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アルコール依存症146
「俺は一目二人の幼子に会いたい、それがあるから往生際が悪いのだ…」と死刑囚は言った。
死刑囚をしげしげと見詰め悪友が尋ねる。
「矛盾しているな。それならば改めて尋ねるがあんたは死に場所を探していたわけだ。だからここで死刑になるのはあんたにしてみれば本望なわけだ。それなのにあんたは往生際が悪い。それはどうしてそうなるのだ?」
死刑囚が再度涙ぐみ、それを堪えて言った。
「俺は一目二人の幼子に会いたい、それがあるから往生際が悪いのだ…」
悪友が頷きしみじみと言った。
「だから死刑執行前の最期の願いにそれを盛り込みたいのか?」
死刑囚が恭しく頷き言った。
「そうだ。と言うか、脱獄などしたら俺はその願いから逆に遠ざかる気がするので、俺は進んで脱獄の道を奨めてはいないわけだ」
悪友が物静かに尋ねる。
「成る程。あんたは幼子に会ってから死にたいのだな?」
死刑囚が再度涙を拭い気丈に言って退けた。
「そうだ」




