自己紹介
「お…おい!どういうことだ説明してくれ。」
「……ははは、冗談だよな。」
「誰か!!誰かぁ!!」
「ママ…ママに会いたい……」
みんながいっせいに騒ぎ出す。
泣き崩れるもの、現実逃避するもの、明らかにみんなが動揺している。
逆ババ抜き?… 状況が読み込めない。
空も動揺しているうちの1人だった。
「は?いみわかんないんだけど。みんな騒いでバカじゃない? ウチはやんない!」
わがままそうな1人の女の子がそう叫ぶと足元にカードを叩きつけようとする。
次の瞬間バチッ!という音と共にその子が一瞬震え、そのまま倒れた。
え?…
みんなが困惑する中、隣からピッピッと電子音が聞こえたかと思うと、隣にいた男もその子と同じ状況になり倒れた。
一瞬にしてロビーが静かになる。
みんなの表情が緊張感と恐怖心に包まれる。
カードを破棄しようとすると電気がながれ、ペアの人も死ぬ……
さっきの館内放送が脳内で繰り返された。
カチッカチッカチッ……
ロビーにある古びた置き時計の秒針の音がロビーにこだまする。
「……し…し…死んでる!!」
「っ…キャーー!!!」
しばらくの静寂の後、誰かの声でまたみんなが騒ぎ出す。
嗚咽し涙を流している子が目にはいる。
「み…みんな! とりあえず落ち着いて!
状況を整理しませんか?」
いかにも真面目そうな眼鏡をかけたやつがそういってみんなを静め、徐々にみんなが、静かになる。
「とりあえずこの人達の知り合いはいますか?」
お互いに顔を見合わせるが名乗り出る人はいない。
「…いませんか。
僕の考察だとたぶんみんな見ず知らずの他人なんだと思います。
ゲームに参加するのは強制だと思うのでこれから一緒にいる上で簡単に自己紹介しませんか?
ちなみに、僕の名前は中山 修介 。今、高校3年生です。
気がつくとここに連れてこられていました。
あなたは?」
「…っあ……高橋 愛梨です。こ…高校3年生です。」
みんなの目線が高橋 愛梨の隣にいた空にうつる。
「長谷川 空です……高校3年生です。気が付いたらここにいました…」
「神谷 龍。同じく。」
金髪にカチューシャの男が続く。
そのまま次の人。また次の人。
51人みんなが終わる頃には7時をすぎていた。
高校3年生で知らない間に連れてこられていたのはみんな一緒だった。
「俺、部屋戻るわ。
ここでこうやっていても誰がジョーカーかわからないしだったら部屋にいたほうがいい。」
神谷 龍がそういい非常用階段にむかう。
神谷のいかにも不良の見た目に誰もとめることができない。
「私も。」
「俺も。」
そういい1人、また1人とロビーを後にする。
強張る顔も泣き腫れた目も決意の決まった顔も、表情こそみんなそれぞれだが会話一つなく階段を上る様は独特な雰囲気を醸し出し余計声という音を拒んでいるように見える。
空がロビーを出る頃、ロビーにはほとんど残っていなかった。
2階に上がる踊り場にある緑色の掲示板があり、ふと目がいく。
さっきロビーにくるときには気づかなかった…
そこには部屋番号が書いてあり、空は305号室だった。
3階への階段を上がり、部屋への廊下へ入ると、階段にはなかった絨毯に足音が吸い込まれる。
幾分か進むと305と黒字でかかれた錆びのういた銀色の扉が目につく。
部屋の前に着くと一つ深呼吸をし丸いドアノブに手をかける。
もし、開けて誰かいたら…
おそるおそるドアノブを回し扉を開ける。キィー…という音が恐怖心に拍車をかける。
部屋の全貌が見えるが誰もいないようだ。
ゆっくり部屋にはいり扉の鍵をしめようとする。
鍵がない?…
鍵穴は塞がれ鍵をしめることができないらしい……ジョーカーが夜入ってくるかもしれない。
置いてあるパイプベッドに腰をかけるも扉の方が気になってしまう。
落ち着け…落ち着け…
そうだ、確か俺の数字は…
そう思いながら確認するかのように、ポケットからカードを取り出す。
なんてことない普通のトランプに♣︎の5が描かれている。
てことは♠︎の5とペアか……てことは♠︎の5を持っている人が死ぬと俺も死……ぬ?………
その瞬間さっきの亡くなったペアの人達がフラッシュバックし体中から嫌な汗が溢れ出す…
……そういえば部屋に武器があるって言ってた。
慌てながら部屋中を探す。
ベットの下。トイレ。浴槽の中。
…壁に備え付けられている机の引き出しを開けるとそこにそれはあった。
…木の枝?……
僅か20cmほどの長さの木の枝。
細く、簡単に折れてしまうだろう。
ガッカリしながらベットに倒れこむ、緊張感で張り詰めていた心、体がゆっくり解放されていく気がして気がつくと眠りに落ちていた。