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25.サウナ建築

 ウキウキしながら宿に帰ると親父さんから呼び出しがあった。少し前に電話が宿に入ったらしく、なんと取材の依頼だったそうだ。親父さんは即取材許可を出したと、大喜びで俺に教えてくれた。

 恐らく依頼したのは蜜柑さん達だ。仕事が早い! 美人で仕事ができるなんて素敵だ。むふふ。


「あいつが来るのです?」


 黒猫と一緒に部屋に戻ると、彼女は不機嫌そうに俺に尋ねてきた。嫌なのか?

 彼女は今猫形態だ。基本クロは猫形態を取っている。人間形態になると裸だからね。


「蜜柑さん、嫌なの? さっき車の中で説明したじゃないか」


「猫のフリしたら、ゆうちゃん殿がムフフな事してくれる話です?」


「ムフフな事じゃない! 一緒にお出かけだろ。人間形態で」


「ムフフな事でござるよ! ゆうちゃん殿と一緒に。グフフ」


 怖えよ。顔がトリップしてやがる。大丈夫か、この猫。


「で、何が嫌なんだ?」


「あんな変態、嫌でござる」


「ちょっと猫が好きなだけだろー」


「ひたすら触ろうとするでござる! 頭の中それしかないのです」


「そこまで猫好きなのかよ! バレないか心配だなあ」


「吾輩、ゆうちゃん殿の為なら頑張るでござる!」


 おお。やる気だ。ナデナデしてやろう。頑張るんだクロ。



◇◇◇◇◇



 夕食時に全員集まって、取材への対策を練ることになったんだ。発起人は親父さんだ。


「勇人君のお陰で、宿に取材が来ることになった!」


 親父さんの言葉に、クロ以外の全員から拍手が飛ぶ。


「すごい! 勇人くん!」

「あまりわからないけど、ゆうちゃんすごいーわーい」

「カタカタ」


 骸骨くんが頑張って俺を褒めてくれようとするけど、カタカタが激しくなったくらいにしか俺には分からなかった......

 クロが俺の足元で「宿の為じゃないでござる。欲望だけですゆえ」とつぶやいたので、彼女を持ち上げ口を塞いだ。失敬な。俺は宿の為に取材を取ったんだ! ははは。


「取材が来るのは明後日になる。せっかくだから岩盤浴とサウナでも増設しちゃうか」


 親父さん、そんなパパの日曜大工みたいなノリでサウナなんて造れるんですか?


「わーい。やろうやろう。ゆうちゃんはサウナ好き?」


「あ、ああ。嫌いじゃないよ」


 マリーが聞いてきたので、一応答えるが、取材来るの明後日だよ。いろいろおかしい。


「勇人君! 明日までに造っておこう。説明できるように明日夜岩盤浴とサウナを見てくれたまえ」


 親父さんは今何て言った? 明日だって! 待て待て。


「あ、明日に出来るんですか? 一日で?」


「ああ、そうだとも。私、咲さん、骸骨君が居れば全く問題ない」


「さ、咲さんも?」


 俺が咲さんのほうを見ると、彼女は俺へニコリと微笑んだ。少しだけ首がズレてたけど、紳士な俺は何も突っ込まなかった。


「勇人くん、任せて!」


 普段ぼーっとしてる彼女を見ているからちょっと信じられないけど、大丈夫なんだろうか......


「咲さん、無理しないでね」


 俺の言葉に彼女は少し頬を染めながら「うん」と応えてくれた。


 食事会は具体的に取材当日の話が一切されず、「パパ、サウナつくっちゃうぞ!」で終わった......当日取材を受けるのは俺ということだけは決まったが、全て任せるらしい。

 親父さん、オーナーなんじゃ。ま、まあ蜜柑さんとずっと一緒だからいいか。



◇◇◇◇◇



――翌日夜

 ま、まじかよ。親父さんの宣言通り男湯女湯共にサウナと岩盤浴の施設が増設されていた......やっつけで造りましたって感じではなく、本格的なものだ。この宿の温浴施設は凄いぞ。

 露天風呂になっている総檜の風呂。内湯は岩風呂と香草を混ぜた緑色の湯が入った香草風呂の二種。

 今回追加された施設は内湯から扉をくぐったところにあった。


「す、すごい!」


 全体が古代ローマ風の意匠が施されたサウナになっており、扉をくぐると中央部に出る。中央部は一段高くなった円形の個所があり、ここで寝そべり汗を流すことが出来る。

 中央からコロッセウムのように円形に高くなったところへ続く階段があり、上は一人ずつ寝れるようになっていて、黒い小さな石が敷き詰められていた。これが岩盤浴施設なんだろう。


 広さがまたすごい、岩盤浴施設だけで二十。中央部ではゆったりと十人以上は余裕で寝転べる。咲さんが中央部の段差に腰かけて俺に手を振っていた。

 何だこれは! こんなの建築するなら工期半年は余裕だって。何をしたんだろう。気になるけど聞けない。怖すぎる!


「咲さん! これは一体?」


「どうかな。勇人くん」


「凄すぎてもう何て言ったらいいのか」


「気に入ってくれた?」


「ええ。ここまでのサウナと岩盤浴、なかなかありませんよ!」


「じゃあ、勇人くん脱いでね」


「ぬ、脱ぐんですか?」


「うん」


 唐突にここで脱げって咲さん、どうしちゃったんだ。彼女の顔を伺ってみたが、ニコニコ俺に微笑んでいるではないか。可愛いが、何故?


「タオル持って来るから、脱いで待っててね」


「あ、ああ。今からこのサウナを試してくれってことですね」


 なるほど。そういうことか。いきなり脱げって言うから何事だって思ったよ。サウナが問題ないか俺以外試すことができないからな。みんな人間じゃないし。

 それならそうと言ってくれれば。


 いそいそと服を脱いでから気が付いたが、咲さんにタオル持ってきてもらう必要あったか? 俺が裸で待つって......すでに後の祭りだった。すでに咲さんが戻って来ている......

 後ろを向いて咲さんからタオルを受け取ると、中央の段差に腰かけタオルを上に乗せた。


「咲さん、ありがとうございます。後で報告しますね」


「うん」


 咲さんが頷くも、立ち去っていかないんだけど。あれ? 最初のお試しだから、何かあるといけないからここにいるの? ちょっと恥ずかしい......

 さっきから、凝視されてるし。



――二十分後

 かなり汗をかいてきたが、まだ行けそうだ......サウナはとても気持ちよく汗をかくことができて施設に問題ないように思う。

 しかし、汗で濡れてタオルがちょっと......


「勇人くん、すごい汗」


 咲さんがにじり寄ってきて、手に持ったタオルで俺の顔を拭いてくれる。


「ありがとう。咲さん」


 甲斐甲斐しく咲さんは俺の肩、背中、胸と汗を拭いてくれたが、タオルが太ももへ。え、ちょっと。そんなところまで吹くといろいろ不味いことに。


「さ、咲さん、下はちょっと」


「ん? いっぱい汗かいてるよ」


 俺の言葉を無視してあんなところまで吹こうとする咲さん。汗でびっしょりになった俺の下半身に乗せたタオルに手をかけてくる。え? それは。不味いですって。咲さん!

 下半身のタオルが彼女にはぎ取られると、新しいタオルでそこの汗を拭いてくれる咲さん。あ、そんなところの汗を取ったら......


「さ、咲さん」


「ん? どうしたの? 体調が悪いの?」


 俺の胸に手を当て、咲さんは思案顔だ。い、いま手を当てないで欲しいんだ。ひんやりとして気持ちいいんだけど、あれがあれしたら不味いですよ。


「ん、少し体調が変かも」


 咲さんは一人納得して、俺に突然抱き着いた。咲さんはいつもの茜色の浴衣を着ていたけど、彼女の柔らかい感触が俺に伝わって来る......今は冷たい彼女の体がいつもより心地いい。

 俺の体はサウナで熱せられてるから。


「さ、咲さん?」


 ダメですって! あれがあれしちゃってますって。俺が慌てているのにも関わらず、咲さんに唇を口で塞がれる。


「目を瞑って......」


 咲さんの言葉に言われるがままに目を瞑る俺。彼女は舌で俺の口を開くと、いつかのモゾモゾの感触が口内に入って来る。


「ん......」


 咲さんの色っぽい声が漏れる。

 数秒してから咲さんの口が離れると、俺はものすごく気分爽快になっていた。まるで悟りを開いたかのような頭脳の冴え。ヒャッハー!


「ご馳走様」


「なんかすごく気分が良くなりました」


「そう。それは良かったわ。またお願いするわね」


 何のことか分からなかったけど、その日はこれでサウナの検証も終わり、いよいよ明日取材が来る日となった。

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