40.吾輩頑張る
しれっと投稿
――クロ
週に四組程のお客さんが宿に来るようになって、伯爵様や咲殿、ゆうちゃん殿も嬉しそうでござる。
吾輩、みんなが笑顔になると嬉しい。ゆうちゃん殿が相手してくれる時間が少し短くなって、寂しくはあるでござるが。
咲殿やマリー殿とゆうちゃん殿の争奪戦も激化しているでござるよ。ただあの二人、人間の愛し合い方が分かってない様子! ゆうちゃん殿はおいしい食事ではないのですぞ。
吾輩が既成事実を作り、なし崩しにゆうちゃん殿と番になる予定でござる。
まあそれまではせいぜいゆうちゃん殿にアプローチしておけばよいです。
ヌフフ。
でも、ゆうちゃん殿がなかなか乗ってきてくれないのです。無理矢理襲うのは吾輩のポリシーに反するので、ゆうちゃん殿をその気にさせなければならんのです。
今日も布団に潜り込みましたゆえ、しかし猫耳になるなと怒られてしまいましたです。
かくなるうえは!
「あ、クロー。牛肉採ってきてだって。骸骨くん連れて行っていいよー」
吾輩の思念を打ち切ったのはマリー殿でござった。宿泊者が来るから、食材は減る。しかし、マリー殿は清掃、咲殿は接客とダンジョンへ行く人材がいなかったのでござる。
だから、吾輩が行くことになったのです。ゆうちゃん殿も接客だからダメーって。寂しい......
吾輩、牛とか面倒でござる。が、言われたからには仕方ないです。
骸骨殿と一緒にダンジョンへと向かいまする。ゆうちゃん殿が居ない時は、姿を消す魔法をかけて空を飛んでいくでござる。
実は吾輩、氷魔法が得意なんでござるよ。
ダンジョンに入るとさっそく吾輩詠唱に入るでござる。吾輩が詠唱している間は骸骨殿が吾輩を守ってくれるです。
「氷結時代」
吾輩の呪文と共に辺り一面が凍り付く。たくさんの爬虫類が天井から落ちる音がして、吾輩の魔法が効果を現したことを示してくるでござる。
広場の鶏も凍り付いていたけど、今回の目的は鶏じゃないのでそのまま素通りしたです。
うるさいエレベーターに乗り込んで、三十九階のボタンを骸骨殿に押してもらうでござる。いま吾輩猫の姿ゆえ、骸骨殿の肩に乗っかっているでござるよ。
このエレベーター一度行った階なら行くことができるんです。吾輩は一人で深層から地上までやって来たゆえ、百階から歩いて地上まで来たでござるよ。偉いです。
――三十九階
三十九階は牧場エリアと言われています。赤牛は出現間隔が長いようで一度倒すと三日ほど次が沸かないでござる。しかし赤牛を持って帰るのは吾輩たちくらいですゆえ、問題ないです。
暫く歩いて捜していると、見つけたでござる。しかし、何か余計な物が赤牛に付属しているです。
「ふんふんふんもー」
鼻歌を歌うホルスタインのようなおっぱいの女が赤牛から牛乳を搾っているでござる。
「邪魔でござる!」
「ふんふんふんもー」
ふんもーが無視するので、吾輩も同じことをするでござる。
「氷結時代」
赤牛だけを凍らせるように集中して魔法を放つと、赤牛はカチコチに凍ったでござる。
「ふんもおおおおおお! うっしーの牛乳が! せっかく赤牛が沸いたのに!」
「赤牛は連れて帰るでござる。残念だったです」
「この猫ー。うっしーの牛乳をー」
「うっしー? この前ゆうちゃん殿に牛乳を飲ませたうっしーです?」
「そうふも。牛乳気に入ってくれた?」
「お怒りでしたぞ。時にうっしー。吾輩にも牛乳をよこすでござる!」
「えー。絞るの大変ふもお」
「いいからよこすです!」
吾輩はうっしーのホルスタイン柄のパーカーを剥ぎ取り、彼女の下着を剥ぎ取り、牛乳をゲットしたでござる。
「ふんもおおおおお! お嫁にいけない」
「大丈夫でござる。牛乳もらっただけでござる」
「答えになってないふもおおおお!」
骸骨殿に赤牛を運んでもらい、宿に戻ったです。
さて、この牛乳を使ってゆうちゃんを。ヌフフ。吾輩知ってるでござる。ゆうちゃん殿はおっぱいが大きいのが好きなのです。
◇◇◇◇◇
――夜
ゆうちゃん殿が寝た後、こっそりと布団へ転移魔法で移動すると、猫から猫耳へ変身するです。そして、うっしー牛乳をごくごく飲む!
キターでござる! おっぱいがみるみる大きくなっていくです。
試しに、寝ているゆうちゃん殿の背中から抱き着いてみる。おっぱいがゆうちゃん殿の背中で潰れて感触が伝わっているはず。
「ん」
起きたでござる。このまま抱き着くでござる。
「んん。なんだか柔らかい感触が......何だこれ?」
ゆうちゃん殿は寝ぼけていたですが、こちらを振り返ったです。吾輩ゆうちゃん殿と目があう。少しドキドキする。
じーっと、ゆうちゃん殿に見つめられていると、どんどん体が熱くなってくるですーーー!
ゆうちゃん殿ぉ。そんなに見つめたら......
――もう辛抱たまらんでござる!
たまらずゆうちゃん殿の唇を奪おうと顔を近づけると、手のひらで顔を抑えられたです。最近やたら俊敏で困る。
「こら! クロ! 来るなら猫で来いと言っただろ!」
「いや、吾輩。今日はゆうちゃん殿の為に」
吾輩はゆうちゃん殿に胸を押し当てると、彼は一度胸を見て、吾輩の顔を見る。再度胸に目をやると、呟く。
「クロ? でいいのか?」
「間違いなく吾輩はクロでござる。ゆうちゃん殿。どうです? この胸」
「......悪くない」
いける! ゆうちゃん殿はまんざらでもない様子です! ならばもうひと押しですぞ。彼の手を取り、吾輩の胸へ手を押し当てる。
「どうでござる?」
上目遣いにゆうちゃん殿を見上げると、とても迷ってる様子。
「触っていいでござるよ?」
「......いや、でもクロだしなあ......」
と言いながらもゆうちゃん殿は少し手を動かす。
え? 何? この感度ーーー! 予想外でござる! うっしー牛乳はこんな効果まであったなんて聞いてないでござる。
少し手が動いただけなのに吾輩、息が荒くなってしまうでござるよ!
――もう辛抱たまらんでござる!
思わずゆうちゃん殿の唇を奪いに顔を近づけると、またしても手に阻まれたでござる!
「やっぱ、クロはクロだな」
ゆうちゃん殿は背を向けて寝てしまったでござる......惨敗です。
――翌朝
咲さんの雑誌に「男の子と仲良くなるテクニック」なる記事があったので読んでみると、手作りのプレゼントがいいと書いてあったでござる。
だから吾輩、ゆうちゃん殿を模した像を作ろうと五十センチほどの高さがある木材を今朝から彫刻刀を使って彫ってるでござる。
お世辞にもうまく作れたとは言えないけど、心だけはこもってるです。今度こそ、ゆうちゃん殿のハートを掴むです。
「ゆうちゃん殿。プレゼントでござる」
「ん? なんだろこれ?」
「朝からがんばって彫刻したでござるよ」
「おお。ありがとう。トーテムポールかな」
「......ゆうちゃん殿です」
「そ、そうか。すまん。そう落ち込むなって。よく出来てるよ!」
「......本当です?」
「ああ。そ、そうだ。お礼に今晩一緒に寝ようか?」
「本当でござるかー!」
「ただし、猫で頼むわ」
「分かったでござる......」
猫形態でも一緒に寝れるなら幸せでござる! ゆうちゃん殿から誘ってくれるなんて!
もう少しだけ続くんじゃよ。