幼馴染と
なっちゃんの部屋に招かれて、かつていつもそうしていたように大きなベッドの上に乗り、壁際に背を付けて胡坐を掻いた。
なっちゃんはクッションを引き寄せてラグの上でダラリと体を横たえる。ますます引き締まってアスリートっぽくなった体と、Tシャツから伸びる筋肉質な腕に思わず目が行ってしまう。
「今体脂肪率、幾つ?」
「あ?八パー前後」
「八パーセント……低っ!」
「普通だろ?もっと低い奴ゴロゴロいるぜ」
なっちゃんは大学を卒業後、プロバスケチームに所属する事になった。札幌にもあるけど、結局彼が今住んでいるのは仙台だ。東北は距離的には北海道から近いけれど、時間で言えば東京より遠いイメージがある。いつか遊びに行きたいと思って調べたら、飛行機は東京行きに比べてかなり割高だしフェリーとJRも結構時間が掛かる。なっちゃんもナカナカ地元に帰って来ないから、正直ハルは結構寂しがっているんじゃないかと思う。小中高と学生時代、この兄妹はそれほど行動を共にする場面は多く無かったように見えるけれども、同じ家にいるのとそうでないのとはかなり違う。俺も大学入学と同時に家を出たから何となく想像がついた。
「ところで何か用か?」
「え?あれ?ハルから、なっちゃんが会いたいって言っているって聞いて来たんだけど」
「ああ……明日連絡しようと思っていた所だ。それでか?」
なっちゃんによるとハルが勘違いをしていたらしい。そんな勘違いの所為でせっかくのミキさんとのデートを邪魔されてしまった……いや、良かったんだよな。あの気まずい状況をどうするべきか、俺の持ち駒では全く手詰まりの状態だった。ハルの間違い呼び出しが無ければ、俺は望みも無いのにズルズル、ウダウダとミキさんに絡んで……結果下手すると救いようのないくらいに嫌われてしまったかもしれない。
……ま、振られた男が何未練がましい事言ってんだって感じだけど。もう会えないのに嫌われたくないって、どんだけだよ。と、心の中で自嘲する。
「ところで太郎、お前学校出たらどうすんの?」
「……んー就職かな……」
「進学は?」
そう言えば進学もちょっと考えていた。でも学生のままじゃいつまで経っても子供扱いされちゃうし……って、相手もいないのについ考えちゃう俺は本当に未練がましい。
「進学も考えたけど、やっぱ早く一人前に見られたいから」
と言っても就活上手く行かなかったら、進学を選択せざるを得ないかもしれないけど。でも当初それも検討していたから、そう言う結果に落ち着いてもそれはそんなに違和感は無い。
「ほほー」
顎を触りながら、なっちゃんはニヤニヤし始めた。
「女か」
「え」
ギクッ。
「年上か?」
「えっ何で……」
「『一人前に見られたい』相手だっつーから」
なっちゃんは偶に物凄く鋭い。周りに意識をまるで配っていない時もあって、まったく空気を読まない場合も多いんだけど……時折ズバリと核心を突いて来る事がある。
「いいんじゃね、お前年上の方が向いてるよ。ワンコ体質だから」
「……」
ヘタレと言われているようで、素直に頷けない。
「でも振られたし……さっき」
視線を俯かせてそう呟くと、なっちゃんがガバッと起き上がった。
「行くぞ」
俺の目の前に指の長い大きくて分厚い掌が差し出される。
「え、何処に」
「飲みにいこーぜ」
ぼんやりしている俺の腕をガっと捕まえて、なっちゃんはそのまま俺を引っ張り上げたのだった。




