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偶然の遭遇

アレックスは十数人ほどの男女の集まりに紛れるように立っていた。とは言っても彼だけ全体的に色素が薄いので、集まりの中でも一際目立つ。その集まりからパッと一歩抜け出たと思ったら、彼はこちらに駆け寄って来た。


「ミキさん」

「アレックス、偶然だね」

「どうしてこんな所に?」

「ん?ああ、ちょっと同僚と飲み会で」


アレックスは私の隣に立っているコンちゃんに視線を移し、ペコリと頭を下げた。今度はコンちゃんが目を丸くしている。二人とも同じくらいの背丈で、視線がバッチリあってしまったらしい―――ウッと怯みつつ、コンちゃんは会釈を返した。


「こちら私の同僚の今さん。コンちゃん、こちらはアレックス……えーと……私の……」


何と言って良いか迷う。コンちゃんだって同僚と言うほど近い位置で働いている訳じゃないのだけど、同じ会社の同期の……とかこんな所で長話も面倒なので説明を端折ってしまった。アレックスは詰まるところ、つい先日映画友達になったばかりの、一見西洋人にしか見えないけれども英国と日本の二重国籍を持つ大学生で……うーん……。


口籠っていると、私の次の言葉を待つ二人の巨人の視線がチクチク突き刺さる。もう適当でイイやっと私はこちらの説明も端折る事にした。


「私の―――えーと、英会話の先生?の代理の……学生さん?」


何だか苦しい言い回しだよね。疑問符がところどころ挟まった怪しい説明になってしまうのは仕方が無い。


「英会話の……?……日本語、随分上手だね……」


コンちゃんが、ポロリと言った台詞で今度は私がウッとなってしまった。彼に悪気が無いのは重々承知している。だけどアレックスの立場からすると、きっとウンザリしてしまう問いかけなんだろうなって思ってしまった。

見た目と英会話だけで即異国人認定しちゃった少し前の自分にコンちゃんの台詞が重なって、申し訳ないような恥ずかしいような気持ちに襲われる。普通にお喋りして仲良くなった今では―――如何に自分がテンプレな思い込みに捕われていたのかって思い知らされてしまうんだ。


いやでもね?……初見は英会話教室だったし、英国人指定でお願いしていたんだから……私があの出で立ちのアレックスを日本人ではないと思うのは仕方無いっちゃー仕方無いよね?と、罪悪感があるからかつい胸の内で一人、余計な言い訳を始めてしまう。


けれども私のみっともない葛藤を余所に、コンちゃんの不躾に取られそうな問いかけに対してアレックスは気を悪くする様子も無くニコリと微笑んでこう応えたのだった。


「俺、こんなナリですが日本人なんです」

「あ、そうなんだ……」


パチリと瞬きをしたコンちゃんは、拍子抜けしたような表情でそう答えた。そうだよね、アレックスって見た目と話し方にかなりギャップがあるよね。容貌にはあまり日本人特有の特徴が見当たらないから余計、かなぁ。

アレックスはその話題を引っ張る事はせずサラリと流して、私に視線を戻した。


「ミキさん、もう帰るんですか?」

「あ、うん」

「じゃあ、俺も帰るトコだから送りま……」

「ちょっと、何してんの。行くよ!」


グイッとアレックスの体が後ろにかしいだ。先ほどの集団から駆け寄って来たと思われるショートカットの小柄な女の子が、彼の腕を引っ張っている。


「いや、俺もう帰ろうかなって……」


アレックスが私を見ながらそう言うと、女の子は眉を寄せて厳しい表情を作った。


「駄目!約束したでしょ、一年生期待しているんだから」

「う……分かったよ。じゃあミキさん、また月曜日に……」

「タロー!月曜日って、まさかアンタ性懲りも無くまた……モガっ」


何故か噴火したように怒り出したショートカットの女の子を、慌ててアレックスは羽交い絞めにして背後から口を塞いだ。


「行くから!分かったよ、戻るから」


そう言って女の子の向きをクルリと百八十度反転させ、彼女の背中を押して大股で歩き出した。その大きな背中が遠ざかっていく途中、彼はチラッと振り返り「じゃあ、また連絡するね!」と手を上げ私に念押しすると―――そのまま彼等を待っていた集団の中へ吸い込まれて行ったのだった。







「……何だったの?」


私の後ろで事の成り行きを見守っていたコンちゃんが、ポカンとした顔で呟いた。


「んー……さあ?」


私にだって何が何だか良く分からない。

あのショートカットの小柄な女の子……友達かな?若しくは彼女?と上手く行ってないのだろうか。……とチラリと頭に浮かんだものの、最近仲良くなったばかりのアレックスの交友関係なんて全く把握していないから、その先を考えるとっかかりすらない。


その後は取りあえずコンちゃんと一緒に最寄り駅まで歩いて、沿線が違うのでホームで別れた。

スルリとホームに滑り込んで来た電車に足を踏み入れ、地下鉄の吊革につかまって……壁に貼られた広告を眺める。ふとアレックスと髪色の似た西洋人風の男性モデルに目が留まり、疑問が口をついて出た。




「『タロウ』って……誰?」




見た感じ、あの集団は学生の集まりのようだった。サークルとか……もしかして合コンだったりして。そんでもってあの遣り取りから察すると……一年生を集める餌にアレックスが使われているのだろうか?だとしたら逆らわずに言う事を聞いているなら、彼はかなりお人好しなのか……


それとも、単なる女の子好き?


そう言えば英国紳士に擬態していた時は妙にエスコート慣れしているような雰囲気があって、だから年上の紳士って言う印象が崩れなかったんだよなぁ……あ、でも日本語になった途端、ちょっと印象崩れたけど。


アレックスって変なヤツだ。会うたびに色んな面が見える。

今日の彼は丸きり、学生!って雰囲気だったなぁ。あのショートカットの女の子とも気安くじゃれていて―――って、まああれだけ綺麗なんだもん。仲の良い女の子なんて一杯いるよね?彼女だっているかもしれない……やっぱりあの子がそうなのかな?でもそれなら映画のカップル割引は彼女と行くよね。それとも私と同じで、趣味の合わない彼女に無理を強いるのは嫌なタイプの人間だったりして。


それにしても『タロウ』って何だろう?……ひょっとしてあだ名?だとしたら、あのアレックスの容貌に激しく似合わなすぎるんだけど……。


「まあ、いっか」


悩んでも答えが出る訳じゃ無し!

切り替えが早い事で定評のある私は、そう結論付けて頭から疑問を押し出したのだった。



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