アルコール依存症235
そう言って、万感胸に迫る思いをふっ切るように死刑囚は電話を切り、ひとしきりすすり泣いてから、婆さんに向かって頭を下げ一礼した。
手配して貰い、死刑囚が一人娘と電話で最期の会話を交わす。
電話の向こうで幼子が言う。
「パパ、今何処にいるの?」
溢れ出る涙を堪え、死刑囚が優しい口調で答える。
「パパはね、今遠い所にいるんだよ…」
「いつ、会えるの?」
死刑囚が溢れ出る涙を指でそぞろ拭ってから答える。
「お前がね、いい子でいたら、パパきっと近い内に会いに行くよ。だからいい子で待っているんだよ」
「嘘だ。ママはもうパパには会えないと言っているよ、パパ嘘つかないでよ!」
死刑囚が涙を流しながら、泣き笑いの表情を浮かべて言った。
「そんな事は無いよ。いい子でいたら、きっと近い内にパパ会いに行くからさ、待っていてよ」
「嘘だ。いい子でいたってパパはいつもお家にいないじゃない。パパの嘘つき!」
感極まり死刑囚が嗚咽しながら言った。
「もうパパ、お仕事なんだ。だからもう電話切るよ。バイバイ」
そう言って、万感胸に迫る思いをふっ切るように死刑囚は電話を切り、ひとしきりすすり泣いてから、婆さんに向かって頭を下げ一礼した。
「ありがとうごさいました」




