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M-104 カテリナさんの予言


「全く困ったものだな。戦術は現状の資源をどのようにするかを検討して決めるもの。精神論は必要ない。まして他人任せの精神論を唱えるものなど、ウエリントン王国の軍には必要ない」


「それはそうでありますが……、仮にも、次期公爵となれば……」

「心配はいらぬ。軍籍はく奪我の判断、軍法会議に掛けるか否かは陛下の御意志もあろうが査問会は開かれるであろう。最終的な処断は公爵次第であろうな」


 刑務所暮らしじゃないってことか。それだけ貴族は優遇されているということなのかな?


「他に意見は無いのか? リオ殿がしっかりと偵察をおこなってきておる。敵状の確認でも良いぞ」


 先ほどの軍人と同じような年代の女性が軽く手を上げた。

 笑みを浮かべてフェダーン様が彼女に顔を向けると小さく頷く。


「このままで対峙した場合。勝利は無いものと考えております。それならフェダーン様の過去の事例から、早期の撤退を考えるものと推測します。

 いまだ撤退のお考えを持とうとしないのは、敵の攻撃前に機動要塞の主砲で撃破できるとお考えなのではありませんか?」


「たぶん確実に勝利できるであろう。だが、それをするなら、我等機動艦隊が存在する意味が無くなるのではないか?」

「リオ閣下が騎士であっても、100機を越える飛行機を落とすのは不可能に思えます。可能な方法としては飛び立つ前に攻撃することですが、戦艦の主砲をもってしても、最大飛距離は10ケム(約15km)です」


 良いところまで行ったと見るべきかな? フェダーン様も何時もの表情に戻っている。


「戦争の主役は軍人ということは理解できるであろう。とはいえ、戦力が足りなければ騎士団の応援を得ることは過去に例が山ほどある。

 今回はヴィオラ騎士団に応援を依頼していることで、ヴィオラ騎士団旗艦のリバイアサンが応援に駆けつけている。明日には北東にその姿を見ることができるであろう。

 さて、今回の戦術だが……」


 後ろの席にいる副官に振り返り小さく頷いてる。壁の画像が切り替わり、リバイアサンが両艦隊の対峙した北に表示されていた。


「リバイアサンの動きは戦艦並だそうだ。艦隊の動きに追従できるのが調度良い。

 無言で戦を始めることは、過去に例がない。

 今回も、我等の武装放棄を伝えてくるであろう。我等の返信も同様になるのは致し方がないところだ。

 飛行機の飛行時間が延びたとはいえ、5割増しと言ったところだ。攻撃開始まで飛行するとは思えない。

 甲板に飛行機を並べた状態で交渉決裂を待っているということだな。

 交渉破棄が状況開始になる。

 『輸送船4隻と戦艦後部で謎の爆発が起きる』と、カテリナの予言が先ほどの文に書かれてあった。ブラウ同盟の3賢者の弟子でありウエリントン王国の魔道師、更に博士とまで言われ、王宮への出入り自由を得ている者の予言であれば、それなりの予知があったのであろう」


 話をしていても、笑い顔になろうとするのを必死にこらえているように見える。

 その謎の爆発を起こすのは俺達なんだろうけどね。


「敵が動揺している時を狙って、リバイアサンが戦艦の前方に主砲を放つらしい。後はどうなる?」

「全軍で敵を壊滅……」


「その通り。リバイアサンが敵の北側から押し出すことで、敵軍は南に回頭する。我等も戦艦を先陣に回頭することになるが……」


「敵の戦艦は船尾砲塔を撤去していましたな!」

「戦艦の数は同じだが主砲の数は我等が多いことになる。行けるな!」


「「オオォォ!!」」


 会議室が蛮声で耳が痛くなるほどだった。

 

「陛下が残念がるお顔が目に浮かびますぞ」

「さすがにここに来てもらうのは問題であろう。映像記録をよろしく頼むぞ」

「心得ております」


 フェダーン様が扉近くの士官に目くばせを行い頷くと、「解散!」と大声が上がった。

 ぞろぞろと席を立って出ていく軍人を見ていると、カテリナさんが俺に話しかけてきた。


「そろそろ昼食になる。ここで食べていくが良い。少し話もしたいのでな」

「そうですね。サンドイッチ4個が朝食でしたから」

「あまり大差はないが、少しはましであろう」


 テーブルに数人が腰を下ろしたままだ。

 ブラウ同盟と言っていたから、各王国の機動艦隊の指揮官ということなんだろうか?


「艦長達には予言通りの謎の爆発で良かろうが、機動艦隊の指揮官ともなればそうもいくまい。真相を話してやってくれぬか」

「謎の爆発を聞いた時には、俺も驚きました。たぶん俺とアリスがその役目をするのでしょう。

 方法は上空3千mからの砲撃です。使う武器は魔激槍のようなものですが20発を連続に撃ち出せますし、弾速は魔激槍の2倍を越えます。

 甲板に当たれば大穴が空くでしょう。衝撃で甲板の上に待機した飛行機の砲弾の信管が作動することで謎の爆発が起こるのだろうと推測します」

 

「1発でダメなら、次を放つということですか、船内には砲弾もあるんでしょうな……」


 呆れた表情をしている。

 納得してくれるなら十分ということかな?


「とは言っても、問題もあります。どうしても全艦を同時に攻撃はできませんから何機かは飛び立つでしょう。

 対象となる艦船の爆発を確認してから、飛び立った飛行機を落とすことになりますので、場合によっては何発か砲弾を落とされることになるかと」


「狙いは戦艦であろう。1発程度なら問題ない。心配には及ばんよ。無傷で帰る方が心配じゃ。後ろに隠れておったのではと、陛下に疑われかねん」


 そう言って豪快な笑い声を上げている。


「1つ懸念が。リバイアサンは騎士団に所属しているとなれば、武装の制約があります。戦艦を持つ騎士団は聞いたことがありませんから、良くて重巡でしょう。

 打たれ強さはあるでしょが、攻撃面では少し……」

「それも心配はいらぬ。リオ殿は男爵位を持つ。武器の制約がないのだ。やがて湖の北西に霧が現れるであろう。そこで見る物を幻と思うでないぞ。

 そこに現れるものこそ、元第三王女であるエメラルダが指揮をするヴィオラ騎士団の旗艦なのだからな」


 何のことだか分からなくても、当日に慌てなければそれで良いだろう。

 これで俺の心配は無くなったな。後はドラゴンブレスの軸線を気にすれば良いんだろうが、アリスが常に気を気張ってくれるに違いない。


 夕食のような凝った料理を頂き、ワインを味わう。

 何時もこんな料理を食べているのだろうが、フェダーン様が太らないのに感心してしまう。


「エミー達とは上手く行っておるのか?」

「はい。フレイヤとも良い友達関係を築けたようですし、友人をヴィオラ騎士団に招きましたから、寂しいことは無いようです」


「王女が降嫁なされたとか……。無ければ我が孫をと考えておりましたが」

「ははは、私もですよ。ウエリントン王国が羨ましいですが、我が王国に万が一の事あれば……」


「同盟国の危機は我がウエリントン王国の危機でもある。リオ殿が直ぐに駆けつけるであろう」

「それを聞き安心いたしました」


 気になることを言ってたようにも思えるけど、荒野の掟は助けを求められたら助けることだとアレクが力説していた。たぶん出掛けることになるのだろう。


「明日に会合できるのであれば、魔石通信機が使えるであろう。仕官候補生がいるのであれば好都合。今、通信機を運ばせるぞ」

「俺達の魔石通信機と異なるのですか?」


「騎士団の光通信と同じだ。話はできぬが通信距離が10倍以上に広がる」


 モールス信号ということだな。

 副官が届けてくれた通信機は、背中に背負うほどの大きさがあった。マニュアルの最後にコード表が付けられている。騎士団が使うものと少し異なるようだ。

 コード表を眺めていたら、フェダーン様がサッと取り上げて、表紙の裏に数字をかきこんだ。


「ブラウ同盟軍の共通チャンネルは「1000」だが、この艦は「1100」になる。リバイアサンのチャンネルは「1999」で良いだろう。明日の朝にでも使ってみて欲しい」

「了解しました。何度か練習させます」


 ヨイショっと通信機を担ぎあげて、フェダーン様に退室の挨拶をする。

 案内してくれた士官が、通信機を担いでくれたけど、結構な重さがあったな。通信距離を延ばすために、色々と詰め込んであるのかもしれない。


 巡洋艦を飛び立つと、警備していてくれた兵士が手を振ってくれているのが見えた。

 200m程の上空で軽く円を描いて、彼等に応えると一路リバイアサンを目指す。


 何時ものように駐機場にアリスを固定すると、アリスから連絡が入った。

 どうやら魔石通信機で各チャンネルの動作確認をしたいらしい。


『終了しました。制御室の通信機を使えるようにプログラムを作ります。先ほどマスターを通して信号のコードを確認しましたから、私からも通信が可能ですよ』

「そうなると、これはいらないってこと?」


『非常時用として、制御室に置いておくことを推奨します』

「了解。明日運んでおこう。それじゃあ、また明日」


 プライベート区画に戻ると、皆でお茶会をしていた。

 フレイヤがソファーを開けてくれたので、エミーの隣の腰を下ろす。


「遅かったわね。フェダーンに掴まったの?」

「掴まったというか、昼食をご馳走してもらいましたよ。それで……」


 会議での様子を話したのだが、一番驚いたのはあの次期公爵である青年の事だった。


「王宮としては軍籍剥奪で済むんじゃないかしら。でも貴族会議での公爵の発言力は弱まりそうね。付き合いのある貴族もいくつかは離れるはずだわ」

「それって、公爵の顔に泥が塗られたということですか?」


「ええそうよ。たっぷりとね。男爵位であれば、監督ふゆき届きとして引退して、次男に代を譲り、数年は表に出ることは無いはずよ。でも、公爵ともなればそうもいかないから……、次期公爵の存在が抹消されるんじゃないかしら」


 最初からいなかったということになるってことか?

 それも酷い話だな。その内にどうなったかも分かるだろう。


「謎の爆発は良いアイデアでしょう? できるとは思っているんだけど」

「何とかできますけど、何機かは飛び立つでしょう。撃墜する前に落とすかもしれませんが、その辺りは許容して貰えそうです。

 それと、通信機を受け取ってきました。明日の朝に試験をしたいとのことです」


「私がやっとくわ。コードは同じ何でしょう?」

「少し違うみたいだ。士官候補生なら分かるとフェダーン様が言ってましたよ」


 バッグからマニュアルを取り出してフレイヤに手渡した。

 表紙の裏に艦隊とフェダーン様のチャンネルが書かれているのは分かったみたいだな。

 

 エミーがお茶のカップを渡してくれた。

 まだ、15時にも達していない。俺の部屋の調度品を少し考えてみよう。


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