45.あたしと踊りたいの?
妹さん、えらいお怒りなんですけど。クロさんどうするのこれ?
「ク、クロ、エレベーターはまだ来ないのか?」
「ま、まだでござる。とにかくガードでござる!」
猫クロが魔法を唱え始めたのはいい。咲さんの妹アイの様子がおかしいんだ!
アイの茶色の髪が逆立ち、色が真紅に変色する。目の色も紫から金色になる。
「ア、アイ殿は二重人格ゆえ」
「あれがもう一つの人格ってこと?」
「あの人格は黒の霧を使いませんぞ」
「やっぱ、妹だけに黒の霧を使えるのか? 黒の霧が来ないならまだましか......」
「そうでもありませんぞ。全力防御です!」
俺とクロが身構えた時、彼女は片足を真っすぐに振り上げ口を開く。
「よくも姉さまの目を。覚悟はいいわね!? アーハー」
なんか突然ファンキーになったかと思うと、何か銃弾みたいなものが飛んでくる!
向かってきた何かは俺の黒の膜が弾き飛ばすが、当たった際にものすごい甲高い音がした!
カランと音を立てて落ちたものは......
――赤いハイヒールだった。
「あんたやるわね! オーケー。あんたの為に後で泣いてあげるわ! あんたが死んだ後にね!」
怖えよ! 切れてるよ!
「クロおおおおお。やばいって。まじヤバいって!」
またハイヒールが飛んでくる! 脚を上げたままで、素足なのにどこから飛んでくるんだよ!
「あたしの脚、味わいなさい!」
アイが脚を振り下ろすと、凄まじい衝撃波が俺達に飛んでくる。もう無茶苦茶だー!
「BINGO!」
さらに衝撃波がうなりを上げて飛んでくる! 猫クロと俺の作った壁でなんとか防ぐが、びくともしなかった黒の膜がギシギシ軋みを上げている!
「ゆ、ゆうちゃん殿! かくなるうえは! こうです!」
猫クロは魔法を俺にかけると、俺は弾丸のようにアイに向けて発射される!
待てや! こらー!
俺の願いも虚しく、俺はアイと激突する!
「ちょっとあんた、あたしといいことしようっての?」
覆いかぶさった俺にアイは憎まれ口を叩く。
「いや、そんなわけでは」
「ゆうちゃん殿。そこで魔法でござる!」
猫クロの言葉に俺はとっさに魔法を発動させる。
「毟りそして禿げ散らかせ!」
俺の気合の籠ったカッコいい呪文が発動し、アイに襲い掛かる!
――ビリビリ
服の避ける音がして、彼女の黒のブラジャーが真っ二つに裂け、続いてスカートもパンツも裂ける。
が、何故かニーハイソックスだけはそのまま残った。
「な、なんてことを......しかし、ニーハイソックスがあれば、あたしはまだ戦える! アーハー」
アイが脚を再び振り上げた時だ。突如彼女の逆立った髪が元に戻ると、色も元の色に変色する。すると俺と猫クロに目をやり、散乱したハイヒールが目に入ったようだ。
「あ、あたし。また、あれになっていたのね......」
愕然と頭を垂れる彼女だったが、さっきからいけない部分が全部見えてるんですけど。意識して見ないようにしているが、どうしても胸に目がいく......
そんな俺と彼女の目があった......
「え? あなた。私の服を?」
「ご、ごめんなさい!」
思わず土下座する俺に彼女は何故か、
――抱きついて来た!
意味が分からん! 意味が分からんぞおおおおお!
「あなた、名前は?」
「勇人ですけど......」
「勇人! あたし、あなたの嫁になるわ!」
「待てや! 意味分からんぞ!」
「マッドソックスは言ったわ。あたしの服を破く者こそ運命の人と」
その人狂ってますって、だからマッドなのか! もう辞めてー! 意味不明過ぎてついていけない。
「ゆうちゃん殿は吾輩と!」
これに待ったをかけたのは猫クロだ。話がますますややこしくなるじゃねえかよ!
「ま、まあ落ち着いてくれ」
俺はアイを引き離すと、彼女に俺が着ていたジャケットをかけてあげた。彼女は俺のジャケットに優しく手をやり、愛おしそうに撫でる。
彼女の気が逸れた今しかない!
俺は忍び足で彼女から離れると、猫クロの首の後ろをムンズと掴むと、既に到着していたエレベーターに乗り込む。
急ぎ一階へのボタンを猫クロに出させると、エレベーターが閉じる。
こうして俺の最悪なダンジョン深層体験は終了したのだった。何も情報を得ることが出来なかったぞ。ゴミに咲さんが何してるのか分かるんじゃなかったのか......
変な妹に襲い掛かられただけじゃねえかよ!
しかし、クロから事前に黒の膜の事を聞いてなかったら、今頃アーハーにされてたぞ。
ヘロヘロになりながら軽トラックに乗り込み、俺はため息をつく。
「で、結局何のために深層まで行ったんだ?」
「黒の霧の一族に話を聞くためじゃないでござるか? 吾輩たちから咲殿のことは言えませぬゆえ」
「なるほど。あんなのと会話できるかよ!」
「ふ、普段は穏やかな人ですぞ」
「いきなりミンチにしようとして来る奴とまともに話できるかよ!」
「そ、そうでござるね」
再びため息をついた俺は、軽トラックで宿まで帰り着く。
もうそのまま寝たい気分だけど、駐車場の隣にあるゴミ置き場に大量のゴミの間に立つ咲さんが目に入る。
「さ、咲さん」
声をかけるが、それよりはやく彼女から黒の霧が噴出し、ゴミを覆う。
一秒も経たないうちに霧が晴れ、ゴミが姿を消していた......何が起こったんだ?
燃やした? 埋めた? 異空間? 分からないけど、とんでもねえものを見た気がする。
「あら、勇人くん。帰ったの?」
咲さんは何事も無かったかのように、俺に声をかける。
しかし、咲さんの目を使い過ぎたのとさっきのとんでもない出来事のせいで気力が限界だ。
「うん。今帰ったよ」
「あら、勇人くん。私の目を使ったんだね」
「うん、助かったよ」
「嬉しい!」
咲さんが俺に抱きついて来たが、もはや俺に感触を楽しむ余裕も無い......ゴミ? 咲さんが消失させて処理してる。どうなってるかは不明。消えるならそれでいいじゃないか。
もう疲れたよ俺は。そのまま俺の意識は遠くなって行く......
※一石さんありがとうございました!




