アルコール依存症69
「滴る水が金属音と混じって、こちらに近寄って来る微かな音が聞こえるじゃないか?」と悪友が耳を澄まし言った。
濃霧の中、テントに潜り込み二人はまんじりともせずに、話しを交わす。
行雄が言った。
「しかし、あの婆さんと水の関連性など全く見当が付かないな。と言うかあの婆さんは汗っかきでもないし、いつも水を飲んでいる印象も無いし、水なんていう感じ、まるでしないぞ」
悪友が答える。
「いや、これは全く俺のインスピレーションで、漠然と水と言っただけで、具体的な水との関連性を論ったわけではないんだ」
行雄が思わず苦笑いしてから言った。
「何だ、その言い回しは。訳が分からないぞ。もっと具体的に言ってくれないか」
その時唐突に悪友が人差し指を唇に当てて耳を澄まし言った。
「おい、何か聞こえなかったか?」
行雄が同じように耳を澄まし答える。
「いや、俺には何も聞こえないぞ」
悪友がじっと耳を澄まし再度言った。
「滴る水が金属音と混じって、こちらに近寄って来る微かな音が聞こえるじゃないか?」
行雄が訝り言った。
「おい、滴る水が金属音と混じる音なんか、この世には無いぞ。気は確かか?」
悪友が首を振り言った。
「いや、微かだが、俺の耳には確かに聞こえるぞ」




