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M-101 ハーネスト同盟軍の戦術


「ハーネスト同盟の艦隊……、ということだな」

「毎時10カム(15km)に満たぬ速度で東に向っています。よほどブラウ同盟を恐れているのか、飛行機を進行方向30カム(45km)ほどの位置を旋回させておりました」


「大きいのが戦艦であるなら、駆逐艦の数が多いですな。それに10隻も補給船を従えるとなれば、長期の対峙を覚悟しているように思えます」


 壮年を通り越したような風貌の軍人がフェダーン様に告げている。

 集まっている軍人の中では筆頭格なのかもしれない。


「さすがは国王の右手と言われるグライナー提督だけのことはある。賭けはそなたの勝ちということになるな。

 私も、一番気になったのは駆逐艦の数だ。我が同盟軍のよりも5割は多い。遊撃戦を仕掛けられかねないぞ」


「それにしても、500ケム先の艦隊をこのように一望できるとは……」

「それについては、詮索無用だ。リオがもたらしてくれたことを感謝すれば良い。我が軍に欲しいと思ったのは我も同じだが、それを行えば同盟すら瓦解しかねない。

 ところで、この情報……、買い取るとなればどの程度の値が付くのだ?」


 若い軍人の進言を途中で止めさせたフェダーン様が、グライナー提督と呼んだ人物に問い掛けた。


「そうですな……。500ケム先の情報を、ここまで詳しく見せて貰えるなら、その場で金貨を積みますぞ。10枚というところでしょうか」

「ということだ。たぶんリバイアサンからやって来てこの画像を撮ったのであれば、毎朝、届けてくれぬか? この画像を見せてくれる都度金貨10枚で情報を買い取るぞ」


「ありがたい話ですが……、フェダーン様には色々とご迷惑をお掛けしておりますから、1枚で十分です。

 それと……。気になる点があるので、フェダーン様の考えをお聞かせください。画像を変えますが、よろしいですか?」


 俺の問いに、ちらりと若い軍人にフェダーン様が視線を向けた。概要図を描いていたのだろう、ペンを置いてフェダーン様に小さく頷いている。


「構わんぞ。何か見付けたということだな?」

「現在の画像は、艦隊上空約3300スタム(5千m)から眺めたものです。艦隊規模は大きなものですが、輸送船が10隻というのはいささか腑に落ちません。それと輸送船の周囲に4隻の巡洋艦と壁のように配置された駆逐艦。まるで大切なものを守るように思えます」


「言われてみればその通り。通常なら、艦隊の後方で数隻の駆逐艦を配置するところであろう」

「興味を持ったこともあり、もう少し高度を下げて輸送船を映したのがこの画像です」


 画像を切り替えると、先頭の2隻と後続の8隻の上部構造の違いがはっきりと見えてきた。


「甲板構造を変えたのか……。舷側から戦機や獣機を出してくるとなれば厄介な存在になるぞ」

「それであれば、従来型の輸送船でも同じこと。我等の軍も大型輸送船を改造して運用しております」


 フェダーン様の呟きに、正面の男性が言葉を掛ける。


「俺もそんな思いで改めて甲板の詳細を見たのですが……」


 席を立って、壁に映し出された画像の傍に行き、1隻の輸送船の画像をさらに拡大した。

 

「甲板に妙な張り出しが2カ所あります。拡大すると、甲板とは切り離されているのが分かりますよね。この張り出し部が何のためにあるのかを考えた時に、2機の飛行機を運用していることが頭に浮かんだんです。

 船内のカーゴ区域から、この張り出した台を使って甲板に飛行機を移動しているのではないかと……」


 そこまで言って、席に戻る。

 軍人達が騒がしく隣同士で意見を言い合い始めた。

 その後のことは、静まってからでも良いだろう。


「さては大それた考えだな。ここは喫煙自由、直ぐにコーヒーも運ばれてくるだろう。リオ殿には、あの意味が分かるのだな?」

「たぶんという感じですね。リバイアサンに戻ったら、カテリナさんと相談しなければならないでしょうが、先ず間違いはないかと」


 、フェダーン様としては珍しい小声で問い掛けてきた。俺の言葉に満足したようで笑みを浮かべてくれたのは、少し安心したからに違いない。


「静まれ! フェダーン御妃の前だぞ。軍人らしく、きちんと意見は述べるべきだ。だが、その前にリオ閣下に訊ねたい。飛行機であればそれほど脅威ではないのではないか?」


 たぶんそれがハーネスト同盟の狙い目でもあるのだろう。

 ブラウ同盟の艦隊がそのような考えでいると、手痛いどころか大敗北に繋がりかねない。


「軍人ではありませんから、私の個人的な考えとしてお聞きください。

 戦艦と巡洋艦が同じ数で戦えば、戦艦が勝つでしょう。大砲の数と船体強度がまるで異なります。

 では、巡洋艦同士が戦えばどうなるか。その時、片方の巡洋艦はもう片方の巡洋艦よりも大きな大砲を積んでいるとします……。たぶん大きな大砲を積んだ方が勝つでしょう。勝敗を決するのは何によると思いますか?」


「射程だ。より早く大砲を撃てるだろう。片方の巡洋艦が大砲を打つ前に勝敗はきまる」


 若い軍人が答えてくれた。他の連中も頷いているから皆の意見は同じということになる。


「大艦巨砲主義と呼ばれる思想がそれです。相手より早く砲弾を放って沈める。その為により大きな大砲を搭載することで艦体が大きくなる。戦艦はそうして作られてきたはずですよね。

 ですが、より遠くに砲弾を飛ばす方法には、もう1つの方法があるんです。現状でも50ケム(75km)程度なら、可能な方法をハーネスト同盟は気が付いたのかもしれません」


「戦艦に長距離砲を搭載したのか? 先ほどの画像では我等の戦艦とさして変わらぬようであったが」

「もっと簡単で安上がり、飛行機で砲弾を運ぶんです」


「「何だと!!」」


 たちまち大声が室内に轟いたから、コーヒーを運んできた兵士が驚いている。

 それでもカップのコーヒーをこぼさずに皆の前に配ってくれたから、ある意味ここでの大声は日常茶飯事なのかもしれないね。

 コーヒーカップを手にしてフェダーン様の顔を見ると、俺の視線に気が付いたのか自分のカップを取って俺のカップと軽く打ち付けた。

 コーヒーカップでやるとは思えなかったが、とりあえず飲んで良いのだろう。


「静まれ! 全く里が知れるぞ。まだ全てを話してくれたわけではないと思う。残りの話を聞いてからが我等の仕事ではないのか?

 リオ閣下、お見苦しいところをお見せして申し訳ない。閣下の事、対策も考えておられるのでは?」


「俺の言葉は、あくまで推測ですよ。

 先ほどの話には、課題もあるんです。1つは飛行機の滞空時間の制約。およそ30分程度であると聞いています。もう1つは運べる重さ。2人乗りと聞いていますから、1人分の砲弾を運べることになるのですが、砲弾を搭載して上空で切り離すための装置も必要でしょう。およそ人一人の重さの半分は運べるとなれば、口径10ステム(15cm)の砲弾を落とすことは可能と考えます。

 対策としては、巨獣に備えた小口径の砲弾を使って撃墜するしかないでしょうね。艦隊の各艦に搭載された小口径砲の数は20門を越えることは無いでしょ。半数も撃ち落とせないと推測します」


「軽巡洋艦の砲弾が降って来るのか……、飛行機の高度は200ステム(300m)ほどの高さを飛ぶとなれば、半数も期待できぬぞ!」


 再び室内が騒がしくなった。


「静まれ! 全く困った者達だ。すでに解決はできておる。リオ殿の今の対策には、我等がという主語が抜けておる。

 グライナー、先ほどの情報は金貨10枚の価値としたな。万が一、この対策をリオ殿が行えるなら、同盟軍はいかほどの対価を払わねばならん?」


「金貨では積み切れますまい。失った艦船を直ぐに作ることは叶いませんし、乗員の命を金貨で数えるなど持っての外、それに徴募した兵士を直ぐ艦隊に配属はできませぬ」

「領土も踏み荒らされそうだな。新たな国境線も引き直さねばなるまい。グライナーの言葉はそのまま陛下に伝えるが、構わぬか?」


「構いませぬ。その代わりと言ってはなんですが、フェダーン様はリオ閣下に敵の対策を依頼するお考えなのでしょう。私にはどのようにしてそれができるのか理解できませぬ」

「ウエリントンの軍人だけであれば構わぬか……。いずれ知られる話でもある。リオ殿も覚悟を決めるべき時だろう」


 確かにアリスを使うなら皆が知ることになるだろう。

 敵の兵士を殺すことになってしまうが、俺は軍人でないんだけど殺人罪が適用されるなんてことは無いだろうな。


「仕方ありませんね。なるべくなら隠しておきたかったです。……それと、今気が付いたんですけど、俺は騎士団の騎士ということになってるんですが、戦に参加して兵士を殺すとなれば殺人罪に問われそうな気もするんですけど?」

「安心するが良い。リオ殿はウエリントン王国の男爵だ。王国の貴族は全て予備役。招集権は陛下にあるが、私が委任を受けている。私の下で動くのであれば同盟軍の一員ということだな」


 思わず、フェダーン様に顔を向けてしまった。

 男爵位を俺に渡すのは、これを考えていたのかもしれない。国王ともなればそれぐらい考えているということか。


「フェダーン様の指示で動けばよろしいのですね。そんな裏があるとは思いませんでしたけど……」

「陛下も、そこまでの考えはなかったであろう。貴族を招集するなど、この100年間には無かったことだ。それに民政の一部なら代行できても、軍では使いものにならん。

 リオ殿の了解も得られたということで、先ほどの話に戻る。

 リオ殿、正確にはリオ殿が動かす戦姫であれば可能なのだ。

 この部屋におる者で、にあの戦姫が下りるところを見たものはおるまい。たぶん飛んできたはずだ。

 あの戦姫でなら、たとえ100機が同時に襲ってきても、この艦の上空に達するまでに撃墜されよう」


「それほどの戦機と? 我がウエリントンの戦姫はローザ様がどうにか動かせると聞いておりましたが、それを越えると!」

「あれは戦機ではない戦姫なのだ。私も1度乗せて貰ったが、あれほどの戦姫はこの世界に2つはあるまい」


「となれば、我等は飛行機を考えずに作戦を考えればよろしいですな?」

「そう言うことだ。最初にリオ殿が話してくれたことも忘れる出ないぞ。リバイアサンはその威容で相手を押さえられるであろう。霧に覆われた姿であるのも都合が良い。その姿をどのタイミングで使うのか。威圧は副砲、主砲の両者で考えねばなるまいな」


 おもちゃでも貰ったような表情で、両者が笑みを浮かべている。

 とりあえず言われた通りに動くことにしよう。士官候補生を借りているし、将来は退役軍人の斡旋もして貰えるんだからね。


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