52/260
アルコール依存症52
「殺されたっていい。その前に俺は婆さんへの想いを遂げてやるさ」と行雄は満面の笑みを湛え言った。
婆さんへの想いを遂げる為に行雄の病状はみるみる回復して行った。
それは奇跡的とも言える回復力で、医者も眼を見張る程のものだった。
浮腫が消え、視力も回復し、不治の病の筈の糖尿病がまるで完治していくようにも見えた。
悪友が驚きの表情を顕にして言った。
「凄いな。何だその回復力は。人間離れしているではないか。見果てぬ恋を果たす為の火事場の底力か?」
満面に笑みを浮かべつつ行雄が言った。
「おうよ。これが恋の力というものよ。俺もまだまだ捨てたものではないという事さ」
悪友が念を押す。
「しかし何度も言うが山に赴き俺達は殺されるかもしれないのだぞ」
行雄が前向きな笑みを湛えたまま言った。
「殺されたっていい。その前に俺は婆さんへの想いを遂げてやるさ」




