アルコール依存症71
「俺はそう感じるんだ」と悪友は無機質に呟いた。
音から逃げるように二人はテントを畳み、濃霧に閉ざされた深夜の山林を手探りで移動する。
行雄が不安感をそのままに口に出し言った。
「しかし何も見えないし、この女の悲鳴のような金属音はこの濃霧が作り出しているのか?」
懐中電灯で濃霧を目まぐるしく照らし出しながら悪友が答える。
「音を発する霧なんか無いだろう」
邪魔な枝を腕で掻き分けてから行雄が言った。
「ならばこの音は一体何だ?」
一つ深呼吸してから悪友が答える。
「分からない。でもこれは敵が繰り出している攻撃である事は間違いないだろうな」
行雄がため息をついてから言った。
「移動したのに、この音ぜんぜん止まないぞ。それどころか俺達を追い掛けて来ているように強まっているじゃないか?」
「そうだな…」
行雄が声を荒げる。
「そうだなって、このままでは俺達切り刻まれてばらばらにされ犬死にだぞ」
悪友が間を置き答える。
「とにかく水のある場所に辿り着こう」
「又お前の矛盾出鱈目インスピレーションか。水の醸し出す金属音が、何故水で止むんだ?」
濃霧を凝視し悪友が無機質な口調で答える。
「俺はそう感じるんだ」




