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映画友達

戻ってまいりました。続きを投稿します。



ここ最近、映画は一人で観るもの、になってた。


大きな理由は二つ。

感情移入しちゃうタイプなのでついつい映画の世界にのめり込んでしまい、一緒に行った人を置いてきぼりにしちゃうと言うのが一つ。友達や彼氏とはそれ以外の時間にじっくり話をしたいからだ。もう一つは観る映画を選ぶ時、自分の希望だけを優先して選択できるから。一緒に観る人がいると相手に気を使って、自分が観たい!と思える作品を選べないのだ。それにフライヤーの印象で『観たい!』と感じた映画が―――残念ながらイマイチ微妙な作品だった……と言う結果もよくある事で。けれどもそう言う冒険が楽しくて映画を観ている部分もあるのだ。だからその賭け事みたいな趣味に友達や恋人のお金を使わせるのは申し訳ないと思ってしまう。つまりは純粋に自分の楽しみを追求したいと言う私の我儘を通している、と言うだけなのだけれど。


だから本当は『コンサルティング探偵シド』も、情報を知っていれば自分一人で観ていたと思う。だけど今回はアレックスから申し出て来たのだから、仕方が無い。何となく強引に押し切られた感がぬぐえず、微妙に面白く無いと言う心情はあるけれども……だからこそ、気を遣わず勝手に楽しませて貰おうと思った。




結果映画は―――うん、大変楽しかった。




そしてアレックスも実は『コンサルティング探偵シド』のファンだったのだのだと、その日発覚したのだ。彼はもともとドラマのファンで、だからこそアリスの代理としてあのレッスンを受ける事になったらしい。映画館を出た後寄ったカフェで過去のドラマの話で盛り上がってしまい―――結局かなり長居する事になった。


帰り道の私は、最初の不機嫌が打って変わってスキップしそうなくらいご機嫌になってしまっていた。


ガチで趣味真っ只中、嵌っているドラマの話題を思う存分語り合ったのだ。これが楽しく無い訳が無い。日本語で話すアレックスは、ミニシアターで出会った時のような過剰なエスコートもせず日本人らしい距離を保ってくれたし、私同様、会話を純粋に楽しんでくれたように感じた。

あの時のチャラい彼は何だったんだろう?と思わないでも無かったけれども、こんな調子で話せるのなら、これからは楽しく映画友達付き合いが出来るのになぁ……とも思ったのだった。

だから彼からこんな提案を受けた時、ご機嫌な私は一も二も無く頷いた。


「やっぱりミキさんとは趣味が合うなぁ。この間のイタリア映画もそうだし―――もし良かったら観たい映画が被ったら、カップルデーに待合わせて一緒に観に行かない?」

「いいね!ほぼ半額になるしね」

「浮いたお金で隣のシネカフェのセット食べられるしね」

「さすが金欠大学生……しっかりしているね」

「……それ褒めてるの?」

「褒めてる、褒めてる」

「……褒められているような気がしないなぁ……」


ちょっと拗ねる様子が可愛らしくて、思わず噴き出してしまった。

こんなに楽しく話が出来る相手だなんて思ってもみなかったから、ギャップもあって返って嬉しくなってしまう。今まで年下の男の子でこんなに話が合う子いなかったもんなぁ……意外と彼との会話を楽しめている自分が不思議だった。年上の異国人だって思い込んでいた時はドキドキしっぱなしだったのに、恋愛対象にもならない学生だと分かった途端、気負いがなくなったのかもしれない。異性だって意識し過ぎず、緊張せずに話せたから、こんな風に楽しめたのかもな。


初対面では年上のパリッとした異国人にセクハラを働いてしまったと思って蒼ざめた―――映画館で英国紳士バリにエスコートされてドギマギして―――実は日本人の軽~い男に揶揄われたのだと腹を立てて……と思ったら、何と彼は今まで出会う事の無かった趣味の合う年下の男の子だった。


人生何が起こるか分からないものね、こんな出会いがあるなんて思いもしなかった。

―――と言う訳で、私は初の一緒に映画館に行ける、映画友達を得る事になったのだ。








『コンちゃん』は二つ年上だが、私の職場の同期だ。苗字は『今』と書いて『コン』と呼ぶ。研修で仲良くなった同期は、みな愛称で呼び合っている。勿論、仕事中は『今さん』と呼ぶけれども。東京出身で大学時代を北海道で過ごし、そのまま気に入って札幌に居ついてしまったそうだ。実はこういう人は結構多いらしい、同期の新人のうち三分の一はコンちゃんと同じような道外出身者だ。

今日は同期三人で飲みに行く予定だったのだけれど、参加者の一人『松山さくら』こと『サクちゃん』が急な残業で遅れる事となった。したがってコンちゃんと私、二人で先に飲み会を始める事となった。


コンちゃんは見た目が整っていて、体格もガッチリしているスポーツマンだ。ちょっと見モテそうな素敵な男性なのだけど―――言葉遣いが少しなよっとしていると言うか、女の子っぽく感じると言うか……とにかく男性を感じさせない。だから男女二人きりで飲むような状況に陥っても、ちっとも色っぽい気分にならないから非常に気楽で助かっている。話題の切れ間にだからついつい気安く本音を漏らしてしまった。


「コンちゃんって、言葉遣いが―――丁寧と言うか……女の子っぽいよね。私最初、その~コンちゃんって、心が女の人なのかなって誤解していた時期があったんだ。だから地元に彼女いるって聞いた時は内心かなり驚いたよ」


そう打ち明けると、彼からは即反論があった。


「ちょっとヒドいな~、そんなワケないでしょ!それを言ったら僕だって思ったよ?北海道の女の子ってちょっと、ううんかなり言葉が乱暴だなぁって!」

「……うん、育った土地の問題だったんだね。ゴメンね、変な風に気を使ってしまって」

「分かれば良いの!」


でも本当に東京の男の子って皆こんな話し方するのかな?ってやっぱり首をかしげてしまう。テレビドラマなんかを見ていると、もっとワイルドな口調で話す男性ばかりだよねぇ?地元出身の女子の口調がガサツって言うのは確かに否定できないけど……。同期で集まると専ら女性陣の方が会話を独占しているもんね、どうしても男性陣は聞き役に回る場面が多くなってるし。私達の同期の女性陣と男性陣が、とりわけそう言うタイプが多いのかもしれないけれど。


「でもコンちゃんは偉いよね。大学時代の彼女との関係をちゃんと続けているんだから……私なんて仕事して二ヵ月ちょっとで連絡途切れちゃって、結局別れちゃった。昔からの彼女を大事に出来るって、コンちゃん意外と男らしい所あるよね。うん、見直したよ!立派な男性です、コンちゃんは!」

「……最初から言われるまでも無く、男性なんですけど……」

「アハハ……そうだね、ゴメンゴメン!」


なんて軽く盛り上がって笑っていたが、かなり時間が経過していた事に気が付いてそろそろ店員さんに伝票をお願いする事にした。サクちゃんの残業があがるのを待っていたのだけれど、結局合流できずに終わりそうな雰囲気なのでお開きにして後日また時間が合った時に何人かで集まろうと言う事になった。入社して三年……同期の友人達はそれぞれの部署で仕事を任される立場になっていて、なかなか全員が顔をそろえるのは難しくなってきている。


「今日は残念だったけど、また皆で集まりたいね……来年は皆異動もあるだろうし」

「うん、そうだね」

「そう言えば遠距離の彼女とどうするの?異動を機にこっちに呼び寄せたりとかしないの?」

「え?うーん……あっちも仕事があるから……」

「そう?……女の子だったら、そろそろ結婚とか意識しているんじゃないかと思うけどね。確か私と同い年だよね、彼女。大学の後輩……だっけ?」

「うん、そう」


そう頷いてから、暫く何事かを考えるようにコンちゃんは押し黙った。それから少し残った飲み物に口をつけて、ボソリと呟いた。


「……『結婚』か……じゃあ、ミキちゃんもそろそろ意識しているってコト?『結婚』を」


なんて思ってもみなかった質問のブーメランが飛んで来て、思わず分かりやすく動揺してしまう。


「え?!……いやぁ~私はまだ……だって、そもそも相手がいないし!ホラ、コンちゃんと違って彼とも遠距離続けられないような根性無しだからさ!」

「……ふーん。でも相手がいたら、意識するんだ?」

「いや、一般論ですよ?まだ仕事だって半人前だしねぇ」

「……」


コンちゃんは氷だけ残ったグラスを見つめてカランと音を立てた。何だか深刻な雰囲気で、話題の選択を間違ったのかもしれない、とヒヤリとする。もしかしてコンちゃん、彼女と結婚で揉めてたりして。例えば、結婚したいって考えているのに彼女が仕事に夢中でそんな事言い出せなくて……とか?もしかして地雷踏んじゃった……?


「あのさ、もし僕が……」

「?」


グラスを見つめながら、硬い表情のコンちゃんが口を開こうとした時、お店の店員さんが伝票を持って現れた。


「……何でも無い。ええと、じゃ出よっか」

「あ、うん」


話の途中だったけど、あまり席を占有していては後の人に迷惑だろう。私達はさっと立ち上がってレジへと向かった。コンちゃんが何か言いかけていたけれども、何だか妙な空気が漂っていたので、突っ込んで良いもんかどうか迷ってしまう。

会計を終えた後、地下の居酒屋からの階段を上がりながら靄を振り払うように私は明るく口を開いた。


「いやー美味しかったね」


するとコンちゃんも何事も無かったかのように、明るく笑顔を返す。


「うん、そうだね。次は是非サクちゃんも連れてかないとね!」


なんてたわないない感想を交換しつつ地上に出た処で―――見覚えのある背の高い異国風の男性と目が合った。




「あ……」

「どしたの?ミキちゃん」

「えっと、知合いが」




アレックスだった。こんな場所でバッタリ会うなんて思いも寄らなかったから、かなり驚いた。一方で彼も、緑色の目を大きく見開いて私を見ている。


何となく思った。―――ひょっとして認識していなかっただけで―――行動範囲、もともとかなり被っていたのかな?



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