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伝わらない!  作者: ねがえり太郎
再び、ミキ
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秋になって



それから夏になって秋になった。あれ以来全くと言って良いほど、アレックスから連絡はない。偶然道端で会う事も、ミニシアターでバッティングする事も無くなってしまった。


自分から望んでそうしたと言うのに、どうしようもなく寂しくなってしまう。きっと私が足を踏み入れるような時間にミニシアターに来なくなったのだ。避けられてる―――そうなっても仕方がないような事を言い渡したと言うのに、何故かチケット売り場の行列の中に灰色の頭を探してしまう。背の高い同じような体格の男の人とすれ違う時、ついつい振り返ってしまったりして。


サクちゃんには一度だけ顛末を語ったけど、彼女以外の人に大っぴらにこのもどかしい気持ちを茶化して言いふらす気にはなれなかった。勿論結局振ってしまったコンちゃんに気を使っている、と言うのもある。それに元カレの時と違って、アレックスとは付き合っていた訳では無い。ただ一緒に映画を見て楽しくお喋りをして……好きだと、もっと一緒に居たいと彼が言ってくれただけだ。


ハッキリ言って惜しい事をしたと思う。

彼は見た目も良いし、さりとてイケメンだからと言って己惚れるような事も無く、感じの良い青年だった。私には勿体無いくらいの……。


けれどもこれで良かったんだとも思う。私が口を滑らせた通り大学四年生の彼は卒論で忙しいだろうし、ちょうどあの頃就職面接なんかがスタートした頃だと思う。進学するなら進学のための勉強をするべきだし、就活するならそれに専念するべきだ。中途半端な付き合いの年上の女に、かかずらっている場合ではない。


だから―――あれで良かったんだ。


寂しくはある、惜しくもある。だけど、きっぱり気持ちを伝えて良かった。臆病な自分の所為で彼の時間を無駄にしなくて良かった。誤魔化して、そんなつもりは無いと言っても結局彼をキープする形になるのは……彼の為にもならないし、私の為にもならないだろう。







そんな風に気持ちの整理が付いたのは、夏が終わって涼しくなった頃。


ミニシアターの列に並ぶ背の高い男の人を見掛けても、道を歩いている時銀髪の外国人観光客を見掛けてもその人を目で追ったりする事も無くなった。アレックスはこの時期忙しいだろうって分かっていたし、私の罪悪感や泡立った気持ちも漸く落ち着いて来た。


そうしてアリスが産休に入る頃、英会話レッスンの代理の先生が現れた。

それはアレックスでは無かった。アレックスでは無かったけれど―――アレックスの面影を持つ、灰色とは言っても白髪混じりのロマンスグレーを撫で付けた本物の英国紳士だった。


「Hi, Glad to meet you. I’m Conan.(こんにちは。お会い出来て嬉しいよ。コナンと言います)」

「I'm glad to meet you, too.(私もお会い出来て、嬉しいです。」


柔らかく微笑む緑色の瞳の英国紳士に型どおりの回答を返した後、思わず口に出さずにいられなかった。


「You are "Conan"? You have the same name as Mr.Doyle.(あなたは『コナン』って名前なんですか? Mr.ドイルと同じ名前なんですね)」

「Exactly! His second name is Conan. But you should say “Sir”. He was dubbed knight in the early 1990's.(その通り! 彼のセカンドネームはコナンだ。けど君は『Sir.』を使うべきだね。彼は一九九〇年代初頭に『dubbed knight』を授けられたのだから)」

「"Dubbed"?What does it mean?(『Dubbed』? それって、どういう意味ですか?)」

「Well...He receive the accolade from King of England.」


『King of Englandからthe accoladeを受け取った』……って。ああそう言えば、何かで読んだ事がある。シャーロック=ホームズシリーズの生みの親であるコナン=ドイルは英国王室から爵位を授与されたって。だから敬称は『Mr.』じゃなくて『Sir』なんだ。


コナン=ドイルと同じ名前を持つ代理講師は、アレックスのお父さんだった。彼が元気でやっているかどうかだけでも確認したい、なんて一瞬そんな誘惑に駆られたけれど―――やめておいた。自分から手を離しておいて、未練がまし過ぎる。お父さんがこうして講師をしていて、アリスが何も言わないのだから……『No news is good news.』便りの無いのは元気な証拠だ。アレックスに何かあったなら彼女から一言添えられる筈。だから順調に勉強や就活が進んでいるって、信じたい。


「Please be seated. Let's start a lesson!(座って下さい。レッスンを始めましょう!)」

「Sure! I'd love to.(はい! お願いします)」


彼には無かった柔らかい皺を目尻にたたえて、チャーミングに微笑む本当の英国紳士に、笑顔を返す。今頃半分だけ英国紳士のあの子は卒論に大忙しなんだろうな、なんて思いを馳せた。どうかアレックスが順調に、元気で過ごせていますように―――心の奥でそう、願った。



誤字修正 2017.7.26(和様へ感謝)

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