アルコール依存症90
「しのごの言わずに二人して手を繋ぎ、愛しの婆さんが待っている湖に飛び込もうぜ。相棒」と悪友が涙ながらに行雄に言った。
行雄がしばし絶句して固唾を飲み込んでから言った。
「おい、お前自分が何をしようとしているのか分かっているのか?」
悪友が力強く頷き答える。
「当然だ。俺はお前と一緒ならば死んでもいいと言っているのだ」
行雄が眼を見開き瞬きもせずに悪友を見詰め言った。
「お前、死んだら全てが無に帰すのだぞ。もう何もかもパーになるのだぞ。こうして俺と話しも出来なくなるし、家族とも未来永劫会えなくなるのだぞ。その辺りの事情、分かって、お前は物を言っているのか?」
悪友が行雄の言葉を愛でるように親愛溢れる表情をして微笑み言った。
「そんなの死んでみなければ分からないじゃないか。と言うか来世では俺とお前は実の兄弟になれるかもしれないし。絶望を裏側から支えているのは希望だからな。俺はその希望を捨てたくないのさ」
行雄が涙ぐみ、それを手の甲で拭い言った。
「正直言うと、俺は意気地無しだから一人で死ぬのは恐かったのだ。お前が道連れになってくれるのは嬉しい限りなのだが、本当にいいんだな?」
悪友が熱い涙が流れ出るがままに、それを吹っ切るように言った。
「しのごの言わずに二人して手を繋ぎ、愛しの婆さんが待っている湖に飛び込もうぜ。相棒」
行雄が恭しく頷き涙声で答える。
「分かった」




