アルコール依存症209
「ば、婆さん、俺だよ。行雄だよ。婆さん、俺と一緒に婆さんはよく酒を飲んでくれたじゃないか、婆さんは俺に誰よりも優しくしてくれたじゃないか、婆さん、思い出してくれよ、お願いだから、婆さん?!」と行雄が涙ながらに訴えた。
三人が老婆と大勢の看守に引き連れられて、警察病院の別病棟に移され、老人病棟の個室に連行されると、そこには行雄が捜し求めていた婆さんが車椅子に乗り待ち受けていた。
だがその婆さんは明らかに痴呆の様相を呈しており、麻痺した顔面がいびつに曲がっていて、かつて行雄の知っていた婆さんとは全く別人であり、瞬きもせずに狂ってぼんやりとした目付きをして行雄を凝視し、言った。
「あんた、誰だ?」
思わず行雄は婆さんに平伏すように泣き崩れ声を限りに喚いた。
「ば、婆さん、俺だよ、婆さん、行雄だよ、婆さん?!」
婆さんが怪訝な顔付きをして言った。
「行雄、わしはそんな者知らんぞ。あんた誰だ?」
行雄が涙ながらに訴える。
「ば、婆さん、俺だよ。行雄だよ。婆さん、俺と一緒に婆さんはよく酒を飲んでくれたじゃないか、婆さんは俺に誰よりも優しくしてくれたじゃないか、婆さん、思い出してくれよ、お願いだから、婆さん?!」
瞬きもしないまま婆さんがいきなりにんまりとしてから言った。
「あんた俺に酒を飲ませてくれるのか。だったらあんたは何ていい行雄とかいう人なんだろう。まるで仏様のようじゃ」
そう言って婆さんがにんまりとしたまま行雄に向かって合掌するのをを見て、行雄は感極まり再度叫んだ。
「婆さん!」




