アルコール依存症170
「痒い、痒い、この虫が這う痒みは、酒の命じゃねえか、針の酒じゃねえか、痒い、痒い、酒だ、酒を飲ませろ、馬鹿野郎!」と行雄の禁断症状はエスカレートして行った。
悪友の言葉通り、行雄の禁断症状はエスカレートして行き、暴力的で自傷行為を孕む形が自然発生的に顕在化して来た。
狂い白目を剥いて、涎を垂らし、我を失いつつある行雄が、己の身体を手で掻きむしりながら喚く。
「痒い、痒いぞ、酒の虫がのたうちまわり死にそうになって、俺の血液をぐるぐる流しているから痒いんだ、痒い、痒い、痒い、痒い、痒いぞ、血が水になるから上り痒いぞ、たこの足鯉のぼりだ、痒い、痒い、痒い、何とかしてくれ、もうすぐ電車が来る前に虫のレールとなった血液虫に酒飲ませろ、おい、痒い、痒いぞ、痒いんだ、何とかしろ、馬鹿野郎、酒飲ませろ、馬鹿野郎、雲の流れる酒の虫がうたた寝する枕のレールの鯉のぼり、回る酎ハイ持って来い、そして虫に愛された扇風機に俺はなるのだ、ブーン、ブーンと飛んだ、痒い、痒い、痒い、痒い、酒、酒、酒を飲ませろ!」
それを目の当たりにして唖然としている死刑囚を尻目に悪友が声を限りに怒鳴る。
「ここには酒なんか無いぞ、おい、しっかりとしろ、しっかりするんだ!」
行雄が悪友に白目を剥いて、敵愾心を顕にして喚く。
「痒い、痒い、この虫が這う痒みは、酒の命じゃねえか、針の酒じゃねえか、痒い、痒い、酒だ、酒を飲ませろ、馬鹿野郎!」
そう喚いて、ベッドの上でのたくりながら手で全身を掻きむしっている行雄を指差し、悪友が声を限りに喚き看守を呼んだ。
「看守さん、すいません、来て下さい、看守さん!」




