最初のメンバーは友達の婚約者
また一つ小さな溜息をついているところに後ろから声をかけられる。
その声で、わざわざ振り向かずとも誰だかすぐにわかった。
「サラが弾丸ツアーなんて珍しいのな」
声をかけてきたのは、顔なじみの一人のトマ。
トマは、サラサも実家の手伝いで売り子をすることがある大規模なマーケットと温泉が有名な町出身で、普段はその町で狩人をしている。元々はサラサの友達であるアイーシャの恋人として紹介されたことがきっかけだったが、今ではもう何度も一緒に潜っている戦友だ。
山鳩色の瞳と同じ色の髪を持ち、背はすらっと高く狩人にしては筋肉の付きが薄いためにひょろっとした印象を持たれがちなのを本人は気にしているらしい。
トマは、狩りの中でもとりわけ鹿狩りが上手で今まで何度となく鹿肉やら皮をおすそ分けしてもらっている。鹿肉のローストは言わずもがな、サラサは鹿あばら肉の煮込みこそ絶品だと思っている。
そんな彼は近ごろ恋人に結婚をせっつかれ、その資金を少しでも貯めるために暇を見つけてはこまめに潜っていると聞いている。今日もどうやら本業で少し暇ができたためにショートスティで人を探していたところ、人集めに苦戦していた私を見かけて声をかけてくれたようだ。
うん、やっぱりいい奴。
「実はね、もうすぐアル兄さんが帰ってくるの」
サラサは、嬉しさを隠し切れずに弾んだ声でトマの問いに答えた。
「アルさん戻ってくるのか。俺も会いたい」
実は先日、数年前に独立してから一度も帰郷しなかった三番目の兄がしばらくぶりに滞在するとの手紙が突然届いたのだ。
一所に留まるのが苦手な人だからどのくらいいてくれるのか分からないけれど、兄さんがいる間はなるべく家族で一緒に過ごしたい。だから知らせが届いてから私はちょっとでも蓄えを増やすためにいつもより頻度をあげてせっせと潜っている訳なのだ。
「反10階までの弾丸ツアーなら4人パーティーで十分だし、あと残り2人な」
これで残りの休みのうち1日はデートできる日も作れるし、レンジャーのサラサと組めばアイテム以外の採集も期待できるしいいことづくめだ、と言いながら私の横に腰かけるのでちょっと慌ててトマに無理しないように伝える。
「大丈夫よ、まだまだ早い時間だからきっとこれから人見つかるだろうし」
「アルさんの帰郷祝いに俺も手伝わせろよ」
その代わりアルさん帰ったら教えてくれな、とにかりと笑うトマ。
アイーシャの人を見る目は確かだなと思う。
それからしばらくアイーシャへの贈り物の相談や最近のアイテム相場について情報交換しつつ、見つけた知り合いに片っ端から声をかけ続けるがすべて空振りに終わっていた。
弾丸ツアーでの反10階までは、いくら中層の入口まで目と鼻の先といってもベテランにとってそこまで厳しいものではないと思うのだけれど、今日はどうもついていない。
トマもこの状況にいよいよしびれを切らしてきたようで、目標を反7階に変更して2人で潜る相談を始めることにした。
そうやって今回の目標やそのルート確認、必要な品物の調達分担をあらかた決め終わった頃に、向こうの方から私たちを呼ぶ野太い声が聞こえてきたのだった。