アルコール依存症200
「俺は子供に会う夢を犠牲にして、あんたにその夢を託したのだ。俺は子供がどうしようもない子であっても心から愛していた。だから、あんたには相手がどうしようもない痴呆状態だろうが、俺の代わりに会って、愛しているよと、その気持ちを伝えて欲しいのだ…」と死刑囚が行雄に向かって言った。
食事を摂り、順次シャワーを浴びて、銘々ベッドに横たわったところで行雄が悪友に話し掛けた。
「う、美しい思い出は美しいままにしておいた方が綺麗に死ねるのかな?」
仰向けに横たわり、消灯された病室の天井を凝視しながら悪友が答える。
「俺はそう思う」
ここで並んでベッドに横たわったいる死刑囚が穏やかな口調で話しに加わった。
「俺は会った方がいいと思う…」
薬の効能に眠気を催している行雄がだるそうに尋ねる。
「そ、それはどうしてだ?」
死刑囚が答える。
「本当に愛しているならば、例え痴呆になっていようが、死に損ないだろうが関係なく、自分の愛を貫く為に会うべきだと俺は思うんだ」
行雄が尋ねる。
「そ、それは相手がどんな状態だろうが一目会って、今生最期の別れを告げろという意味か?」
死刑囚が答える。
「そうだ。俺は子供に会う夢を犠牲にして、あんたにその夢を託したのだ。俺は子供がどうしようもない子であっても心から愛していた。だから、あんたには相手がどうしようもない痴呆状態だろうが、俺の代わりに会って、愛しているよと、その気持ちを伝えて欲しいのだ…」




