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アルコール依存症83
「駄目だ、お前一人では行かせない。こっちに来るんだ!」と悪友は喚いた。
諦める事なく悪友が行雄の手を引っ張るのを行雄が容易く振りほどき再度言った。
「お前がいくらこの湖から遠ざかろうとしても、この悪夢の酒の金属音の囁く湖は、遠ざかるのを許してくれないじゃないか。それが証拠に俺達はこの夢幻湖からちっとも離れてはいないぞ、違うのか?」
悪友が涙ぐみながら喚いた。
「いや、逃げるんだ、この場所から逃げなければ俺達の命は無いぞ!」
行雄が悪友の言葉を愛でるように微笑んだ後、豹変し、おもむろに言った。
「お前は行け。お前一人ならばこの湖から離れられるんだ、きっと。だからお前一人で行け?」
行雄の手を再び取り離す事なく悪友が喚き続ける。
「駄目だ、俺と一緒に来い、来るんだ!」
行雄もやる瀬なく涙ぐみ答える。
「いいよ、お前一人で帰れ。俺は一人でこの湖になるから心配するな」
悪友が執拗に手を引っ張り続け喚いた。
「駄目だ、お前一人では行かせない。こっちに来るんだ!」
「いいよ、もう行け」
「駄目だ!」
「行け」
「駄目だ!」




