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M-010 小型の魔獣は戦機で狩る


 陸上艦に戻った俺をアレクが出迎えてくれた。わざわざカーゴ区域で待っていたということは、先行偵察の様子を早く知りたかったということなんだろう。


「艦尾のブリッジに行くぞ。ドミニク達が待っている」


 艦内を駆けるようにして船尾の2階に向かう。最初に案内された部屋に入ると、すでにドミニク達がテーブル席に座っていた。

 テーブルに広げられたのは地図なんだろうな。アリスが俺に見せてくれた画像と少し違ってるが、西の大河の手前に陸上艦のミニチュアが置かれていた。


「それで?」


 報告してくれということなんだろうか?

 地図に描かれた浅瀬を指さして、状況を伝える。


「チラノの小型ということはサベナス辺りになるか?」

「イグナッソスとも考えられるわね。数が問題だけど……」


「確認できたのは数頭でした。魔獣の特徴としては首についた突起ですね。まるでたてがみのようにも見えました」

「サベナスだな。中位魔石が取れるぞ」


 狩るということなんだろうか?

 初めての狩は防戦のような感じだったが、あの場所で空堀を掘るような場所はなさそうだ。


「浅瀬を渡河すればいい。俺達がサベナスを狩る」

「周囲の警戒はどうするの? 探索車を残しては行けないわ」

「リオに期待する。俺達で狩を行い、周囲をリオに任せれば良いんじゃないか?」


 狩場に近づく獣や魔獣を獣で牽制するってことか?

 ベレッド爺さんに派手に火の粉が飛ぶようにお願いはしてあるんだけど、あれで注意を引いて引き離せば良いだろうし、上手く行けば退散してくれるかもしれない。


「それで行ける? チラノタイプは肉食だから小型種でも中位魔石が期待できるわ」


 ドミニクの言葉にアレクが力強く頷いた。

 これで狩は確定になるんだが、アレク達の魔撃槍で倒せる相手なんだろうか? 後で確認しといた方が良さそうだ。


「では、狩は明日の昼頃。ヴィオラは渡河地点で待機するわ」

「了解だ。昼に船を降りる。魔撃槍は各自2本で十分だろう」


 色々と疑問はあるが、船首に行けば教えてくれるだろう。

 ドミニクに軽く頭を下げると、俺達は船首に向かって歩き出した。

 船首に到着と同時にカップが渡される。シレインが注いでくれたのはワインだから、ゆっくり頂くことにする。


 木箱に腰を下ろしたアレクが美味そうにワインを一息に飲むと、仲間を見渡してにやりと笑みを浮かべる。


「明日の昼に俺達だけで狩を行う。狙いはサベナスだ。近距離なら魔撃槍の良い獲物ではあるが、数頭というから俺とサンドラ、カリオンとシレインで組む。

 周辺はリオが監視してくれるし、場合によっては牽制してくれるだろう。万が一の時には浅瀬に向かって撤退だ。ヴィオラが俺達を援護してくれる」


 アレクが説明しながらテーブル代わりの木箱の上にボトルやカップを並べて作戦を描いている。簡単な説明だけど、カップを動かしながら説明してくれるから俺にも理解できる。


「サベナスの根拠は?」

「首のたてがみだ」


 カリオンの疑問にアレクが速攻で答えた。カリオンが大きく頷いているところを見ると、あの魔獣の特徴なんだろう。


「数を考えれば魔撃槍は1本でいいが、念のために2本を持つ。狩が成功した後の解体も俺達で行うぞ」

「1本で十分だと思うが、次の奴が来ないとも限らないか……」

 

 アレクとカリオンの会話が続いている。俺が首を傾げていると、サンドラがサベナス狩りについて簡単に教えてくれた。

 どうやら、チラノタイプと呼ばれる2本脚歩行の魔獣の中では一番下に位置している魔獣らしい。魔撃槍の一撃を200スタム(300m)で放てば、貫通しないまでも、体内深く杭のような銃弾が突き刺さるとのことだ。


「実際は100スタム(150m)ほどで放つから、1撃で葬れるわ。2射したら他の騎士達の笑いものよ。でも、リオの戦機の持つ銃は獣機の連中と大差ないから50スタム(75m)以下でないと、銃弾がはじかれるわ」

「今回は、炸裂弾を持って周回です。狩りに支障出るような時にはアレクに連絡しますよ」


「そうだ。始める前に通信を行うぞ。援護が期待できないからな」


 急に俺達に向かって顔を向けたアレクが大声を上げる。ちゃんと俺達の会話も聞いていたんだろう。ずっと飲んでいたように思えたんだけどねぇ。

 小さく頷いて答えたら、ワインをカップの縁すれすれまでに注がれてしまった。夕食までに飲み終えるかが問題だな。


 アレクが通信をすると言っていたけど、魔石を使った通信は通話距離がそれほど長くない。せいぜい10km範囲のようだ。それ以上に離れると、ライトを使ったモールス信号モドキ、もしくは信号弾を使うことになる。

 明日の場合は比較的狭い範囲での狩だから、魔石を使った通信ということになるんだろう。だけど、ヴィオラ本艦への連絡は信号弾に頼ることになりそうだ。


「ところで、サベナスという魔獣はどんな奴なんですか?」

「記憶が定かではないんだったな。シレイン、図鑑を持ってるか?」


 アレクの言葉に、シレインが腰の後ろに下げたバッグから薄手の本を取り出した。頁をしばらくめくっていたが、「これこれ!」と言いながらテーブルに本を広げてくれた。

 そこに描かれたサベナスの姿は確かに先行偵察で見つけた奴そのものだ。


「危険なんですか?」

「体高は最大でも8スタム(12m)だ。体重も6トワ(12t)と、チラノタイプと呼ばれる肉食魔獣の中では楽な獲物だ。

 だが、その図鑑の注意事項にあるように頭骨が極めて厚いし、歯は獣機の装甲板を軽く食い千切れる。戦機の装甲板は獣機と比べるまでもないが、無傷とはいかんだろうな」

「サベナス狩りで大破は聞いたことがないが、中破の話を聞かない年はない。まともに噛まれれば、この口だからな」


 体の五分の一ほどもある大きな頭だからな。それに鋭い無数の牙が生えているようだ。恐竜の歯というよりもサメの歯のように見える。


「とはいえ、リオに魔撃槍を持たせなくともいいのか? 獣機の持つ銃よりは威力があるだろうが、しょせん、火薬式だ」

「自分の身を守るぐらいはできるだろう。逃げながら俺達に連絡してくれれば十分だ」


 カリオンが心配してくれたのは嬉しいけど、そんなことになったらアリスが自動的に魔獣を排除しかねない。あらかじめ言い聞かせておいた方がいいのかもしれない。

 戦機だけの狩りだから、いつもよりもにぎやかだ。

 夕食を頂いたところで、今夜は早めに休むことになるんだろう。


 翌日。朝早くに船首に向かうと、地平線の奥が黒く盛り上がって見える。あれが大河の量岸に広がる灌木混じりの緑地帯のようだ。


「今日は、狩りって聞いたにゃ? だいじょうぶかにゃ」


 周辺監視の役目を持ったネコ族のお姉さんが、お茶のカップを手渡してくれた。狩りの成功が収入に直結してるから、少しは心配になったんだろう。


「狩りは、アレク達4人で行う手筈です。その周囲を俺が見てますから、ヴィオラから離れた狩りでも何とかなるんじゃないかと思ってますよ」

「藪に紛れて近づく魔獣もいるにゃ。それじゃあ、頑張るにゃ」


 ネコ族の女性は語尾に「にゃ」が付く。男性は普通に会話するんだけど、特別な理由はあるんだろうか?

 もっとも、俺はネコ好きだから、どちらかというと嬉しくなってしまうんだけどね。

 タバコを取り出し一服を楽しみながら朝の空気を味わうのは至福の時間だ。

 大河の近くに来たせいなのか、ほこりもそれほど気にならない。後は、今日の狩りが上手く行くように祈るだけだ。


 昼前になって、ヴィオラの動きが止まる。

 舷側の扉が開くと、戦機が2本の魔撃槍を持って次々に艦を下りていく。最後は、銃を持ったアリスになる。俺達が艦を下りると直ぐに扉が閉じられ、陸上艦は南西方向に進んでいった。


「さて、狩りを始めるぞ。早速だが、リオは単独で偵察をしてくれ。サベナスを見付けたら連絡を頼むぞ」


 アレクからの通信に、アリスが片手を上げて答える。

 すぐに北に向かって動き出したんだが、サベナスの位置はアリスが動体センサ―で、すでに抑えているらしい。

 少し時間を潰してから連絡をすればいいだろう。


『昨夜にサベナスも狩をしたようですね。昨日と違って草の上にいるようです』

「狩りの途中をアレク達が狩るというのでは、いろいろと想定外が起こりそうだけど、じっとしてるなら都合がいいね」


 ゆっくりとサベナスに近づいたが、距離500mでは俺達の動きをさほど気にした様子もない。

 数は……、6頭だな。アリスが開いてくれた仮想スクリーンには周囲20kmの範囲に大型の獣はいないようだ。

 これなら、安心してアレク達も狩れるだろう。


「アリス、アレクに通信だ。現在位置をアレク達からの方向で教えてやってくれ。俺達は、周囲を監視するぞ」

『了解です。……通信終了。「後は任せろ」と伝言です』


 アリスを少し北に移動する。岡の上のような場所だから、南西にサベナスの群れを見下ろせる。ここならアレク達の狩りを見学するには好都合だ。

 仮想スクリーンには、先ほど俺達がいた場所に移動するアレク達の戦機の動きがはっきりと映し出される。

 やがて、2手に分かれたのは、サベナスを確認できたからだろう。

 急に動きが鈍くなったように見えるのは、ゆっくりと魔獣に近づいているからに違いない。


 サベナスの群れに対して、川下と真横から攻撃するようだ。

 魔撃槍の弾丸は3発らしいから、すでに狙う獲物は個々に決めているんだろう。

 やがて、群れから200mほどの距離で歩みを止めたようだ。

 慎重に狙いを定めているのが、ここにいても分かる。

 

 突然、サベナスの群れが狂ったように騒ぎ立てる。川上に逃げ出そうとしたが、それほど逃げることもできずに動きを止めた。どうやら無事に狩りを終えたということなんだろう。

 アレク達が仕留めたサベナスのところに向かっているのは、魔石を取り出すためなのかもしれない。

 となると、血の匂いに集まってくる輩がいないとも限らないから、改めて動態反応を映し出した仮想スクリーンに注目した。


「アリス、どうやら獲物を解体するようだ。血の匂いに集まってくるかもしれないから注意しといてくれよ」

『了解です。現在のところは小型の草食獣ばかりですね。5km圏内に体長3m以上の獣が来ればお知らせします』


 アレク達には俺が動かずに周囲を監視していることは分からないだろうな。距離を取って周回しながら監視していると思っているに違いない。

 ジッと仮想スクリーンを眺めることおよそ1時間。アレクから通信が入ってきた。


「リオ。聞こえるか? 俺達の狩りは終わった。ヴィオラに帰還する。2度ほど周囲を回ってヴィオラに戻ってくれ」

「了解です。今のところは小型の草食獣を見掛けるぐらいですね」


 俺の通信を聞いてすぐに、アレク達が川下に進んでいく。

「狩ろうなんて考えるなよ!」とアレクから通信が入って来たけど、どう見てもウサギにしか見えない獣を、アリスを使って狩ろうなんてことは牛刀も良いところだ。


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