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アル中の歌  作者: 岩本翔
91/260

アルコール依存症91

悪友が充血し涙ぐんだ眼を見開き、行雄の手を握ったまま湖に向かって思いを切るようにダッシュした。

濃霧立ち込める湖畔。




悪友が己の臆病風を吹っ切るように涙を手の甲で再度拭い言った。




「行くぞ!」





悪友と手を繋いでいる行雄が恐怖に小刻みに震える唇を噛み締めてから答える。





「わ、分かった」





悪友が充血した眼を見開き、行雄の手を握ったままダッシュして、行雄が断末魔の絶叫を上げると、その声が濃霧に吸い込まれ、二人の人間の形を象り、水の金属音がその姿を黒光りする濃霧の黒い影にして、二人は酒の湖に身を沈めた。




悪友が黒い濃霧の象られた苦しみもがく行雄の黒い影を水の中で垣間見た刹那、息苦しさと共に訪れた水の金属音の如く侵入して来る大量の酒に、全身の細胞が瞬時に毒され、気管が詰まり、呼吸が出来なくなり、むせ喘いで、めくるめく意識を失うと、それに呼応するように呼吸が出来ず苦しみもがいていた行雄が再度大量の酒を飲み込みむせて喘ぎ、水の中で断末魔の絶叫を上げた。





しかし大量の酒の湖の中で、その声は行雄の耳に矛盾して何故か聞こえ、その絶叫が水の金属音に変わり、そのいたたまれない矛盾違和感に悶え「もう、駄目だ、死ぬ」と独りごち観念した瞬間、意識が遠ざかり、水の中で行雄は静かに瞼を閉じた。





二人の黒い濃霧に象られた黒い影を、酒の水が矛盾して変換白い濃霧に変え、その濃霧が酒の湖の中で無重量状態の如く意識を失った二人の黒い影の身体を漂わせ、やがて二人の濃霧の黒い影を水の金属音が吸収し、細胞分裂のように分子構造に縮小させ、音もなく掻き消して行った。

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