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伝わらない!  作者: ねがえり太郎
蛇足 再び、アレックス
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決意の後 【最終話】

予告無しでスイマセン。アレックス視点はこちらで最後になります。



大学の中央食堂がひどい混みようだったので、食堂の一階にあるパン屋でカレーパンとチキン南蛮パン。オヤツ代わりの豆パンに牛乳を手に入れた。食堂のすぐ横の池にあるベンチに腰掛け、齧り付こうと口を開けた処で隣にトスンと誰かが座る気配がした。


視線を向けると、それはハルだった。


「ねえ、随分元気になったね」

「ああ」


勘違いとは言え、ハルがあの日連絡してくれたお陰でなっちゃんに会えた。一日置いた後だったら、あんな風に何もかも曝け出す事は無かったかもしれない―――だから、結構彼女には感謝している。


もう俺の中には憂いも迷いもない。方針さえ固まれば後はただ努力するのみ。就職さえすれば全てのハードルが消え去るなんて単純に考えている訳じゃないけれど、やれるだけやってみるって覚悟が固まったんだ。ハルには何だかんだ言ってまた助けられたな、と思う。


もう駄目な言い訳を何かの所為にするのは止めだ。英国人だって日本人だって関係ない―――俺は俺なんだ。まるきりの日本人にも、完璧な英国人にもなれない。……だけどそれに対する不満をウジウジ抱えたまま、流されたり振られたりしたからって、それをただ受け入れてガックリと蹲るだけなんて―――ミキさんに関しては出来ないって思い知った。諦める事が出来ないなら、だからこのままの俺で今できる事をやる、それしか無い。


「……あの時の落ち込み具合を見てたら、振られたのかと思ったけど」


手に持った珈琲に口を付けながら、ハルは記憶を反芻するように呟いた。隠す事でも無し、と俺はサラリと返答する。


「振られたよ」

「え」


視線を此方に向けて、吃驚したように目を見開くハルと目が合う。


「ハルの言う通り『学生』じゃ駄目だった」


勢いよくツッコミが飛んで来るだろうと身構えていると、ハルが息を飲んで押し黙ったままなので首を傾げる。


あれ?『だから言ったのに、バッカじゃない!』なんて言い放たれるとばかり思っていたのに。反応が無い事に違和感を持ちながら、真正面の池に目を戻して決意を口にする。ハルに、と言うより自分に言い聞かせるように。


「だから―――ちゃんと就職して社会人になる」

「なっ……」


ハルが絶句した。呆れたんだろうと思う、俺の諦めの悪さに。ガッと肩を掴まれて無理矢理体を彼女の方へと向けられる。そして呆れと言うより、むしろ怒りの籠った瞳で睨みつけて来た。


「何でそこまで?意味わかんない!」

「お前、ホントにきっついな」


ハルの迫力にちょっとだけ怯んでしまったが、タハハと笑って流した。すると引き気味の俺の肩から手を離し、視線を池へと移したハルは荒げた声を一旦落ち着かせるように溜息を吐いてボソリと呟いた。


「そのままでいいじゃん」

「……『諦めろ』って?」


言われると思ったけど、やっぱキッツいなぁ。流石にムッとして言い返すと、俺以上にムッとして唇を引き結んだ、彼女の渋面が目に入った。


「……あんたはそのままでイイ奴じゃん。だから何も変える必要はない。あんたのイイトコに理解の無い奴に、無理してまで付き合う必要なんてない」

「……」


うわ……吃驚した。

不覚にもちょっと感動させられてしまう。


―――が、いやいやマテマテ。と自分に言い聞かせる。


これまでのハルの傍若無人な行いや言動が、映画のエンドロールに乗って流れる名場面のように頭の中に次から次へと浮かび出して首を振る。


「そんな事言ってさ……女優さんのホスト役やらせたり無理なコトさせてこき使うのはハルの方だろ。『そのままで勝負すればいい』って……矛盾してるよ」


ハルが俺を褒めるなんて珍しい。僅かに照れくさいのもあって、だから俄かにその褒め言葉を受け入れるのは抵抗があった。するとハルはショートカットをクシャリと握り、それからそっとその手を下ろした。


「その子とは付き合う訳じゃないでしょ。あんたの良さをちゃんと見てない女の子なんて論外。そうじゃなくて……」


本当に珍しい事があるもんだ、と俺は瞬きを繰り返してしまう。


コイツ本物のハルか?狐か何かが化けてハルの形を借りているんじゃないかって、胡散臭く思ってしまう。ついこの間研究室で徹夜した明け方、大学構内の畑を悠々と横断する狐を見掛けたばかりだった。札幌駅に歩いて十分も掛からないこんな場所にも生息しているんだなぁって、友人の目撃情報を聞いていたのに改めて感心してしまったものだ。目の前のハルが、その時の狐だって言われても納得してしまっただろう。……なんて妄想はさておき。


ミキさんへの気持ちは今まで関わって来た女の子達と全然違う。たぶん、ある意味初恋……なんだと思う。だから俺の本気の失恋に、今度こそハルはその毒舌を封印してくれたのかもしれない。ハルだって人の子だ、鬼でも狐でもないんだから。


「まあ……慰めてくれるのは分かったよ」


滅多に無い事なので、ちょっと恥ずかしくなった。照れながら、ソッポを向いてお礼を呟く。


「有難う。お前、わりかしイイ奴だよな」


そう言ってカレーパンに再び齧り付くと、ハルが大きく息を吸い込む音が聞こえた。それから擦れるような小さな声が囁いた。




「……私にすれば」




ん?なんつったの、今……。


「んぐ?」


カレーパンを押し込んで隣を見ると、ソッポを向いたまま早口でハルは言い切った。心なしか頬が赤いような気がする。


「誰もいなかったら!あんたイイ奴だし」

「……」


アングリと口を開けてしまった。カレーパン、飲み込んだ後で良かったと思う。だけど堪えきれなくなって、つい噴き出してしまった。


「ぷ……ハハハ!」

「……何で笑うのさ」


ハルは頬を染めて不機嫌そうに眉を顰める。何だか無性に可笑しくて堪らない。込み上げる笑いを何とか抑え込んで、俺はコホンと一つ咳払いをした。


「いやー……そこまで心配掛けてたのかって思ってさ」

「……そう言う訳じゃ……」


照れ隠しなのか、ハルは苦し気に首を振る。


「やっぱ俺、頼りないんだな」


同じ学生のハルから見てそう見えるんなら、五歳年上のミキさんから見れば―――なおさら子供にしか見えないだろう。俺ってまだまだ……だよなぁ。本当にそう言う事実を、客観的に捉える事も出来なかったんだ。叶う見込みのない無謀な努力をしている、止めた方が良いって思われても仕方が無い。そんな申し出をハルにさせてしまうくらい、頼りなく見えたんだって思うと『申し訳ない』を通り越して笑ってしまう。


だけど大丈夫、俺は今とても充実しているんだ。良い結果を期待する気持ちは勿論ある、でもトコトン目標に向かって努力する事自体に、生きがいを感じているんだ。


クスクス笑いながら俺は満面の笑顔でハルに頷いた。




「大丈夫!俺、これから頼りがいのある男に進化するつもりだから!」




グッと拳を握って決意を述べると、唖然とした様子でハルはパクパク口を開けては閉め―――それから俯いた。


「ふ、ふーん……まあ、やる気が出たなら良かったよね」

「うん、アリガトな。ハルにはいろいろ心配掛けたもんな」

「別に……」


キツイ物言いは苦手だけど……ハルはそんなに悪い奴じゃない。やっぱなっちゃんの妹だな。きっと面倒見が好過ぎるのが少し、いやかなりの『お節介』に繋がっているんだろう。

だけどソロソロ俺にはそう言う心配は必要ないんだって証明しないとな。


「っと、そう言えば次ミーティングだっけ」


スマホを見ると、やばっ……あと五分じゃん!

俺は残ったパンを口に押し込み、牛乳で流し込んでベンチから立ち上がった。


「そう言うワケで俺、もうホスト役止めるから。就活と卒論頑張らなきゃだし」

「あ……うん」


ハルにしてはやけにボンヤリとした返答だ。どさくさに紛れて俺がこんなコトを言い出すなんて思っていなかったからだろう。彼女には世話になったけど……やっぱ、ミキさん以外の女の子のご機嫌を取るなんて不誠実なコトはもう止めにしたい。あのひとが気にするかしないかは別にして。


「時間だからもう行くな。じゃっ!」


これから忙しくなるぞーって思うと、やる気が漲って来る。だから前を向いて大股で立ち去る俺を―――ハルがどんな気持ちで見ていたかなんて、鈍い俺には全く分からなかったのだ。





アレックス視点は取りあえずこちらで最後になります。

ハル視点などイメージはあるのですが、まだ固まっていないので投稿時期は未定です。

なので、一旦こちらで完結表示といたします。


お読みいただき、誠にありがとうございました。

大分あとになるかと思いますがまた追加投稿後、こちらにお立ち寄りいただけると嬉しいです<(_ _)>

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