表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/39

ショートカットの女の子



「ちょっと!何してんの?!」


そこに現れたのは、見覚えのある女の子。

キリッとした眉を吊り上げて、ショートカットの小柄な女の子は蹲るアレックスを庇うように私の目の前に立ちはだかった。


「えっと……」


戸惑う私の顔を見て、彼女は目を見開き私の顔をマジマジと見つめる。


「―――アナタこの間の……」


何事か思案するように口を引き結び、お腹を抱えるアレックスを見下ろした。彼は顔を上げてギョッとして、そしてよろけながら立ち上がった。随分辛そう……ううゴメンよ。実は私、格闘技の得意な父親に最低限の護身術を仕込まれていて、咄嗟に体が動いてしまうのだ。的確に急所をヒットしちゃったかも。


「ハル……大丈、夫だから……」


お腹を押さえつつ弱々しく取り成す彼が辛そうでハラハラする。いや、完全に私が悪い。そしてこの女の子が怒るのは当り前だろう……こんな衆目の集まる場所で腹パンされた自分の友達(彼氏?)を見掛けたら、私だって駆け寄って抗議くらいするだろう。


『ハル』と呼ばれた彼女は拳を握り、アレックスを振り返って低い声で唸った。


「タロウ、私だけにしておけって言ったのに、また女の人引っ掛けて……だから、痛い目に合うって言ったでしょ!」

「え?いや……っ」


目に見えて慌て出したタロウ……もしくはアレックス。

そう言えばこの間も似たような事を口走る彼女の口を塞いでいた、と思い出した。


そうか、このショートカットの女の子はやはりアレックスの彼女なのか。で、彼が女の人を引っ掛けて痛い目にあった事があって、怒られた経験があると。あ、だから『性懲りも無くまた』ってあの時言ったのか……って。えええ!!


あ、アレックスって―――やっぱコンちゃんが心配した通りの遊び人だったの?!

で、私……遊ばれて貢がされてボロボロにされる所だった……ワケ?


全然そんな色っぽい話、今まで出なかったけど。それに『貢ぐ』って言っても最初は学生のアレックスが奢ってくれたくらいだし、その後の映画代も大した金額じゃない。その前と合わせたらワリカンと言える金額で―――もしかして最初はそう言う手口?本当に英国紳士詐欺だった?それとも……お金云々関係なく、単なる女好きの浮気性で―――彼女はそんな彼氏の所業を目の前にして、とうとうキレちゃったとか?!


絶句する私に向かって、小柄な彼女は足を踏ん張って下から睨みつけて来る。そしてもの凄い早口で捲し立て始めた。


「アナタ、勘違いしているかもしれませんけど―――コイツ、ごくふっつーの大学生ですから!納豆大好きだし、居眠りして鼾もかくし、お気に入りのグラビアアイドルは漏れなく巨乳!Fカップ以上お呼びじゃないって宣言していたの聞いた事あるし……!」


私は呆気に取られて、ただただ彼女の宣言に耳を傾けるしか無かった。が―――今かなり聞き捨てならない単語を聞いてしまったような……




「え……Fカップ……?」




自らの胸を見下ろす。C……背中の肉をこれでもかっと寄せて上げて、頑張ってみてもDが精一杯である。―――そう、モチロン『お呼び』では、ナイ。

そして仁王立ちするショートカットの彼女の厳しい表情を見て―――下に視線を落とす。……あれ?私よりも……。


不躾にガン見する私の視線に気が付いて、彼女はバッと鞄を抱えて胸を押さえた。


「なっ……私は良いんですよ!」


真っ赤になって慌てだす。勢いでつい口走ってしまった明け透けな台詞を後悔しているようだった。

私はそれから―――その傍らでボンヤリと口を開けているアレックスの顔に視線を移す。


「―――!―――」


アレックスは私の不審気な視線に気が付くと、真っ青になった。見るからに挙動不審に視線を彷徨わせ―――ガっと女の子の腕を掴んでグイッと引っ張った。


「ミキさん、ごめんなさい!」

「え……」


まさか私の胸が及第点じゃないから……謝ってるの?私は咄嗟に女の子と同じように腕で胸を隠した。するとアレックスがカッと目を見開いて、みるみる内に真っ赤になる。


「ち、ちがっ……ミキさん、その」

「タロー!ハッキリ言ってあげなよ。また勘違いして付き纏われたらどうすんの!」

「つきまと……」


何かスゴイ言われようだ。私……もしかして付き纏っているように見えてたの?


「ばっ……ハルおまっ……ミキさん!ゴメンなさい!」

「ちょっ……タロっ!」

「ハル黙れって!」


アレックスは慌てて私に頭を下げ、毛を逆立てた猫みたいな彼女の腕をグイグイ引いて、歩き出した。

私はポカンとその場に立ち尽くし―――腕を引っ張られつつ背の高い彼に向かってケンケン文句を言っている女の子と、弱り切った顔で首を振る彼の後ろ姿が柱の陰に消えるのを見守っていた。




しかし暫くしてハッと我に返る。

置いてきぼりにされて、周りの好奇の視線が私一人に集中しているのに気が付いて―――慌てて地下鉄の電子カードを取り出し、其処から逃げ出す為に改札へと一目散に飛び込んだのだった……!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ