なんだかついていない朝
今回の探索は、とても実入りの良いものだったとは思う。
でもなんだかもやもやする、とサラサは少し前を歩く一組の男女の背中をこっそりとみつめるのだった。
遡ることおおよそ3日
サラサはいつもようにギルドの更衣室の契約ロッカー前で探索装備に着替えを終えてから、一緒に潜る探索者を探すためギルドの探索メンバー募集板の下できょろきょろと行きかう人を眺めていた。朝もまだ随分早いうちなのだが、ギルドは随分と賑やかである。
(また断られちゃった)
既に幾人も顔見知りを見つけて声をかけているのだが、反10階まで潜るには短めの日程のせいかなかなか条件に見合う探索者が見つからない。
今もまた一人、日程の折り合いがつかずに断られてしまい、いい加減予定を変更して一人で潜ろうかなと思いながら壁に寄りかかりくるくると一つに束ねた髪先を指先に絡めて遊び始める。
何度か指に巻き付けては解くという意味のない行動を繰り返しているうちに一度アーモンド形をした目をはっと見開いたかと思うと、今度はすっと猫のように細めて指に絡み付けた毛先を殆ど睨み付けるように凝視する。探索中は殆ど化粧ができないその代わりとして髪の手入れは念入りに行うようにしている。だというのにこの気の滅入っているタイミングで毛先にほんのわずかな痛みをみつけてしまったのだ。
(今日は今ひとつついてない)
腰に届くほどの長さもあるオリーブ色の髪は少し癖のあるが日頃の念入りなブラッシングのおかげで頭のてっぺんから毛先まで艶めいているはずだし、その瞳も髪より少し明るい萌黄色のはずなのにどことなくくすんですまったように思うのは、思ったようにパーティーが組めないからだけではない。年頃の女の子にとっては本当に大事なことなのだ。
天を仰いでみれば、長い時使われてすっかり味の出た木の天井だけが目に入る。木目がサラサを憐れんでいる人の顔にしか見えないのでより一層落ち込んでしまう。
(滅入るなぁ)
物理的に上を向いても少しも気分は晴れなかったので、今度は床をじっと見つめてみる。毎日、職員さんが丁寧に掃除している姿を見かけるが、人の出入りが多いのため飴色の木の床は埃っぽくなってしまっていて少しせき込んでしまう。
(仕方ない、かくなる上は)
自分の両頬に手を添えマッサージのように軽くふにふにと動かす。しっとりと気持ちがいいなぁ、と我ながら悦に浸れるのはここが不特定多数の目に留まる場所だということをすっかりと忘れているからだ。
最近は特に潜ってばかりいるためにサラサの肌は白さを保っている。ただ日の当たらない場所でじっとしている訳ではないのでその白さは決して青白いといった病的なものではなく、頬のあたりはほんのりと色づいている。野良仕事が多いにも関わらず肌が白いのは自慢なのだが、肌の白さゆえに頬にぽつぽつと浮かんでいるソバカスが余計に目立っているような気がしてならない。そんなもの息がかかるほど顔を近づけなければ分からない、と友人のアイーシャは慰めていたけれどどうしたって気になるものは気になるのだ。