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モテキ



人生に三度はモテ期が訪れると言う―――確実に今、そのビッグウェーブのが私の元に訪れているのだと言う自覚がある。




一人は同期のコンちゃん。精悍でマッチョな優しい男の人―――口調が乙女だけど……。

一人は映画友達になったアレックス。緑の目のイケメンハーフ―――迂闊な過去を告白し私に見捨てられるのが嫌で、えぐえぐ泣き出しちゃうような子供だけど……。




本人も自分の行動を恥ずかしく思っているのかもしれない。俯いて二の腕で目元を隠しながら……私に手を引かれるまま大人しく付いて来る。時計台の入口からグルリと回って、人気ひとけの無い裏側に回った。有名な時計台の正面、入口側で写真を撮影する人は多いけれど、わざわざ裏まで回り込む人はほとんどいない。

鞄を探ってハンカチを出す。そして目を覆っていない、私が引っ張っている方の掌を上向けにしてポンと乗せて、指を折って握らせてあげた。


「これで拭いて?」

「……」


無言のままクルリと私に背を向け、アレックスはハンカチで目を拭った。

拭い終わって振り向いたその緑色の瞳を見ると、涙は止まっているようだけど―――あらら、白目部分が真っ赤だわ……。

呆れたように見上げていると、そっとハンカチを持たない方の手で腕を掴まれる。


もう置いて行く気はすっかり失せてしまったから、そんな事しなくても大丈夫なんだけど。

アレックスは神妙な表情で口を開いた。


「ミキさん……その」

「泣き落としはズルいなぁ。お姉さん、絆されちゃいそう」

「じゃあ……」

「でもゴメン。アレックスの気持ちを知っちゃったから―――いい加減な事は出来ないよ」


私の言葉に、アレックスは表情を硬くした。私も苦笑を押し込めて頬を引き締める。アレックスに向き直り、努めて落ち着いた声で諭すように話した。


「アレックスもそうでしょ?恋愛感情無い相手に付き纏われて大変だったんでしょ」

「そんなに……俺の事迷惑?」


不安に緑色の瞳が揺れた。置いてきぼりにされそうな子犬のような目で、私をヒタと見下ろし口を開く。うっ……本当に絆されちゃいそう。でもここで流されちゃあイケないよな。


「俺……付き纏うつもりなんて……」

「アレックスがそんな事するなんて思ってないよ。そうじゃなくて―――相手が真剣なのに、いい加減な気持ちで付き合えないな、と思ったの。アレックスは私の事が好きだって言ったよね。それも今言われたばかりで本当はちょっとまだ信じられないんだけど―――でもそれを知ってるのに、応えるつもりがあるか分からない状態のまま二人で出掛けるなんて失礼な気がするんだ」

「そんな事ないよ!こっちが勝手に……その、好きなだけだし。俺はミキさんに会えるだけで嬉しいし」


一所懸命に訴えてくれる様子は健気でちょっと嬉しくなる。暫く虚構フィクション以外の恋愛感情から遠ざかっているから、正直まっすぐに『好きだ』と言われると胸がふわふわしてすごく嬉しい。でもなぁ……ハッキリしない付き合いってイカンよなぁ。


「私はそういう曖昧な関係は―――あんまり良くないと思うんだ。アレックスを都合の良い相手にしちゃうのも」


思い出すのは別れた彼氏の事。曖昧な関係を維持していないで―――いっそ遠距離になるって分かった時点でスッキリ別れておけば良かったと、ハッキリ振られた時に思ったのだ。


「じゃあ」


アレックスが表情を硬くして、私をまっすぐ見据えた。


「もう望みは無いから―――男として見れないなら、俺とは会ってもくれないってコト?」

「うっ……」


そう来たかっ……!


これは……まるで私が悪い事をしているような雰囲気じゃない?

いや、私は間違ってない筈。思わせ振りは良くない……良くないけど……。


コンちゃんの事を思い出す。そう言えばコンちゃんにも告白されたんだった。だけど―――二人きりにはならないだろうけど……コンちゃんとは飲みに行くだろうし、おしゃべりもするだろうな。彼の告白を受ける受けないに関わらず、そして答えを出す曖昧な状態でも―――関係を切ったりしないだろう。職場一緒だから、お互い切るに切れないって言うのもあるんだけど。




これって不公平じゃない……?




いやいや何言ってんの。なにその上から目線の考え方っ!それにそう、コンちゃんはもともと友達だし!だから付き合いの浅いアレックスとはそもそも違う訳で……。でもコンちゃんとも付き合うかどうかと言うと……本音を言えば、まだ全然想像出来ない。


アレックスの事は嫌いじゃない、むしろ好きだ。でも付き合う対象かって言うと……うーん、まだ出会って三回目だし……いや今日で四回目か。学生だし、年下だし。


「そんな事言わないでよ……せっかく仲良くなったのに。彼氏いないって言ってたよね。じゃあ俺と会っても誰にも迷惑掛けないでしょ?」

「でもそれって私に都合よすぎるし―――アレックスに応えられるか分からないし」

「―――もしかして、今好きな人がいるの?」

「え?いや、いないけど……」


と、咄嗟に応えて、パッとコンちゃんが頭に浮かんだ。

好きと言うか……好いてくれる男の人はいる。今後どうなるかは、まだ分からないけど。


「じゃあ映画だけ!」

「え、でも」

「お互い観たい映画が重なった時だけで良いよ。だってこんなに趣味の合う人今までいなかったんだ。ね、お願い!」


アレックスは急に元気を取り戻し、パンっと両手を合わせて頭を下げた。


「もし……その、ミキさんに好きな人が出来たり彼氏が出来たりしたら……その時はちゃんと諦めて身を引くから。だからそれまではこのまま付き合って欲しい―――お願い!」


重ねてお願いされて、戸惑う。私が根拠にしていたものがグラリと揺らぎ始めた。


ここまで言われて―――お願いされて。


私何様?絶世の美女でも、夫や彼氏がいる訳でもお金持ちのご令嬢でも無いのに……ここまでされてこの子を拒絶する……その意味があるのか?そしてそんな価値が私にあるの……?


普通なら逆だよね……?


アレックスは英語もペラペラ。若くて綺麗で背が高くて、良い大学に入学した将来性のある若者で。映画を一緒に観た女の子に付き纏われるくらいモテて。


四捨五入すればアラサーで、おひとり様を満喫していて恋愛の『れ』の字も無い生活をしていた私を好きだって言ってくれるなんて奇跡みたいなものだよね。私から平身低頭して付き合って貰うような条件だろうに……。




がっくりと私は項垂れた。そして折れた。

百円ショップに並んでいる商品を、一万円で買ってくれるって言っている人に、百万円ださなきゃあげないよ~!って意地悪している気分になってしまったのだ。



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