朝食と昼食を兼ねれば良い」


 ちらりとマイネさんに目を向けると、呆れた表情をしている。

 早く騎士団に染まってくれないかなぁ……。


 たっぷりと食べても、コーヒーは入る。デッキでフレイヤ達と湖を見ながらのコーヒータイムを楽しんでいたのだが、カテリナさんはソファーでメを書いたりにらめっこをしたりしている。

 今回の協力で、フェダーン様に強請るのかな?

 あまり度を過ぎると、ブラウ同盟軍に組み込まれるんじゃないかと心配なんだが。


「今回の報酬は、最初の金貨10枚だけなの?」

「いや、隠匿空間で待つように言ってたから、国王陛下と相談して決めるんだろう。

向こうの作戦を跳ね返したとは言っても、同盟を組んだ3王国の領土が広がったわけじゃないからね。あまり期待しない方が良いよ」


 フレイヤの視線の先には、メモを見て首を傾げるカテリナさんがいた。

 フレイヤの目にも、強請る品をリスト化してるとしか映らなかったようだな。


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