M-100 空撮が可能なのは俺達だけ
アリスのコクピットに座るのが久しぶりに思える。
リバイアサンの離着陸台から一気に2千mまで高度を上げて、周囲の魔獣を探った。
『北東にチラノタイプ。距離110km、頭数6。前方90kmにトリケラタイプ頭数14。チラノタイプの移動方向はトリケラを追っているようです』
「リバイアサンは直ぐに進路を南西に変えるだろう。チラノの狩りの様子は観測室でも見えないだろうな。……ヴィオラの現在位置は?」
『レーデン川の渡河地点まで20時間というところです。現在の進行方向を考慮すると、渡河地点はこの2つの内のどちらかと……』
仮想スクリーンが開き、川筋と渡河地点が表示される。
2つの渡河地点の距離は50kmほどありそうだ。
「両渡河地点を中心に、200km範囲の魔獣を調査する。調査飛行はアリスが最適かしてくれ。結果は投影機で再現できるように」
『了解しました。タイプ、数、進行方向と速度のデータを取得します』
アリスが進行方向を変え、高度を下げる。それでも音速を越える速度で空を駆ける。
渡河地点周辺の状況を得たところで、アリスを通してヴィオラに通信を送る。
急に現れたら驚くだろうな。
『ヴィオラへの送信、完了しました。……返信です。「地上を走行して左舷側の開口部より乗船せよ」以上です』
「地上滑空モードに変更。距離3kmで減速しカーゴ区域に飛び込む」
『了解!』
まるで落下するように高度を下げると、地上スレスレで滑空モードに入った。時速80kmほどだから、数分でヴィオラを視認できた。
速度が落ちて荒れ地を駆けるようにアリスが移動する。すでに左舷の扉が開いていたから、飛び込むようにしてヴィオラに乗り込む。
「しばらくじゃな。リバイアサンに向かうのは少し掛かりそうじゃが、待っとるんじゃぞ。ドミニク達が会議室で待っとるぞ」
「大きな部屋を用意しときますよ。それではアリスをお願いします」
アリスのコクピットから下りながらベルッド爺さんと短い話をすると、後方のブリッジに向かって歩き出した。
かつて知ったる我が家だ。俺達の部屋は今でもあるんだろうか?
移動してしまったから、ベラスコ達が住んでいるのかな? 中々良い部屋だったんだけどね。
先行偵察を終えた後は何時も会議室で報告だったな。
暮らしていた頃を思い出しながら会議室に入ると、アレクやローザ達まで待っていてくれた。
「しばらくです。現在リバイアサンはブラウ同盟艦隊の展開地へと移動しています。航路をショートパスをすることにしたので、フェダーン様に報告する途中ですが、ヴィオラの出航を思い出しました。
レーデン川の渡河地点周囲200kmの魔獣の分布を調査しました。ご確認ください」
「まあ、御苦労なことだが、俺達にとってはありがたい話だ。座って話を聞かせてくれ」
アレクの隣に腰を下ろすとプロジェクターを取り出す。
壁に渡河地点周辺の地図を表示すると、そこにはいくつもの矢印が描かれていた。
赤がチラノで緑がトリケラらしい。数と移動速度が矢印の上下に表示されていた。
「ほう……。このまま進めば右の渡河地点になるんだな。出口付近が賑わってるな」
「左は渡河前に2つの群れですか……。どちらもトリケラタイプなら狩りができそうですね」
レイドラが壁に映し出された地図上の魔獣を手元の地図に書き写している。
プリンタ―があれば良いのだが、無いものは仕方がない。
ネコ族のお姉さんが俺の前に置いてくれたコーヒーを頂きながら、アレクとドミニクの会話を聞くことにした。
「隠匿空間に向かうのが先じゃないかしら?」
「だが、群れと群れの間を進むことになるぞ。2つを狩るのは止めにしても、1つの群れなら溝を掘ることもなさそうだ。8体ならガリナムもいる」
「そうすることになりそうね。時間を掛けると、このチラノが来ないとも限らない……」
無理な狩りはしないようだ。
少しは役だったかな。
レイドラが写し終えたことを確認して、プロジェクターを回収する。
「先を急ぎますので、失礼します。フェダーン様やカテリナさん達に伝えることがありますか?」
「あまりおかしなことを始めないでと母さんに伝えてくれない。リオには感謝してるわ。貴重な情報をありがとう」
「元気でやれよ。フレイヤによろしくな!」
肩をドンとアレクに叩かれた。思わず息を詰まらせる。
ベラスコが苦労してないと良いんだけど……。
「姉様に『会いに行く』と伝えて欲しいのじゃ」
「ちゃんと伝えるよ。……それでは、失礼します!」
ローザに小さく手を振ると、嬉しそうに手を振ってくれた。
義理の妹だからね。愛想良くしないと嫌われてしまいそうだ。
ベルッド爺さんのところで、一服させてもらい、リバイアサンの大砲の試射の話をしてあげた。照準の正確さに驚いているから、やはり火器管制システムの制御はこの世界を遥かに凌駕したものなのだろう。
アリスのコクピットに納まったところで、走行中のヴィオラから飛び出して滑空を開始する。南に向かって低速での滑空だから、あまり違和感を与えなかったはずだ。
「次はフェダーン様のところだな」
『西北西約1100kmです。高度を上げて飛行しますが、ハーネスト同盟の状況を偵察しますか?』
「お土産ってことかな。賛成するよ」
音速の2倍近い速度は、獣機の持つ2連式の長銃が放つ弾丸よりも速いかもしれない。少なくとも囮役をしていたころ使っていた55mm砲よりは上だろう。
30分も掛からずにブラウ同盟の艦隊の上を跳び越えた。
地上をレーダースキャンして、ハーレット同盟軍を探す。10分もせずに機動艦隊を見付けることができた。
「戦艦が4に、巡洋艦が6。駆逐艦が20はいるようだな。輸送船を伴っているのか……。あれでは移動速度が限られてしまいそうだ」
『輸送船は8隻ですが中央の2隻は甲板構造が異なるようです。高度を下げて詳細を確認します』
広域探査ということで高度を5千mまで上げていたんだが、3千mまで高度を下げ、素早く通り過ぎた。艦隊を構成する間の形状は詳細な画像を取り込んだから、フェダーン様なら、それが何かを判断してくれるだろう。
両者の距離は800kmほどだ。
互いに相手を視認できる距離まで近付くのだろうか……。
『敵同盟軍の飛行機を確認。高度300mで艦隊の前方を偵察中のようです』
「あれだね。2機か。滞空時間が短いから交互に送り出してるんだろうな」
精々50km先を偵察しているようなものだ。艦隊の移動速度が時速15kmにも満たないようだから、それでも十分に役立つのだろう。
ブラウ同盟の艦隊上空に到着すると、こちらも同じように偵察機を出していた。1機というのは数が少なく思えるけど、広域偵察ということで、一定時間ごとに艦隊の周辺を一巡りさせているのかもしれないな。
「アリス。フェダーン様に連絡だ。『現在艦隊近くで待機。会談したく参上、リオ』と伝えてくれ」
『了解です。送信終了しました』
会ってくれれば良いんだけどね。それにしても星の海近くで会戦するつもりなんだろうか?
これでは、互いに陸上艦を並べての砲撃戦になってしまいそうだ。
『巡洋艦よりの返信を確認。会ってくれるそうです。「信号弾を放つ巡洋艦の甲板に着地せよ。迎えを出す」以上です』
直ぐに、中央近くの巡洋艦より信号弾が上空に上がってきた。
あの巡洋艦だな。ジョイスチックを倒して、上空から真っ逆さまに甲板目がけてダイブする。
甲板の直ぐ上でアリスが体を反転すると、ゆっくりと甲板に下りる。
コクピットを開いて、甲板に降り立つ俺の下に、銃を持った数人の男が駆けつけてきた。
数人が銃口を俺に向ける中、若い士官が俺に近付いてくる。
「失礼ですが、リオ男爵閣下でよろしいでしょうか?」
「そのリオで間違いない。銃は使っても構わないが、使ったならこの巡洋艦は破壊されるぞ」
「銃を下げろ! そのまま、戦機の警戒に当たれ! ……フェダーン殿がお待ちです。ご案内いたします」
後ろの兵士に伝えると、俺に向かって騎士の礼を取る。軍人ではないから、軽く片手を上げて答礼とした。
士官の後に付いて、艦内に入る。
軍艦はエレベーターを持っているからなぁ……。ブリッジの上階に移動するにも、階段を歩かずに済む。
エレベーターを下りて直ぐの扉を開けると、20人程の席がある大きなテーブルがあった。
軍服にたくさんの勲章を下げた壮年の男女がフェダーン様の前に座っている。
「リオ男爵閣下をお連れ致しました!」
「御苦労。戦姫の警護は出来ておるな? 近付く者があれば射殺も許可する。あの戦姫は別物だ」
「了解しました。1個分隊を派遣します」
士官の答えにフェダーン様が小さく頷いた。
「長旅であったろう。こちらに座るが良い。リバイアサンをこちらに向かわせている途中であったはずだが、アクシデントがあったのか?」
フェダーン様から2つ席を外して席に着く。
さて、どこから話そうかな……。
「リバイアサンの航行は順調です。大砲の試射を行いました。中々良い成績です。それより大型の大砲のようなもの……、ドラゴンヘッドについても試射しましたが、とんでもない代物でした。
1撃で20ケム(30km)先の艦隊を全滅しうるものです。
とは言え、照準調整範囲が狭く射撃までの時間が1時間程掛かってしまうのが難点ではあります」
「ほう……。主砲ということか。やはりあったのだな。場合によっては射点をずらしての発射も可能であろう。良い土産だ」
「土産と言えるかどうか……。本来であれば、フェダーン様の指示して頂いた航路でこちらに向かうのですが、士官候補生の操船の練度も上がりました。星の海を迂回せずに真っすぐにこちらに進んでおります。
到着は2日短縮され、3日後には北東よりやってきます。敵の発見が遅れるよう、霧を纏って接近しますことをあらかじめお伝えいたします」
「おもしろいな。隠し玉というところか。戦前の交渉を有利に進められるだろう。ここで2日待っておるのだが、まだ敵の姿を捉えられん。あまり時間が無いように思えていたところだ」
「なら、調度良いお土産があります。少し部屋を暗くできませんか? 西南西約800kmで捕らえた映像をお見せします」
直ぐ照明に布が掛けられた。
バッグからプロジェクターを取り出し、壁に映像を映し出す。
先ほどの話を聞いていた軍人達も、少し安心できる材料ができたことで、隣同士の話し声が聞こえてきた。
「「何だ(と)!」」
全員の視線が画像に釘付けになった。
驚くだろうな。まだこの世界では艦隊の全容が分かるような高高度からの空撮画像は無いはずだ。




