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36.三十九階

 さあ、三十九階の探索開始だ!

 入り口から見た通り、柵に囲まれた牧場が連なっているが、建物は見当たらないというなんとも不思議な風景だった。

 じゃあ柵も無くせよ! と突っ込みたいけど、ダンジョンは理不尽で理屈は通じないのが今更だから、もう何も言うまい......


 しばらく歩いているが、モンスターが襲ってくることは今の所無かった。うっしーの言葉通り安全な階層なのだろうか?

 ダンジョンで安全とかおかしな表現だけど......


「ねえねえ、ゆうちゃん。うしさんを見つけたよ!」


 マリーが指差す方向を見ると、いつか宿で見た赤い皮ふを持つホルスタインが呑気に草を食んでいる。


「マリー、持って帰るか? あの牛?」


「おー」


 今夜はバーベキューやー! やったぜ。


「待つふもおお!」


 うっしーの絶叫が響くが、マリーは既に音を置いて行く速度で、赤いホルスタインに襲い掛かっている。

 うっしーの言葉が届く頃には、既にマリーの牙が赤牛に突き刺っていた......


「うっしー、もう遅い。そういう事は先に言わないと」


「レッドブルからは美味しい牛乳が採れるふもお!」


「残念、奴は美味しい牛肉になってしまった」


「ふんもおおおお!」


 うっしーの叫び声が終わる頃に、マリーが戻って来る。彼女の口から一筋の血が垂れていたので、俺は無言でウェットティッシュで彼女の口元を拭う。


「ありがとー」


 俺も随分慣れてきたものだよ。言わなくても既に骸骨くん達が赤牛を運び出す準備を終えていた。


「うっしー、牛乳は飲んでみたかったけど、宿に戻ってバーベキューにするわ」


「家まで送るって言ったふも」


「あ、ああ。そうだったな。とっとと行こう。即戻るがな」


 美味しそうな赤牛のせいで本来の目的を忘れそうだったが、こんだけ安全なら俺ら要らんだろ。そういや最初から安全って言ってたような......奴が喚くからついてきたんだった......



 骸骨くん達が赤牛を担ぎながらだけど、歩くこと十分程度、ようやくうっしーの家に到着したのだ。

 憎たらしことにオシャレなログハウス風の外観で、充分過ぎる広さがある。


「じゃあ、帰るわ」


 俺は扉の前でうっしーに手を振り、帰ることを伝えると、うっしーはおっぱいをプルプルさせながら、急いで俺の肩を掴む。


「ふんも、待つも! 牛乳飲んで」


「いや、もう面倒になってきてな」


「まあまあ、入って!」


 背中におっぱいを押しつけてくるうっしーに押され、俺たちはログハウスにお邪魔することになってしまった。


 中は洒落た暖炉と木の温もりを感じさせるテーブルセットがあり、俺は少し腹が立ったけど、待てとうっしーが言うので渋々待つことにした。


「お待たせふも」


 何故か顔が上気して赤くなってるふんもおから、俺とマリーはマグカップに入った牛乳を受け取る。

 すごく嫌な予感がするんだけど、これ......


「怪しいから飲まん!」


 俺が断言すると、うっしーはワナワナと倒れ伏し両手を床に着けた。


「酷いふもお。苦労したのに」


「んー、飲んじゃおーよー」


 マリーが牛乳をゴクゴク飲むと、俺の牛乳にも手をつけ口に含む。

 彼女を妨害する暇もなく、口を口で塞がれると生暖かい牛乳が口内に。

 むせそうになったけど、逆にそのまま牛乳を飲み込んでしまった。


「こらー! なんて事するんだ!」


「あはは」


 朗らかに笑うマリーに変化が訪れる。


――マリーのおっぱいが大きくなっている!


 やはり変な効果あるじゃねえかよ!


「こら! うっしー!」


「うっしーの牛乳はエンチャント効果があるも」


「要らねえんだよ! 普通のでいいんだよ!」


 「うっしーの」ってところが気になって仕方無いが突っ込まん。俺は突っ込まないぞ。

 しかし、何だかムラムラしてきた。あのメガネ掛けたうっしーでさえ可愛く見えるほどに何かおかしい......


 俺にも効果あるのか。一つ言えることは、碌なものじゃないってことだ!


「ゆうちゃん、回るとブルンブルンするー、あははは」


 マリーがクルクルその場で回転して、大きくなったあれが揺れるのを楽しんでいる......

 そして、俺のムラムラはおさまらん! あれがもうあれだよ。


「勇人も膨れてるもー」


「うるせえ! お前の牛乳のせいだー!」


 俺は堪らずうっしーを追いかけると、奴は逃げる。逃げるから追う俺。結果、机をグルグル回転することになってしまう。

 しかし、ますます我慢ならなくなって来た。うっしーの尻でさえ興奮してしまう! 嫌だー!


――追いついた! 手を伸ばしうっしーに掴みかかると、ホルスタインなあれを鷲掴みにしてしまった! 思わず、感触を確かめてしまい自己嫌悪に陥ってしまう......


 しかし!

 ぐおお、不覚にも辛抱堪らん!


「襲われるもおおお!」


 嬉しそうに悲鳴をあげるうっしーに一歩寄った時、足が滑った。


「勇人......」


 うっしーが怪訝そうに俺の様子を伺う。俺の手はうっしーのホルスタインを掴んだままで......


 ビュッ! ビュッ!


 している。


「おさまった?」


 うっしーが下から覗き込んでくるが、未だおさまってねえ! しかし、意識が朦朧としてくるんだ......もう限界かも......


 俺は必死に我慢するが、もう無理だ。


――机の角にぶつけた頭からビュッ!ビュッ!と血が吹き出していたから.....こんなの自然におさまるわけがねえだろ......


「ゆうちゃんー!」

「ふんもおおおお!」



◇◇◇◇◇



 眼が覚めると咲さんの顔がドアップで迫っている。


「ここは?」


「勇人くん、頭打って倒れたって」


「あ、ああ。確か机の角で頭ぶつけて」


「マリーがすぐ治療したみたいだけど、どう?」


 俺は自分の後頭部に触れてみるが、痛みも無く、出血している様子もないようだ。すげえな、マリーの魔法。


「ああ、何ともないみたいだよ。ありがとう。咲さん」


「それならよかった」


 咲さんは寝かされている俺に上から覆い被さってくる。

 頭は何ともないんだけど、まだ牛乳の効果がきれていない。つまり、あれがあれしてるんだよ。


「ん、勇人くん?」


 咲さんの太ももに、あれが触れてしまった!

 今の俺の格好はジャージ姿なので、感触はダイレクトに伝わるはず。咲さんの太ももは直接ジャージに触れているわけで......


「あ、ああ。咲さん、これは」


 しどろもどろになる俺の口を咲さんがふさぐと、舌が唇に触れてくる。


 こ、これは。お、美味しい展開なのか?


 と、口を開くと何かモゾモゾしたものが口の中に入って来て、すぐその感覚は消える。


「大丈夫?」


「うん。何だか物凄くスッキリしたよ。今なら何でも出来そうだ!」


「そう。ご馳走さま」


 咲さんはにっこり微笑んで、俺の手を握った。妙に頭が冴えてしまったが、どこか納得できない俺であった......

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