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伝わらない!  作者: ねがえり太郎
蛇足 再び、アレックス
34/39

二度目の拒絶

蛇足のエピソードを追加します。第三章『再び、ミキ』の『そして、月曜日』あたりから。アレックス視点で暫く続きます。




「アレックス……あのさ」

「ん?」


初めてのお誘いに浮かれっぱなしの俺は、目の前の彼女がどんなつまらない話をしたって楽しんでしまえる状態だった。表情筋も緩みっぱなし。少しくらいカッコ良くキリリとした所を見せて、泣き顔を晒した体たらくを挽回したい、なんてミキさんに会う前まで考えていたのだけれども、やっぱりそんな余裕は見せられそうにないなぁ……まっ楽しいからいっか!なんてニヤニヤしていた。


「やっぱりね、これで最後に……しようか」

「え……」


だけど流石にこんな話題で笑えるほどお目出度くは無い。俺の表情筋は凍り付いてしまった。まるでびしょびしょに濡れた状態で、マイナス六十度の業務用冷凍庫の中に放り込まれたみたいに。






俺は腹を立てていた。


そんな筋合い無いって分かっているのに、ミキさんがとった選択を受け入れる事が出来なかった。今思うと激しく混乱していたんだと思う、ミキさんがきっぱりと態度を決めて俺を拒否する選択を今度こそ譲ろうとしなかったから。

以前も彼女はそう言って俺との接触を拒もうとした。だけどその決断の中味には多分に迷いが含まれていて―――俺は恥ずかしい事に泣き落としと言う成人した男としてはかなりみっともない方法で彼女に縋って、一縷の望みを確保する事が出来たのだ。


ひょっとして、その成功体験で天狗になってしまったのだろうか?優しい彼女は最後には自分を許して受け入れてくれるのではないかと言う―――補欠合格みたいなその一度目の許し(チャンス)は、そんな勘違いを俺の奥底に根付かせたのかもしれない。だからその時まで俺にとって彼女は、綺麗で面白くて、ちょっと流されやすい優しい『お姉さん』であったのだ。

けれども駄々を捏ねて無理に繋げた細い糸は切れるのも早い。まるでギリギリのバランスを保っていたジェンガみたいに。一本引き抜こうとした瞬間にガラガラと音を立てて崩れてしまった。




スマホが五月蠅い虫みたいに唸るのを聞きながら、暫くその画面をボンヤリと見つめていた。仕方ない、俺の脳は一旦エンストしてしまったのだ。だからもう一度正常に動かすのにどうしても時間が掛かってしまう。


「……出たら?ハルちゃんからでしょ?」


そう心配そうに促されて、やっと腕を動かすことが出来た。


本来ならミキさんとのデート(相手がどう思っていようと、俺にとってはあくまで『デート』!)中にハルの呼び出しに応じるなんてありえなかったけど……あの膠着状態にどう対応して良いか分からなかった俺は、蜘蛛の糸に縋るように、最後になってしまう大事なミキさんとの逢瀬の時間を引き延ばす為だけにその電話に出たのだった。


「―――なに?うん……うん、分かった。じゃ、後で」


その時のミキさんの表情を見る余裕なんて、俺には無かった。だから顔を上げる事もせずにハルからの伝言に二つ返事で頷いた。

道外で就職したなっちゃんが、久し振りに帰省したそうだ。俺に会いたいと言っているらしい。ハルからそう聞かされた時も、その短い情報を頭が理解できなくて聞きなおしてしまった。




なっちゃん。中学時代の俺のヒーロー。




漸く伝言の意味が三半規管を通して体に浸透してくると、今度は無性に彼に会いたい欲求が湧き上がって来る。なっちゃんの何だか分からない、太陽みたいなパワーで俺の心の中にドロドロと溜まったヘドロをジュッと焼き切って欲しい、そう渇望してしまう。焦燥感を抱えたまま、俺は顔を上げて目の前の女の人を見据えた。


自分の顔を真正面から見る事は出来ないけれど、俺の表情筋達がすっかり力を失ってしまっている事だけは分かる。




「ミキさんの言いたい事は分かったよ。学生の俺じゃ駄目だって事だね」




ミキさんは何か言い掛けようとして―――ぐっと言葉を飲み込んだ。傷ついた彼女の表情に、昏い満足を覚えてしまう自分を叱咤する。『ゴメン、意地悪な言い方だった』と心の中で呟いて。それでも切り捨てられた俺には彼女を慰める気力は残っていない。

だから其処には触れずに、ほんとーに根本的な事に対してお礼を言うにとどめた。


「今日は誘ってくれて有難う、嬉しかったよ。ミキさんの言う通り、これからは就活と卒論に専念します。じゃあこれで」


ちょっと無理して笑ってみる。


さっきまで、馬鹿みたいに楽しくって、ミキさんが何を言っても笑ってしまうくらい上がっていた気分が空気の抜けた風船みたいに萎れてしまった。諦めて立ち上がり……気力を振り絞って、もう一言。




「バイバイ」

「あ、うん。バイバ……」




その口から完璧なさよならを聞きたく無くて、彼女が言い切る前に慌てて踵を返した。それから俺は、一目散にその場を逃げ出したのだった。




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