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アルコール依存症173
「そんな者はいない…」と看守が双眸の瞳を微かに動かしつつ言った。
程なく看守が現れ三人に向かって事務的に告げた。
「上層部の許可が下りた。その者は病院搬送になる」
悪友が鉄格子にかしずき食い下がる。
「もう一つの自分の嘆願は通ったのですか?」
看守が悪友を冷たい眼差しで凝視し言い放った。
「ああ、それも許可された。但しこれでお前の最期の嘆願は終了し、後はお前は死刑執行あるのみの身になったわけだ」
悪友がすかさず尋ねる。
「すいません、こいつの愛しの婆さんはその病院にいるのですか?」
咄嗟に看守が眼を見開き言った。
「そんな者はいない」
悪友が念を押すように強い口調で尋ねる。
「本当にいないのですか?!」
看守が双眸の瞳を微かに左右に動かしつつ答える。
「そんな者はいない…」




