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シメパフェ



アーケード街にあるL字型の路地を入った所にある白い暖簾のお店の前には、夜十時を過ぎたと言うのに待ち人が並んでいる。最近すっかり定着した『シメパフェ』の人気店の一つで、以前から私も気になっていたお店だ。タイミングが合わなくてなかなか足を運べなかったんだよな。


「ちょっと並ぶけど構わない?」


と私を気遣い顔を覗き込んで来るコンちゃん。本当に気配り屋さんだなぁ。特に言葉尻以外女性らしい所はない普通の男性である筈なのに、こういう一面を見せられると『女子力高い!』って感じてしまう。だからこうして二人で歩いていても、違和感をあまり抱かずにいられるんだよね。


「うん、前から来たかったんだ。ここ」

「良かった。僕も実はこの店初めてなんだ」


私が心から頷くと、コンちゃんもふわりと笑顔を見せてくれた。並んでいるのは四人くらい。私達はその列の後ろに着いた。


「でもコンちゃん、迷いなく歩いていたように見えたよ?ココちょっと分かり難い場所なのに。」

「『シメパフェマップ』って言うのがあってね。最近飲み会の帰りに隙があれば寄るようにしているの」

「へー、そんなのあるんだ!」


コンちゃんはスマホを取り出すと、ススイっと操作してマップを出してくれた。飲み会の締めにラーメンを食べたくなる人は多いと思うけれど、数年前から札幌では『締めのラーメン』ならぬ『締めのパフェ』と言うのが流行っていて、近頃『札幌シメパフェ推進委員会』なるものまで出現したらしい。シメパフェの情報を発信すべく、サイトでマップも掲載しているそうだ。

思ったより時間もかからず、ほどなく店に入る事が出来た。小料理屋さんのようなカウンターがある和風の内装は落ち着いた雰囲気が漂っている。私達は小上がり席に誘導された。メニューからコンちゃんは『塩キャラメルとピスタチオ』、私は『豆と梅、ほうじ茶』を選んだ。


「おおっ可愛いね!特にコンちゃんのパフェ。この朱いのは……ナニナニ?カシスムース?」

「ミキちゃんのも美味しそう。この、抹茶シロップを後半で掛けるって言うのが、面白いね」

「後で味見する?」

「いいの?じゃあ、こっちもちょっと食べてみて」

「わーい、嬉しい。ありがとー!」


そうしてキャイキャイ騒ぎながら、可愛らしいパフェをパクついた。それからお互いのパフェを一口ずつ融通して、互いに味見をする。


「うーん、カシスが濃厚だね」

「ホントだ、ちゃんとアイス、ほうじ茶の味がする!」


コンちゃんと一緒だと女子会っぽい雰囲気になるから不思議だ。目の前にいる相手がもしサクちゃんだったら―――と想像すると、途端に場面が親父飲み会に変わってしまうのは何でだろう……コンちゃんとサクちゃんって、見た目と中身取り換えたらちょうど良いのにね。


カクテルみたいなパフェの、一番トップに鎮座している枝豆味の生クリームを堪能しつつ、そんな何気に失礼な事を考えていた。酔った勢いでパクパク食べ進み、抹茶シロップを掛けた所でコンちゃんが口を開く。


「ミキちゃん」

「ん?あ、これも味見するよね!抹茶シロップ」

「あ、うん。アリガト」


ズイっとグラスを押し出すと、コンちゃんはニコリと笑ってスプーンで一口分取って味わった。


「うん、美味し。ちょっと苦味が加わると飽きが来ないね。ところであのさ……」

「あ!下から白玉がっ!コンちゃんこっちも食べな!」

「あ、うん。ありがと。じゃあ、一個貰う。僕のも食べてよ」

「アリガト!食べる食べる!あ、うま~い」


ん?何だか話を遮ってしまったような……。

ま、いっか。食べた後に続きを聞こう。







全てペロリと食べ終わって、会計を済ませ暖簾をくぐった後。コンちゃんがポツリと呟いた。


「ミキちゃんさ、その……あの『アレックス』って言う子と、また映画に行ったりするの?」

「え?」


思わず聞き返したのは、突拍子も無くアレックスの話題が出たから。最初何を聞かれたのか頭が追い付かなった。だってさっき食べたパフェの事で頭が一杯だったんだもん。


「ん?何でアレックス?」

「その……」


口籠るコンちゃん。私はポンっと左掌に右手の拳を当てた。その言いづらそうな様子を目にして、閃いたのだ。


「あ!もしかして心配してくれてるの?有難う、大丈夫だよ!多分もう行かない事になると思うよ」

「そうなんだ!」


明らかにホッとした表情で胸を押さえるコンちゃん。そっか、そんなに心配してくれたんだね……と思うと、胸がジンと温かくなる。コンちゃんってホント同期思いの優しい奴だな!


「だけど、あっちから会いたいってメッセージが届いててね。何か弁解したいとか謝りたいとか言ってきているから―――どうしたものかと思ってるんだよね」

「え」

「まだメッセージに既読付けてないんだ。何て返して良いか分からなくて。まあ、どうしてもって言うなら一回会って話を聞いてみて……彼女が嫌がってるんだから一緒に観るの止めた方が良いよねって、伝えればそれで終わると思うんだけど」


すると顎に手を当て思案する素振りで私の言葉に耳を傾けていたコンちゃんが、静かな声で呟いた。


「―――また会うの?」

「まあ、『会う』って言っても、さっき言ったような事を確認して終わると思うけど」

「付いて行こうか?」

「え?」

「ミキちゃんって優しいから、流されやすいでしょ?だから一人じゃ心配なんだよね。それにあの体格の良い男の子が逆上したら……大変だよ?」


アレックスが?

いや~……それは無いよな。乱暴な口もきかないし態度も穏やかだし。彼女にケンケン文句言われても、困ったような素振りはしても突っぱねたりしていなかった。それに私が二十六であの子二十一なんだから―――


「いやいや大丈夫だよ!だってあっちは五つも年下の学生だし……こっちは社会人!子供と大人みたいなモンでしょ」

「そうやって油断するから、変な修羅場に巻き込まれるんでしょ?」


ジトッと瞳を細めるコンちゃん。うっ……まあ、完全には否定できない所は苦しいなぁ。


「まーでも、アレックスそんな悪い奴じゃないから、大丈夫だよ」

「でも彼女がいるのに女の子と二人で会うなんて―――」


コンちゃんの言葉に思わず笑って突っ込んでしまう。うんホント、軽い気持ちで。


「それ言ったら、コンちゃんだって彼女いるのに私と二人でパフェ食べてるじゃん」


まあ、色っぽい感情無しで、しかも皆と飲んだ帰りに寄り道しただけだけどね。このままサラッと別れて帰るし、問題なんか無いんだけれど。だけど、そんなコンちゃんが心配のあまりアレックスの事を指摘するから、ついつい天邪鬼が顔を出して揶揄ってしまった。




「彼女なんていないよ」




ん?今なんて……




「え?」

「いない」




私は思わずポカンと口を開けて―――少ない脳細胞をフル稼働して言葉の意味を吟味した。それから「ああ」と頷いて数秒後、もう一度確認した。


「『近くには』ってコト?でも距離はあるけど……いるでしょ?」

「―――」


コンちゃんはふぅっと溜息を吐いて、私に向き直った。

正面から真剣な表情で見下ろされると、ドキリとする。黙っていれば見た目は男らしくてカッコイイもんね、コンちゃんって。


「彼女とは別れた」

「え……うそぉ……い、いつ?」


あら、もしかしてタイミング悪い揶揄いだった……?傷心のコンちゃんに私は何てことを……っ!


思わずタイミングの悪さに冷や汗を掻いてしまう。もしかしてコンちゃんの生乾きの傷を抉ってしまったのかと思ったのだ。

するとコンちゃんはニコリともせず、真顔で首を振った。少し目を細めて苦しそうな表情でこう呟いた。


「―――半年前」

「は?」


え?『半年前』?!

な、なんだって―――?!


じゃあこの間遠距離維持しているってコトを褒めに褒めた私は―――うわぁ!傷、抉りまくり。しかも飲むたび毎回言ってたような……ひえぇえ!どうしよう!



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