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アルコール依存症19
「この点滴が終わったら俺は死ぬのか、母さん?」と行雄は呟いた。
悪友の一、二、三という声が聞こえる筈の無い点滴の落ちる音と重なり、その音が寂しげに行雄の耳を打つ。
その聞こえる筈の無い点滴の音は優しい母の温もりの声に似て、行雄はベッドの上で点滴が滴るように涙ぐみ動けないまま言った。
「母さん、俺は死ぬのか?」
点滴の音なき音の母の声が悲しげに言った。
「行雄死なないで、行雄死なないで、行雄死なないで…」
行雄は涙ぐんでいる瞼を閉ざし言った。
「この点滴が終わったら俺は死ぬのか、母さん?」
母の声が点滴の音なき音を行雄の心臓の動悸の音に変え、その音が静かに己の終焉を迎える時と重なり、行雄は再度言った。
「母さん、俺死にたくないよ。母さん…」
その声を悪友の怒鳴り声が遮った。
「おい、起きろ、鹿を轢いたぞ!」




