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アルコール依存症59
「マザコンでも何でもいいんだ。婆さんは俺にとって最愛の人なんだ。それを助けて何処が悪いんだ?」と行雄はしみじみと言った。
悪友が尋ねる。
「何故お前はそれ程までにその婆さんにこだわるのだ?」
行雄が答える。
「俺は何をやっても駄目なアル中人間で、劣等感の塊だし、辛気臭いし、取り柄が何もない、そんな俺の心をあの婆さんは心底理解してくれて、優しくしてくれたんだ。まるで母親のようにな」
悪友が一声唸り言った。
「しかし、それは男女間の恋愛ではなく、母親に対する恋慕、マザコンの類いなのではないのか?」
行雄が再度傷口を押さえる動作をしてから言った。
「マザコンでも何でもいいんだ。婆さんは俺にとって最愛の人なんだ。それを助けて何処が悪いんだ?」
「いや、俺は悪いとは言ってはいないぞ」
行雄が悪友を睨みつけ言った。
「ならば能書き言わずに俺に付き合ってくれればいいじゃないか?」
悪友が痛みに渋面を作り苦笑いしてから答える。
「分かった」




