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帰るまでが探索です  作者: 朝倉すずめ
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サラサのご自慢とご不満の探索装備

サラサのツナギは、女性らしくほんの少しばかりシルエットを絞ってみたデザインのものを汚れが目立ちにくいながらも近頃流行しているカフェダリア色で仕立て、プロテクターはより堅くて軽い冬扇蜥蜴の鱗に変えている。グローブは柔らかく使うたびにしっくりと体に馴染んでいくゴースト山羊の皮、フィカスとホイップメタルの二重靴底の編上げブーツはスライムの通った跡だろうと鋼草をうっかり踏み歩いてもびくともしないこだわりの一品であったりする。

ツナギやブーツの内側の生地に消臭効果の高い黒灯木炭が練り込まれている高級品を使っているのはサラサだけの胸のうちにだけ仕舞っている。


ヘルメットが唯一カスタマイズ外であるのは、ヘルメットという名の付く装備はただの1種類しか作られていないからである。もちろん頭を保護する防具に関しても他にいくつも種類はあるが、コストパフォーマンスの良さやその謂れで探索者だけでなく、実は冒険者にも愛用者は多い。


これはヘルメット考案者であり、王国興隆の祖と呼ばれるかつての帝が「ヘルメットはこれを唯一とし、他は認めない」との勅命をだしているためである。後世にまで広く知られる偉業を数々なしたこの帝は、別名、奇天烈帝とも呼ばれるほど時に常人には理解不能な行動をとったと言われるが、学者や職人からは神様と崇められるほどの発明家であったと記録に残っている。


サイズこそ様々のものが作られているが、全てバオムファットを原料に国家機密の製法で作られており、そのフォルムは、コッコのゆで卵のように白くてつるりとした艶を持つ。さらに中心には4つの安全を祈る文様が描かれ、側面には持ち主のファーストネームを入れることが厳密に決められている。


勅命の理由については、帝は民の安寧な生活のためこの4つの文様を刻むことで神の加護を得ることができるよう神々と契約を行い、それを悪戯に使うと神の逆鱗に触れてしまうため、こういった厳しい命令を下したと言われている。

よってヘルメットは、唯一と認められた形からの改変、もしくはオマージュしたものに関しては持っているだけでも厳罰に処せられるらしい。曖昧な表現になるのは、そんな愚か者がここ数百年と出ていないからである。



ここまでが探索者としての必須装備だが、クラスによっては様々な装飾品を身に着けることもある。特に女性はクラスに関係なく、手軽な髪飾りや腕輪を身に着ける場合も多いし、恋人がいる場合は、揃いものをつけることも多い。けれどサラサは小さな石のピアスやリボンの一つも付けていない。


サラサも本当であれば、飾りの一つや二つを身に着けたいところなのだが、 師匠である兄姉達から怪我の元になるときつく言われているため泣く泣く外している。以前、一度だけ小さな瑠璃石のピアスを付けたまま潜ろうとした際には潜る前に運悪く見つかってしまいその場で兄に取り上げられてしまった。そしてくたくたに疲れて帰ってきたところで、なんと可愛がっているたった一人の弟、それも探索者として独り立ちして間もない彼にこんこんと諭されてしまった。


姉の強権を発動し、小指の先ほどもない石だったので問題ないと反論したところ常に最善を尽くしていたって怪我をする時だってあるのに何を甘いことを言っているのだとかヒーラーやウィザードといった術者クラスではないのにどうしてわざわざ持ち物を増やすのかとかとにかく正論でこってりと絞られたのでもう二度とすまいと誓っている。


ただこの地方の魔除けのお守りである丸い翠石のペンダントだけは、母から肌身離さず身に着けるようにと口酸っぱく言われているため、首から下げて傷がつかないようにツナギの下へ滑り込ませている。



最後に腰あたりまで伸ばした髪は気分によっては三つ編みにすることもあるけれど、ヘルメットを被りやすいように低い位置でこれまた汚れたら勿体ないと言われているためシンプルな黒の組紐で一つに結わえている。結び方ひとつで、少しは可愛くみえるのでそこだけは気合を入れている。


そんなこんなで、全体的に地味で可愛さの欠片もなくなってしまうのが大層不満なのだが、皆に心配をかける危険な仕事なのは分かっているので言いつけを守るようにしている。





トマが恋人と揃いのリングを紐に通して首から下げているのを見て見ぬふりしているのは決して羨ましいと思っているからではない。


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