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44.行先は地獄

 予想どおり咲さんは温泉宿の接客があるから、待機になった。てか俺何処行くんだ? マスコットキャラの役目を果たしていないただ飯食らいの猫クロと俺は出かける準備をしていた。


「クロ、一体何処へ行くんだ?」


「その前にゆうちゃん殿、重要なお話しがありますゆえ」


「ん?」


「黒い膜の事でござる」


「最近全く防御してくれないんだよなあ」


 咲さんに目を貰ってから、俺の危機を察知すると黒い膜が俺を守ってくれていたんだけど、最近全く黒い膜が出現しない。日常生活に全く支障が無いから掘っておいたけど、使えなくなった理由があるのか?


「ゆうちゃん殿。魔法には能動的に行うものと、受動的に行うものがあります」


「ふむ」


「ゆうちゃん殿のエッチな魔法は自分で魔力を出してるでござる」


 エッチな魔法って失礼だな。あれから何度か試したが、脱衣以外の魔法は発動しなかった。俺は魔法に夢を見ていたのに現実なんてこんなもんだよ。

 ちなみに俺の魔法は使いどころが全く無い!


「目からビームだよな」


「......身もふたもない言い方でござるな。まあいいでござる」


「おう」


「で、ですね。黒い膜は受動的な魔法なんでござる」


「ん? 魔力を認識する前から使えてたけど」


「何も意識しなければ、魔力は自然に全身を巡るのです。魔力を外に出さないように意識すれば大丈夫でござる」


「分かった! そうしたら黒い膜が発動するんだな」


「そうでござる。では、準備するでござる」


 準備って言ってもなあ。どこに行くのかも分かってないし、日帰りだし特に必要な物ってないよな。


「準備は出来ている。クロの準備は充分か?」


「準備万端でござる!」


 猫クロは準備万端って言ってるけど、丸裸やないか! 手荷物無。準備もへったくれもないよ。


「何も持ってないけど......」


「いつものことでござるよ」


「ああ。そうだな......」


「じゃあ、ゆうちゃん殿イクでござる」


「どこ行くんだ?」


「......行けば分かるでござる」


「ふ、不安なんだけど。大丈夫なの俺?」


「た、多分......」


 たぶんってなんだよ! このクソ猫がああああ!



◇◇◇◇◇



 猫クロの指示に従って軽トラックを走らせていると、嫌な予感がする。だってわざわざ猫クロを連れて来るんだよ。街なら俺一人のほうが面倒が少ないじゃない。

 やはりやって来ましたダンジョンへ。今日は骸骨くんも居ないんだぞ! 彼らには宿の雑用という重要任務があるからね。


 入口で猫クロが魔法を唱える。


氷結世界アイスエイジ


 名前からして氷の魔法なんだろう。硬い物が床に落ちる音がそこかしこから鳴り響く。天井に張り付いていた爬虫類が全て床に落ちたんだろう。

 クロの後ろをおっかなびっくりついて行き、赤い色のエレベーターに到着する。


 相変わらず不気味なブヨブヨに猫クロが触れると、階層を示すボタンが壁から浮き出て来る。

 階層番号は......


<×>


 え? 数字出てないぞ。


「ゆうちゃん殿。エレベーターの出口は強い魔族は居ないゆえ、問題ないとは思うのですが、念のため吾輩、肩に乗りますぞ」


「え? ×って何? どこ行くの?」


「深層でござるよ」


「待て! 誰だよ! 深層とか言ったのは」


「伯爵様の指示でイクのですよね。大丈夫、吾輩爵位持ちクラス以外なら軽く蹴散らして見せますゆえ」


「待て待て! 爵位持ちとかどうでもいいんだけど、いくら何でも危険過ぎるだろ!」


「大丈夫でござる。黒の霧の領土へすぐ入りますゆえ」


「そこ安全なの?」


「咲殿の目を持つゆうちゃん殿に手を出す輩は、黒の霧公爵領にはいませぬぞ」


「ちょっと帰りたいんだけど」


「もうボタンを押してしまったでござる」


「待てこらああああ!」


 俺の声も虚しく、エレベーターは「うおおおおおお」と叫びながらものすごい速度で移動を始めてしまった。どうなる俺......

 ダンジョンって深く潜れば潜るほど強いモンスターがいるんだよな。確か、聞いた話だとダンジョンの最下層は深層と呼ばれていて、全てのダンジョンが繋がっている。そこには魔族と呼ばれる知性あるモンスターが住んでいると。

 その数は人間と同じくらい。広さも地上と同じくらいと来たものだ。猫クロや宿の従業員はダンジョン深層からやって来たと。

 何て考えているうちにも、エレベーターは深層へ向かっている。



 チーン。レンジの呼び出し音みたいなふざけた音と共にエレベーターは停止する。


「着いたでござる」


 俺の肩の上に乗った猫クロが呑気に到着を告げる。はあ。まじかよ。


 一歩踏み出すと、外は地上と別世界だった。

 空には赤色の月が二つ。荒涼とした岩肌がむき出しになった大地に不気味な炭のような樹木。遠目にカラスのような黒い鳥が空を飛んでいるのが見える。

 も、もう帰りたい。


「クロ、もういいから帰ろうぜ」


「ん。帰るんでござるか?」


「ああ。帰ろう」


「仕方ないでござるね。ゆうちゃん殿の頼みなら吾輩受け入れるでござる」


 ああ良かった。今ならまだ何も起こってない。すぐ帰るんだ!

 俺は猫クロに頼み、エレベーターを呼び寄せてもらっていると、突然目の前に少女が現れる。


 黒いブラジャーの上に直接黒の革のジャケットを羽織り、超ミニの黒の革のスカートに黒のニーハイソックス。全身黒色で統一された装いだが、髪の毛は明るい茶色で肩口辺りで切りそろえている。目の色が最も特徴的で、紫色だった。

 彼女は俺を睨むと、口を開く。


「あなた! 姉さまに何をしたの?」


 誰だよ。この人! 姉さまって誰だよおおおお。


「ク、クロ、この人誰?」


 ふと肩に乗ったクロに目をやると、ブルブル震えてるじゃないか。これはあかん相手じゃないのか?


「どちら様?」


 俺の問に彼女は怒りを隠そうともせず吐き捨てる。


「あたしはアイ。あなた、姉さまに何したの! ああ、あたしの大事な姉さま!」


「え? 姉さまって誰?」


「咲姉さまに決まってるでしょ! あなた、姉さまの目を奪ったんでしょ!」


「ええええええ! 咲さんの妹さん?」


 新事実、咲さんの妹登場!


「ク、クロ。俺大丈夫なの?」


「た、多分......」


 猫クロは震えを止めず、絞り出すような声で呟いた......不安しかねえよ!

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