アルコール依存症206
「偉そうでも何でもないさ。アル中のお前だからこそ、婆さんのアル中の苦しみ気持ちが分かるのだから、その命を助ける事は極めて立派な行いだと俺は思う」と悪友が行雄に言った。
間髪を入れず悪友が忠告する。
「お前はまだアル中が治っておらず、その結論はおかしいと俺は思う」
虚ろな眼で天井を凝視しつつ行雄が尋ねる。
「な、何故おかしいのだ?」
悪友が答える。
「お前が婆さんに一目会いたいという気持ちは、俺達二人も同様だから痛い程分かるのだが、婆さんを助けたいという願望は俺達が当初から抱いていた切望であり、それを偉そうな願いだと言うのは変だと俺は言いたいのだ」
行雄が反論する。
「だ、だがアル中の俺なんかが窮地に立たされた婆さんを助けたいという願望を抱くのは、ま、正に偉そうではないか。ち、違うのか?」
悪友が言った。
「偉そうでも何でもないさ。アル中のお前だからこそ、婆さんのアル中の苦しみ気持ちが分かるのだから、その命を助ける事は極めて立派な行いだと俺は思う」
行雄が天井を見詰めたまま泣き笑いの表情を浮かべ、尋ねる。
「な、ならばお前は俺の決心をどう変えればいいと言うのだ?」
悪友が答える。
「婆さんに一目会い、何とか婆さんの命を助けたいと修正するべきだろう」
行雄が反論する。
「だ、だが俺が死んで、婆さんが助かる保障なんか何処にも無いじゃないか?」
横たわったまま軽く挙手して悪友を制するように死刑囚が行雄の質問に答える。
「ここまで来たら、それを信じるしかあるまい」




