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アルコール依存症82
「と言うかこの水の金属音は俺の体内を巡る酒の血液が音を立て、生きろ、生きるんだと言っている愛しい婆さんの声ではないか。お前にはそう聞こえないか?」と行雄が言った。
立ち止まり、濃霧を吸い込み出し、行雄が狂い喜悦しながら言った。
「おい、この霧酒酒の味がするぞ。お前も吸い込んでみろ。水の金属音の酒の海で一緒に泳ごうぜ」
その時、又しても濃霧を象った人間が横切り、水の金属音が瞬時耳を掠めた後、濃霧に掻き消されるように湖に飲まれた。
悪友が行雄の手を力の限り引っ張り喚く。
「駄目だ、そっちに行くな、そっちに行ったら酒の金属音に飲まれて死んでしまうぞ!」
行雄が駄々をこねるように手を振りほどき言った。
「こんなのはお前と俺が共有する夢幻ならば、そこで俺がアル中で犬死にしても、お前は死にはしないさ。と言うかこの水の金属音は俺の体内を巡る酒の血液が音を立て、生きろ、生きるんだと言っている愛しい婆さんの声ではないか。お前にはそう聞こえないか?」
悪友が再度行雄の手を引っ張り諭すように言った。
「こっちに来るんだ。おい、しっかりとしろ、お前死ぬんじゃない!」




