アルコール依存症86
「お前は何が何でも生き延びて、愛しい婆さんを助けるんじゃなかったのか?」と悪友は行雄を諭した。
悪友が続ける。
「お前は何が何でも生き延びて、愛しい婆さんを助けるんじゃなかったのか?」
行雄が悪友の手を振りほどき、めくるめく湖畔に戻って、切なく湖方向を指差し言った。
「婆さんならば、もうこの湖に飲まれていない筈だからこそ、俺も後を追い掛けて心中するつもりなんだ。お前も友達ならば、そんな俺の切ない心中と言うか気持ち理解出来るだろう、違うのか?」
悪友が強引に行雄の手を引っ張り、湖畔から山林へと点を結ぶ瞬間移動をしてから言った。
「婆さんは死んではいない。と言うか俺は最初水の金属音を聞いた時、婆さんの命の呼び声を聞いたと言ったではないか?」
行雄が手を振りほどき否定する。
「嘘だ。お前はそんな事言ってはいない。不条理な言葉の羅列をして、この湖畔に繋がる妄想幻覚を濃霧に訴え強化しただけではないか」
悪友が素早く行雄の手を掴み言った。
「ならび尋ねるが、お前には婆さんが死んだという確信はあるのか?」
行雄が再び泣き笑いの表情を作り言った。
「確信は無いが、俺はこの酒の湖に飲まれて死に、婆さんと一体化出来ると信じているのだ。婆さんの呼び声は俺にはそう聞こえるのだ」
悪友が行雄の手を力強く引き言い切る。
「死んだ婆さんを救うのではなく、お前は生きた婆さんを救いたいのだろう、違うのか?」
行雄が困惑し答える。
「それはそうだが、俺は酒の湖になりたいと切に思っているわけだ。お前も友達ならば分かってくれ」




