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アルコール依存症50
妄想だろうが幻覚だろうが、行雄はアルコールを飲まなくとも希望が持てたのだから、それに付き合おうと悪友は考えた。
悪友は考える。
行雄が見た婆さんは多分妄想幻覚の類いだろうと。
だがそれはそれで良いではないかと悪友は考える。
行雄はアルコールを飲まなくとも希望が持てたのだから。
妄想だろうが何だろうが消えかけた命が、その灯を再び燃やしているのだから。
このまま行雄が死んでしまうよりは数段増しだと悪友は思う。
行雄とは腐れ縁で長い付き合いだ。
死なれては余りにも寂しい。
そんな悪友の思いを度外視して行雄が気丈に言った。
「お前はもう一度あの爺さんを探してくれ」
悪友が反論する。
「しかし余り変な動きをしても逆に怪しまれるしな」
行雄が焦れて言い放った。
「怪しまれない程度に病院全体を探してくれ!」
ここで再び悪友は考えた。
やがて行雄が抱いた希望が妄想幻覚の婆さんを再び見せるだろう。それまでは行雄の命令に従い、探す振りをしようと。
その思慮をひた隠し、悪友は答えた。
「分かった」




