アルコール依存症84
悪友が行雄の手を引っ張ると瞬時湖から遠ざかり、山林の中に二人は瞬間移動したのだが、行雄が悪友の手を振りほどくと湖に戻ってしまうを繰り返した。
悪友が行雄の手を引っ張ると瞬時湖から遠ざかり、山林の中に二人は瞬間移動したのだが、行雄が悪友の手を振りほどくと湖に戻ってしまうを繰り返した。
悪友が言った。
「おい、湖から離れられるではないか?!」
行雄が白目を剥き、せせら笑い答える。
「でも俺が手を振りほどくと湖に戻り、元の木阿弥じゃないか」
悪友が喚き散らす。
「お前が手を振りほどかなければお前は助かるのだ。だから手を振りほどくんじゃない!」
行雄が涙ぐんだまま苦笑いして言った。
「俺は酒の湖に沈んで愛しい婆さんと一緒になり、永遠に愛を育みたいのだ。だから邪魔をするな?」
「酒の湖に沈んだって、愛しい婆さんはいやしないぞ。生きるんだ。生きろ、それしかお前の道は無い!」
行雄が再び手を振りほどき、湖畔に戻るのをやり切れない表情をして確かめてから言った。
「もういいよ。俺は酒に魂売った人間なのさ。だからお前一人で行け。それに…」
「それに何だ?」
行雄が涙ぐんだまま目を細め物静かに言った。
「お前の手を引っ張る力は弱すぎるんだ」




