アルコール依存症216
「そうじゃ。身代わりの呪術で間違いを犯せば、その間違いを犯した一味が連帯責任として命を差し出すのは掟じゃからのう。速やかにその人選に入ろう」と婆さんは一同に向かって告げた。
集中治療室に入って、行雄を見るなり、婆さんが車椅子からゆっくりと立ち上がった。
その奇跡を見て老婆や医者、看護師が驚愕の表情を作り頭を垂れたのを構わず、婆さんが手を伸ばし瀕死の行雄の頭を撫でながら言った。
「行雄よ、お前がわしを助けてくれたのじゃな。それなのにこんな変わり果てた姿になって、可哀相に。じゃがもう心配するな、今度はわしがお前を助ける番じゃ。だから行雄、もう少しの辛抱じゃからのう」
そう言って婆さんが向き直り、車椅子を手で払い退けるようにどけて、仁王立ちしてから老婆に向かって言った。
「お前はわしを助ける為に、この者を身代わりとして選び、その呪いを以って、わしをこの者に引き合わせ、結果としてわしは甦ったわけじゃ。それには素直に感謝しよう。じゃがお前は引き合わせるだけの呪術を以って使えば良かったのじゃが、この者を身代わりとして死刑にするという間違いを犯した。だからこそこの者はこんな変わり果てた姿となったわけじゃ」
婆さんが威儀を質すように一息つき話しを続ける。
「その結果我々の仲間内から、この者の身代わりとなって命を捧げる者を人選しなければならなくなったわけじゃ。今からその人選に入ろうではないか」
老婆が頭を垂れたまま眉をひそめ尋ねる。
「我々の仲間内から命を捧げる者を人選するのですか、先生?」
威厳を保ちつつ婆さんが告げる。
「そうじゃ。身代わりの呪術で間違いを犯せば、その間違いを犯した一味が連帯責任として命を差し出すのは掟じゃからのう。速やかにその人選に入ろう」
固唾を飲み小刻みに震えながら老婆が言った。
「わ、分かりました。ですが他の死刑囚二人についてはどうしましょう、先生?」
婆さんが即答する。
「行雄が甦り次第、釈放するのじゃ」




