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アルコール依存症196
「アル中が昂じての脳卒中だ」と悪友の質問に老婆は答えた。
そう告げて看護師を引き連れ立ち去ろうと踵を返した老婆に悪友が食い下がる。
「こいつの愛しの婆さんを甦らせると言う事は、婆さんは何かしらの病気なのですか?」
老婆が向き直り、悪友を覗き込むように見詰め尋ねた。
「そんな事を聞いて、お前は何がしたいのだ?」
悪友が機転を利かせて言った。
「こいつが最期の嘆願を決める時に役立つと思いまして…」
老婆が悪友から視線を外し、一点を見詰める眼差しをしてから、おもむろに答える。
「アル中が昂じての脳卒中だ」
瞬間的に行雄が涙ぐみ尋ねる。
「ば、婆さんは、い、意識不明の重体なのですか?」
老婆が答える。
「いや、意識はある。だが半身麻痺で歩けず、痴呆状態になってしまっているから正気を甦らせるのだ」
悪友が再度畳み掛ける。
「その病状を、こいつを死刑にしてどうやって治すのですか」
老婆が鼻を鳴らし却下するように言い放った。
「以上。教えるのはここまでだ。後はその者の最期の嘆願を考えて全員待機していろ」




